ここまでいくつかの臨死体験について紹介させて頂きました。この臨死体験は「臨死」の段階の経験なのか、それとも「死後」の段階の経験なのか、そこについての議論はあまり為されているように思えません。一部では「死後の世界を見た」というセンセーショナルな表題で臨死体験を紹介していたりしています。
次にこの臨死体験で、少し興味深い例を紹介します。それは彗星捜索家の木内鶴彦氏の臨死体験です。
木内鶴彦さんのお話 1 | ママン日記 (参考文献)
木内鶴彦氏は1954年生まれで、長野県佐久市に在住しているコメットハンター(彗星捜索家)です。小学校5年の時に、池谷・関すい星を見てから彗星に興味を持ったと言います。その後、航空自衛隊に入隊、航空管理業務に携わっていたと言いますが、22歳の時に過労が原因で「ぽっくり病(当時としては大変珍しい上腸間膜動脈性十二指腸閉塞)」になり、死亡確認されました。しかしその三十分後に蘇生して、その間に臨死体験をしたと言います。
その後、自衛隊を退官し、彗星探索に取り組む中でペルセウス座流星群の元となる当時行方不明となっていた彗星「スウィフト・タットル彗星」を双眼鏡を使った探索活動で発見し、一躍、時の人になりました。以前に放映され話題となったハリウッド映画「ディープ・インパクト」で彗星を発見した高校生のモデルが木内氏であったとも言います。
さて、この木内氏が体験した臨死体験とはどの様なものであったのか、簡単ですが紹介したいと思います。
◆ポックリ病
18歳で航空自衛隊に入隊しましたが、1976年(22歳)の時に、当時ソビエトから亡命してきたミグ25事件に遭遇、当時、航空管理業務でディスパッチャーをしていたのですが、この事件による過労がたたり倒れて緊急入院したそうです。
緊急入院したのち、暫くしてからの事ですが、当時、体重が72キロあったのが一晩で43キロまでなりました。この原因は十二指腸が閉塞した事が原因によるもので、嘔吐と下痢が続いてこの様な急激な体重減少に襲われたというのです。そしてそれから2週間後に医者と両親が会話している内容を耳にして、自身の余命があと1週間である事を知る事になりました。当時の木内氏は見た目が昏睡状態であったそうですが、聴感だけはとても冴えていて、担当医と両親が病室の外での会話が聞こえてしまったと言います。
この時から一週間の間、木内氏には様々な葛藤があったようですが、ここではその話はここでは省略します。そして一週間後、いよいよ当日という日、木内氏の意識は急に途切れます。
気が付くと木内氏は真っ暗闇の中、田んぼのぬかるみの様な中を這いずっていました。そして這いずっているうちに、遠くにポツンと明りが見えてきたそうです。どうやら木内氏はトンネルの様な場所を這って進んでいる様でした。そしてそのトンネルを抜けると、外は薄暗い状態でした。遠くでは薪を燃やしているのか、青白い炎がぼやっと見えたそうです。自分の周囲には草がぼうぼうと生えており、歩いているとその草の感覚が足の裏にありました。そしてドンドン歩いていくと川にぶちあたったのです。
「これが三途の川なのか」
その川はゆっくりと流れていて、対岸には先ほどの光の光点があって、そこに行かなければならないと思っていたところ、かなり古い木造船を見つけました。木内氏はその木造船に乗って、自分の手で漕いで対岸を目指していきました。
必死に船を手で漕いで対岸に到着し、木内氏は疲れて船をおりて横になったそうです。そしてしばらくして目を開けると、10メートルほど先に薪が燃えているのが見えました。そこには人影が幾つかあって、そのうちの一人が木内氏に近づいてきました。
「鶴彦、お前何しに来た」
その近づいてきた人は喪服を着た美しい中年の女性で、これは後で判明した事なのですが、この女性は木内氏の叔母ですでに他界していた人であったそうです。この女性からついてくる様に言われ、薪の焚いている場所まで行くと、そこには3人の老人と一人の若者が居ました。この若者ですが、木内氏が中学生の時に、ブルドーザーに轢かれて亡くなった従弟だったのです。
木内氏がこの従弟と話しをしていると、先ほどの女性から「お前はもっと良い処に行かなければならない、付いておいで」と言われ、女性の後についてその場を後にしました。この女性に付いていくと、そこから離れた丘の上に登っていきました。ドンドン登っていくと、空の色が金色っぽいオレンジ色に変化していきました。そして頂上に到着し周囲を見回すと、そこはものすごい広い洞窟の中ある事がわかりました。空は金色に輝いており、太陽ではないのですが光の元の様なものがあって、その明りで全体が照らし出されていたのです。気持ちい良い風も吹いていて、女性について丘を折り始めましたが、空にある光の元が人の顔の様に見えたりして、人によってはそれはお釈迦様とかマリア様にも見えるのだろうと思ったそうです。周囲には芥子の花に似た花が膝の高さまで茂っており、丘を降りていくうちに、気が付いたら女性が消えていました。
「あれ、どうしたんだろう」
そう思って女性を探しているうち、木内氏はベッドの上で寝ている状態で意識が戻ったそうです。
◆戻った意識
意識の戻った木内氏は、ナースコールをしようとボタンを探したのですが、押すことが出来ず、母親がボタンのところまで木内氏の手を持って行ってくれました。
「いま意識が戻ったけど、これは生き返ったのか。それともこれから本当に死んでしまうのか。」
そんな事を考えながらボタンを押そうとしましたが、もうその力が残っていません。そしてその時に心臓が止まった事がわかりました。そして呼吸も息を吐いてから吸う事が出来なくなりました。でも全く苦しくない。木内氏は天井を見ていたそうですが、母親が木内氏の右側に顔を寄せてきて言いました。
「あ、、、死んじゃった」
この言葉に木内氏は驚いたそうです。自分の意識はあって、周囲も理解している。それを「死んじゃった」と言われた事が良く理解出来ませんでした。
母親は父親を起こしてからナースステーションに飛んで行ったそうですが、父親はベッドの足元から木内氏を覗き込んでいる。木内氏はと言えば、痛みや苦しみも無くなったので、父親に「大丈夫だよ」と言っても、その言葉は父親には聞こえていない様です。そこで木内氏はベッドから横向きに足を下ろし、立とうとしてベッドを見ると、そこには自分自身の体があったのです。
(続く)