【桜店:店長代理】
みなさんご機嫌いかがですか? 店長代理のアガです。いつになってもどこに行っても「代理」はとれません。
JUGEMUは落語の「寿限無」からいただいた名前で、「寿(よわい=齢)に限りなし」という長寿のおまじないだそうです。父親が子供の長寿を願って長い名前をつける話です。僕たち犬は人よりも寿命が短いので、せめて健康に長生きして欲しいという願いをこめて僕のお父さんがつけました。
今日はそのお父さんの悩みのお話です。
最近、お父さんは悩んでいました。それは、今度、JUGEMUで売る「スプーン」のことです。非常によくできたスプーンなのですが、値段が高いのです。今時100円ショップに行けばスプーンなんていろんな種類が売られているのに、お父さんが売ろうとしているスプーンは630円もするのです。
「売れるかなぁ~」
それがお父さんの悩みでした。その悩みに追い討ちをかけたのがお母さんの一言です。
「売れないでしょ。そんな高いの」
悩んでいるお父さんは少し沈みました。お母さんは真正面から言いすぎです。家計を握る主婦の意見は強いのです。お母さんもさすがに言い過ぎたと思ったのか、そのあとすぐに、「この角がついているから隅のフードがねこそぎとれる」とか「このしなりが絶妙で手にしっくりきて使いやすい」などとフォローしましたが、お父さんは「それは使った人の意見。使ったことのない人にはわからない」とますます沈んでいきました。
僕も一緒に考えることにしました。どうにかお父さんを晴れ晴れとした気持ちにさせてあげなければなりません。いつも使っているやつをお母さんに見せてもらいました。
確かにしなりは良さそうです。しなりは良さそうですが、いかんせん形はいびつです。このいびつさはすぐには受け入れられないかもしれません。ちょっと中身をすくってみましょう・・・。おっと、お母さんがきっちりと、これまた同じシリーズのキャップでフタをしています。色が合っていてなかなかおしゃれです。しかし、これでは中のフードをすくうことができません。なんでこんな時にきっちりフタをしたのでしょうか? これは少し無念でした。
形がダメなら、他にいいところを探さなければなりません。ちょっとなめてみましょう。何か手掛かりを得られるかもしれません。
お、なかなかいい味がします。確かにこのスプーンはいつも使っているものですけど、お母さんはいつも洗っています。まだ少しフードが残っているというのに洗うのです。いや、それはどうでもよいこと…。洗っているのにかすかに味が残っています。犬にしかわからない程度ですが、味が残っているなんて、これは結構上物と見ました!
少し噛んでみましょう・・・。
うん、味がついています。はっきりと残っているわけではありませんが、いい塩梅(あんばい)に味が残っています。しかも、この噛みごたえも硬すぎず柔らかすぎずちょうどいい塩梅(あんばい)です。これはいけます。僕はいけると思います。
夜になってもお父さんの悩みが消えていないようでしたので、僕は思い切って提案しました。
「お父さん、どうでしょう? お客様が買いたくなるような名前を付けてみては? ただの『スプーン』ではインパクトがありません。僕は考えたんです。 『缶詰の味がかすかに残り、噛みごたえのあるおもちゃにもなる、愛犬喜ぶいい塩梅(あんばい)のしなり絶妙スプーン』。 どうですか? 買いたくなりませんか?」
お父さんは読んでいた新聞を机の上に無造作に置くと、横に置いてあった麦茶を飲みながらつぶやきました。
「そんな長い名前の商品、誰がレジに持って行くんだ?」
……レジで商品の名前読み上げる人なんていないんじゃないの?