新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 賢木 源氏失意帰宅 蔵書

藤つほ
御ぞをすべしをきてゐさりのき

給に心にもあらず、御ぐしのとりそ

へられたりければ、いと心うくすくせの

ほどおぼししられて、いみしとおぼし
    源
たり。おとこも、こゝら世をもてしづめ

給ふ御心みなみだれてうつしざま

にもあらず。よろづのことをなく/\
             藤つほ
うらみ聞え給へど、誠に心づきなし

と覚して、御いらへも聞え給はず。たゞ

心ちのいとなやましきを、かゝらぬ

おりもあらば聞えてんとの給へど、
 源
つきせぬ御こゝろの程をいひつゞけ給。
藤つほ
さすがにいみじときゝ給ふしもまし

るらん。あらさりしことにはあらね

ど、あらためていと口おしうおぼさる

れば、なつかしき物から、いとようの給

                  源
のがれて、こよひもあけゆく。せめてした

がひ聞えざらんもかたじけなく心はづ
               源詞
かしき御けはひなれば、たゝかばかりにて

もとき/"\いみじきうれへをだに

はるけ侍ぬべくは、なにのおほけなき心
        地
も侍らじなど、たゆめ聞え給べし

なのめなることだにかやうなるなから

ひは、あはれなることもそふなるを、まし
                    王命婦
てたぐひなげなり。あけはつれば、ふたり
と弁               藤つほ
して、いみじきことゞも聞え、宮はなか

ばはなきやうなる御気色の心くる
       藤つほ詞
しければ、よの中にありときこし

めされんもいとはづかしければ、やがて

うせ侍なむも、又この世ならぬつみと

なり侍ぬべきことなど聞え給ふと

むくつけきまでおぼしいれり

  源
  あふことのかたきをけふにかぎ

らずは今いくよをかなげきつゝへん。
 源詞
御ほだしにもこそと聞え給へば、
藤つほ
さすがにうちなげき給て
  藤つほ
  なかき世のうらみを人にのこし

てもかつは心をあたとしらなん。はか

なくいひなさせ給へるさまの、いふ
             源心
よしなき心ちすれど、人のおぼさん

所もわか御ためもくるしければ、我

にもあらでいで給ぬ。いつこをおもて

にかは、またも見え奉らん。いとおしと

おぼししるばかりとおほして、御文

も聞え給はず。うちたえて、うち

春宮"にも参り給はず、こもりおは

して、おきふしいみしかりける人の

御心かなと、人わろく恋しうかなし

 


御衣をすべし置きて、ゐざりのき給ふに、心にもあらず、御髪の

取り添へられたりければ、いと心憂く、宿世の程おぼし知られて、

いみじとおぼしたり。

男も、ここら世をもて鎮め給ふ御心、みな乱れて、現しざまにも

あらず。万づの事を、泣くなく恨み聞こえ給へど、誠に心づきな

しと覚して、いらへも聞こえ給はず。ただ、「心地のいと悩ま

しきを、かからぬ折りもあらば聞こえてん」と宣へど、尽きせぬ

御心の程を言ひ続け給ふ。流石にいみじと聞き給ふ節も、混じる

らん。あらざりし事にはあらねど、改めて、いと口惜しうおぼさ

るれば、懐かしき物から、いとようの給ひ逃れて、今宵も明け行

く。せめて従ひ聞こえざらんも、かたじけなく、心恥づかしき御

気配なれば、「ただ、かばかりにても、時々いみじき愁へをだに、

晴るけ侍りぬべくは、何のおほけなき心も侍らじなど、たゆめ聞

こえ給ふべし。なのめなる事だに、かやうなるなからひは、哀れ

なる事も添ふなるを、まして類ひなげなり。

明け果つれば、二人して、いみじき事聞こえ、宮は、半ばは亡

き樣なる御気色の、心苦しければ、「世の中にありと聞こしめさ

れんも、いと恥づかしければ、やがて失せ侍りなむも、又、この

世ならぬ罪となり侍りぬべき事」など、聞こえ給ふと、むくつけ

きまで、おぼし入れり。

  逢ふ事の難きを今日に限らずは今幾世をか歎きつつ経ん

「御ほだしにもこそ」と聞こえ給へば、流石にうち嘆き給ひて。

  永き世の恨みを人に残してもかつは心をあだと知らなん。

はかなく言ひなさせ給へる樣の、言ふ由なき心地すれど、人のお

ぼさん所も、我が御為も苦しければ、我にもあらで出で給ひぬ。

いづこを面にかは、又も見え奉らん。いとおしとおぼし知るばか

りとおほして、御文も聞こえ給はず。打ち絶えて、内、春宮にも

参り給はず、籠りおはして、起伏し、いみじかりける人の、御心

かなと、人わろく恋しう悲し

 

 

京都堀川通 風俗博物館

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