飛んでけ、水曜日!

文学とか言語とか。ゆるく雑記。

思考の整理学。

2021-06-15 17:37:38 | 読書

友人が 外山 滋比古の『思考の整理学』(ちくま文庫)をもっと早く読んでいればよかったと言うので、私も早速読んでいる。まだ読み途中なので、理解しきれていないところがあるかもしれないが、ちょっと書く。

外山さんの書くところによると、“学校”はグライダー人間を量産する場所らしい。自ら飛ぶ飛行機人間と違って、風にのって飛ぶのがグライダー人間ということだ。世の中を発展させていくうえで必要な飛行機人間を育てていかなければならないということには賛成できる。

これを読んでいくと自分はまさにグライダー人間だと思う。グライダー人間ならグライダー人間なりに「自分は上手く飛べている」と自信を持っていればそこそこ上手くやっていける気がする。「自分には動力源がない」と卑下して飛行機人間に憧れるばかりの状態が一番悪い。グライダーでもいいと思ってやっていくか、何とかして動力源を搭載するしかないのではなかろうか。

「思考の整理」という点ではピンとこないが、ちょっと考えてみるには良い本だと思う。

朝の頭について、1日2度寝ることで頭の回る朝の時間を1日2回にしようというのは、単純で強引な気もするが面白い。私も一時期12時間周期の生活をしていたが、学校に行くのに困ったのでもうやっていない。


積読は役に立つ。

2021-06-11 11:15:32 | 読書

2018年BBCが「積読」という言葉を取り上げた記事を書いた。読もうと思って買った本を読まずに放っておいてしまうというのは世界の普遍的な現象のようだ。

「積読」というともったいないという気もするが、私は積読がとても役に立っていると思う。特に紙本では、読まずとも見えるところに置いてあるというだけで意味がある。

長年置きっぱなしだった積読本が、ある日目について一気に読んでしまうこともある。読まずとも買ってしまった本には自分でも気づかない心境や興味が現れていることがあるし、なんとなく日々目に入っていた積読本から思いがけないアイデアが浮かぶこともある。リビングに置いておけば、私が読まずとも家族が読んでいたりする。

家にある本の数と子供の成績の相関関係を示す研究もあるようで(↓URLを参照)、紙本は“そこにある”というだけでかなり影響力があるのではないだろうか。

Scholarly culture: How books in adolescence enhance adult literacy, numeracy and technology skills in 31 societies
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0049089X18300607

ただ、家に底の抜けた段ボール箱がいくつも積み重なっていることは頭を悩ませる問題だ…


理不尽ゲーム

2021-05-24 13:00:42 | 読書

サーシャ・フィリペンコの『理不尽ゲーム』(集英社・奈倉有里訳)を読了してから少し時間が経ってしまったが、感想を書く。西欧以外の翻訳文学を読むのは初めてかもしれない。ベラルーシを舞台にした小説だが、私のベラルーシについての知識はソ連から独立したロシアの妹国というぼんやりしたものだけだ。

帯の“目を覚ますと、そこは独裁国家だった”という衝撃フレーズに目がいき、手に取った。『理不尽ゲーム』というタイトルとこの帯のフレーズを見て、この本はフィクションかと思った。しかし、よくよく見ればこの本はベラルーシの“現状”を書いた小説だという。

パラパラめくって、思い出したのは映画『グッバイ・レーニン』だった。この作品で描かれた東ドイツと『理不尽ゲーム』のベラルーシが全く同じ状況なわけではないが、こんなことは生まれる前の昔の話だと思っていた。海外ニュースを見ないわけではないので、そういう状況があることを一応知っていたが、それは記号のようなもので、当事者の、そこに暮らす人の思いが籠った文を読むのは初めてだった。

群衆事故に巻き込まれた青年フランツィスクが10年間の昏睡状態から目覚めると、そこは理不尽な独裁国家だった。というのが話の筋だが、日本に住んで何不自由なく暮らしている私からすると、昏睡前のフランツィスクもそんなに自由ではない気がする。だからか、目覚めてからの彼の衝撃はあまり理解できないと感じた。

昏睡状態から目覚めたのはフランツィスクだけでなく、ベラルーシの国民でもあり、今実際に目覚めた彼らは戦っている。ということをこの本は1度目に読んだときに教えてくれる。隠喩的なところも多かったので、この現実を念頭に置いてもう一度読んだとき、著者の思いがより伝わってくるだろうと思う。

 

理不尽ゲーム/サーシャ・フィリペンコ/奈倉 有里 | 集英社の本 公式

欧州最後の独裁国家ベラルーシ。その内実を、小説の力で暴く。 群集事故によって昏睡状態に陥った高校生ツィスク。老いた祖母だけがその回復を信じ、...

集英社の本 | コミックス~書籍~雑誌の公式情報と試し読み

 

 

 


やばいときこそ、いいシャツを着るんだ。

2021-05-19 14:31:06 | 読書

米澤穂信の『本と鍵の季節』で松倉詩門が言う「やばいときこそ、いいシャツを着るんだ。」というセリフは、この本を読んでから大分たった今でもはっきり思い出せる。

自分どちらかと言えば、堀川次郎で、そんな経験はないけれど、なんとなく理解できる。

この場面で、このセリフは文字通りの意味が強いけれど、社会人になれば“いいシャツを着”なければならないことが度々あるのだろうなと思う。


鷹の城

2021-05-11 13:33:46 | 読書

山本巧次の『鷹の城』(光文社)を読了したので、感想を書く。スカイエマさんの表紙絵に惹かれて購入。時代小説だけれど、漫画のように読みやすい1作だった。

現代人が過去に戻ったり、昔の人が現代に来るタイムスリップ物はよく見るけれど、これは昔の人(江戸時代)がもっと昔(戦国時代)にタイムスリップする話だ。主人公・瀬波新九郎は南町奉行所定町廻り同心、強盗殺人の犯人を追って崖から落ちると戦国時代にいた。なんやかんやで籠城中の青野城、別名“鷹の城”に密書を届けに行くことになり、そこで遭遇した密室殺人の謎を解くことになる。

作中で新九郎は奇妙な恰好をしたやつだと言われているが、一応受け入れられている。200年の時を挟んだ江戸の同心と戦国の武将たちでは所作も口調も違って、新九郎が怪しいことこの上ないのではないかと思ったのだが、そこはファンタジーなのでご愛敬と思って読み進めた。

なかなか勝気な青野城の姫・奈津姫さまと新九郎の淡いロマンスには、ほっこりする。奈津姫さまはお姫さまだけれど、なんでも見てる聞いてるやり手の女性。好きだなぁ。

江戸に戻ってみれば、新九郎が青野城に行ったことにも意味があったようで…

がっつり推理物という感じではないが、適度にミステリー、ほんのりロマンスで、娯楽に読むにはさらっと読める楽しい小説だ。