Sea side memory (2)

2006-09-26 | 自作小説:Sea side memory
君と初めて、話したのは高校2年生になったばかりの5月だった。
僕は、前日の練習で無茶をして、足を捻挫したために、その日は練習に参加できなかった。
かなり腫れて、くるぶしは紫色に染まっていた。直るまで相当かかりそうだと思い憂鬱になった。
実際、その後3週間、練習ができなかった。
そのため、教室のベランダから、仲間の練習を眺めていた。
2年生の教室は、校舎の3階にあるため、とても眺めが良い。
校庭の先に広がる住宅街、さらにその奥に広がる木々と小高い山。
確かにきれいだ。ただ、それを楽しむ気分には、なれなかった。
その頃の僕、(たいして時間はたっていないが)、部活のサッカーだけが、ある種の救いだった。
勉強ができるわけでもなく、もてるタイプでもない僕は、クラスの中でも特に目立つ存在ではない。
当然、サッカーもレギュラーになれるか、どうかだ。
でも、サッカーは、僕の救いだった。
ただ、球を追って走るだけで、良かった。
無心になれさえすれば、良かった。
これといった悩みがある訳ではなかったが、心が、いや、体中がモヤモヤとしていた。
エネルギーが余っているのに、それでいて何もやる気がしない。
叫びたくても、叫べない、なんとも中途半端状態だった。
これが、思春期なのか?ふと、そう思った。
友達から誘われて、とりあえず1週間限定で入部したサッカー部だったが、1年間続けてみると、気持ちのいい疲れがあり、それなりの充足感を与えていた。
疲れは、思考を停止させ、つまらいことを考える時間を奪っていった。
練習している仲間をみていると、なぜか、惨めな気分になり、僕が病院に行こうかと思っているときだった。
ふと、隣の教室のベランダに一人の女の子が、僕と同じように校庭を眺めているのに気がついた。それが、君だった。
その時の君は、とても淋しそうな横顔をしていた。
ホシ アキコ
有名な野球漫画の主人公のお姉さんと同姓同名だった。
普通なら、そのせいで、からかわれたりするものだが、
君には、人を寄せ付けない雰囲気があり、誰もそのことを話題にしなかった。
僕の視線に気がついたのか、君は僕の方を見た。
君は、一瞬、まずいことろを見られたような焦った表情をしたが、
すぐに、いつものオーラを身にまとい、僕をにらめつけるような眼差しに変わった。
何か、話しかけようと思ったが、僕は黙るしかなかった。
まるで、逃げるように、足をひずりながら、僕は教室へと戻った。

                        つづく

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