『天使論』笠井叡著
奴(堕天使)はその時「死」と言う自我の絶対保証だけは手渡そう
としないのだから。もしその時、僕の意識段階を裏付けている肉体の
物質性が「地球」のそれと同等であるなら、僕はたちまちあの醜悪な
有機生命体、あるいは月の食物としての生命体として再び地上に誕生
しなければならない。死において、肉体は自然や神からの借財を、問答
無用に返済しなければならないが、その時では全ては遅すぎる。要は、
生理的死の到来する前に自然からの借財を返済し、そこに早々と不動の
自我を組み立ててしまう事だ。