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月想記

戯言日記

盲人書簡

2022-06-08 | 芝居
6月4日(土)下北沢ザ・スズナリにて万有引力の盲人書簡を観た。
待ってましたのこの世界。小劇場のあの空間はなぜいつもこんなにも胸が躍るのだろう。
暗闇の中揺らめくマッチの灯りと煤の匂いに興奮し全てに心を持ってかれたひと時。
言葉、肉体、音楽!森ようこさんが軍服姿で叫ぶ「もっとよく見るために、もっと闇を!」の格好良かった事!

極悪な明智小五郎に翻弄される盲目の小林少年。高橋優太さんの身体能力と表情が半端ない。
今村博さんの声が好きなのだけど、今回距離が近かったのでその流麗な動きにも目が釘付け。皆さま本当に痺れる。
サーカス団にさらわれてあの悪夢の中にずっと閉じ込められていたい…そんな気持ちになった。

寺山演劇は開演前の客入れの時から舞台が始まっている。
開場から舞台上で蠢く役者が段々と増えていって、音楽が一際大きくなったところで開演となる。
この間観ている間に物語に気持ちが入り込んでいって、客席と舞台の境界線がどんどん曖昧になる。
日常から切り離され向こう側へ行くのに必要な時間。
万有にはカーテンコールが無いので、いつも最後は突然突き放され置き去りにされる。
取り残されてあの世界に焦がれながら現実に戻っていくのだ。また次の訪れを早くも待ちながら。


迷路と死海

2021-12-23 | 芝居
12月19日(日)恵比寿シアター・アルファ東京へ万有引力の「迷路と死海」の千穐楽を観に。
この劇場の杮落とし。これはまたすごい作品だった。
次々と紡がれる様々なエピソードにいつしか説明を見出そうとするのを止め、ただその中に身を投じて感じるままに。
役者たちの動きの躍動感の凄まじさと迫力の音響は腹の底までビリビリとこちらに響いてきて、震えながら見入った。
暗闇に浮かぶマッチの灯りと煤の匂いはたまらなくゾクゾクする。あぁ、これだよねって。
視覚、聴覚、嗅覚、全てで体感する幸せよ。私の性癖に刺さりまくる、好きすぎる世界観。

根本豊さんのシーンで客席から1人主役が選ばれステージに上がる事になり、私の隣の方が抽選で選ばれた。
わぁ〜と思ってたらその方最初は戸惑ってたのにどんどん喋り出して、実は仕込みの役者さんだった!
開演ギリギリにいらしたから間に合って良かったね…などと内心思っていたけど、演技が上手すぎて全然わからなかったよ〜(笑)
森ようこさんの女優の歌がすごく胸に沁みて、後半の独白シーンではなぜだかムットーニのからくり作品が脳裏に浮かんでいた。
見えない部分に存在感がある、あの感じ。

次回作は盲人書簡との事でこれまた楽しみ。再び痺れさせていただこう。







青森県のせむし男

2021-06-15 | 芝居
6月9日(水)下北沢ザ・スズナリにて万有引力の青森県のせむし男をマチネで観た。
これだよこれ、観たかったのは。万有のせむし男を待っていたんだ!
その格好良さに冒頭から鳥肌が立って、ずっとビリビリ痺れっぱなしだった。
生まれ落ちた悲劇、母と子の愛憎。呪わしいけど愛おしい。この舞台は観なきゃ人生において絶対損をする。

シーザーの音があってこそのあの世界観に、今回は身毒丸に続いて琵琶語りと二十五絃箏が加わりまた
とんでもない事に。この音は異界への扉が開くね。スズナリが青森になっていた。
舞台冒頭に皆でシャベルを三味線にして弾くシーンがあって、これがすごい迫力で実に格好良かった!
森ようこさんは本当に美しくて着物風の衣装も素敵。赤い花と白い花のあんま。今村さんの声が好きだ。
桂太さんの語りもたまらなかった。
いつも終わりは突き放されて物語の中に一人取り残されてしまうのだけれど、今回はカーテンコール風に
ラスト役者たちが次々と登場したシーンがまた嬉しく。こういうのリア王を観た時以来の気が。
タイミングを逃してその場で出来なかったけれど、全員に拍手したかった。
きっと千秋楽はあそこからもう拍手喝采だったのだろうな。
琵琶と箏の音色、髙田さんのマツの情念、松吉の肉のお墓の哀しさ、月をぶら下げた赤白の松葉杖男の
シンメトリーな存在感。全てが狂おしくも美しくあの空間に居られた幸せよ。


プロメテウス

2021-02-04 | 芝居
1月31日(日)演劇実験室◉万有引力実験公演「プロメテウス」千秋楽@中野ウエストエンドスタジオ。
コロナで延期になった舞台を一年越しでついに観られた。
サイバーパンクと神話が融合した万有の新たな世界。

美術も音楽も素晴らしいけど、やはり一番は役者たちの肉体とその動きの美しさ。
ゾクゾクと血湧き肉躍るあの感覚は小劇場でしか味わえない。愛しき宇宙。

先行予約特典のCDを聴きながら、舞台を反芻してまたワクワクとしている。飛永さんの演出カッコ良かったなぁ。
レーザー溢れる近未来感の中、マッチの灯りの存在力よ。ダンスシーンで衣装に仕込まれた電飾も印象的だった。
マスクで顔が隠れていても好きな役者さんは声でわかる。私は声に弱い。今村さ〜ん(笑)
歌姫小山さんの歌唱も美しくて胸を打たれた。

ラストにパンドラの箱に残った希望の話があったのだけれど、音楽も芝居も自分にとっては希望であり支え。
邪悪なものが溢れたとしても最後に残る大切なもの。ずっと触れていたいし、守っていきたい。
好きなものって本当に癒しになりまた力を与えてくれる・・・としみじみ思った。
この舞台が観られて良かった。


「√」疱瘡譚または伝染する劇

2020-08-02 | 芝居
8月1日(土)下北沢ザ・スズナリにて万有引力の「√」◉疱瘡譚または伝染する劇◉を観た。

疫病流行記とアントナン・アルトーの演劇とペストの融合。今この時期に上演する事に意味がある、素晴らしい内容だった。
舞台上の衝立はシールドでありスクリーンともなり、そこに浮かぶ文字がまた効果的に刺さる。
演劇も一つの伝染なのだ。

森ようこさん演じる魔痢子は本当にピッタリで、その妖艶さが口元をベールで隠す事により更に倍増。
少し低めに吐き出されるあの痺れる美声はそのままで。
疫病流行記は寺山作品の中でも元々好きなものだけれど、謎の少女役山田桜子さんの冒頭の動きから魅せられた。
「私はあなたの病気です。」の台詞はたまらない。包帯男たちの包帯の川のシーンは迫力で、息を飲んで見つめていた。

マスクやフェイスシールドをつけ演じる役者たちから、それを越えて放たれる熱気。
マッチの灯りと煤の匂い、床を蹴り上げ跳躍するたび伝わってくる振動。
小劇場のこの空気がたまらなく好きだ。そこでしか得られない感動と興奮。
コロナ禍の今この時にこの作品を観られた事は、きっと忘れられない思い出になるだろう。
逆境に屈せずそれを逆手に取り表現に転化してしていく、万有引力の見事な戦いっぷり。
きっとこの上演は劇団の歴史に残るとそう思う。