新古今和歌集の部屋

源氏物語 湖月抄 手習 鬼か神か狐か木霊か

                        びこ
つる宿もりのおのこをよぶ。山彦のこたふる
             やどもり也
もいとおそろし。あやしのさまにひたいを
               法師の詞也
しあげて出きたり。爰にはわかき女などや
                                  孟宿守
すみ給。かゝることなんあるとてみすれば、きつ
がことば也
ねのつかうまつるなり。この木のもとになん、
時々゙あやしきわざなんし侍る。おとゝしの
秋もこゝに侍る人の子の、ふたつばかりに
侍しをとりてまうできたりしかども、
                法師ノ詞
みおどろかず侍き。さてそのちごはしにや
             宿守の詞
しにしといへば、いきて侍りき。狐はさこそ
は人ををびやかせど、ことにもあらぬやつ
といふさまいとなれたり。かの夜ふかき參
 
頭注
 
 
ひたいをしあげて
かみなであげたる也
ひたいをしあぐるはし
はのよりたる也。
 
 
 
 
 
 
 
 
かの夜ふかきまいりものゝ
かやうのあやしき事を

りものゝ所に、心をよせたるなるべし。僧都゙
さらばさやうのものゝしたりわざか。猶よく
みよとて、このものをぢせぬ法師をよせ
       法師詞
たれば、鬼か神かきつねかこ玉か。かばかりの
あめ
天の下のけんざのおはしますには、えかくれ
奉らじ。なのり給へ/\ときぬをとりて
                                 法師詞
ひけば、かほをひきいれていよ/\なく。い
であなさがなの木玉のをにや。まさにか
くれなんやといひつゝ、かほをみんとする
に、昔有けんめもはなもなかりける、め
をにゝやあらんとむくつけきを、たのもし
ういかきさまを人にみせ人と思て、きぬを
 
頭注
さして宿守があやしま
ぬさまなるはかのくひ物ま
いらせんとするに心ある
にやと也。
 
 
天の下のけんざの
僧都を験者と也。
天下㐧一の験者と也。
 
 
 
こだまのをにや
大木の下にゐたる故
に木玉の鬼となづけた
り。
 
めもはなもなかりけるめをに
目なし鬼の事をひけ
り。文殊樓の目無鬼
事歟。舊記目鬼と
号す。花朱の盤といふ
繪物語に有。文殊樓の
目なし鬼の事をかけり。山法師なるによりて聞付たるをいへるなり。
 

つる宿もりの男の子を呼ぶ。山彦の答ふるも、いと恐ろし。あやしの樣に額
押し上げて出きたり。
「ここには若き女などや住み給ふ。かかる事なんある」とて見すれば、
「狐の仕うまつるなり。この木の元になん、時々あやしきわざなんし侍る。
一昨年の秋もここに侍る人の子の、二つばかりに侍りしを、取りてまうで來
たりしかども、身驚かず侍き」
「さてその稚児は死にやしにし」と言へば、
「生きて侍りき。狐はさこそは人を脅かせど、ことにもあらぬ奴」
と云ふ樣いと馴れたり。かの夜深きき參りものの所に、心を寄せたるなるべ
し。僧都
「さらば、さやうの物のしたりわざか。猶よく見よ」とて、この物怖ぢせぬ
法師を寄せたれば、
「鬼か神か狐か木霊か。かばかりの天の下の験者の御座しますには、え隠れ
奉らじ。名乗り給へ、名乗り給へ」と衣(きぬ)を取りて引けば、顔を引き
入れて、いよいよ泣く。
「いで、あなさがなの木霊の鬼や。まさに隠れなんや」と言ひつつ、顔を見
んとするに、昔有りけん目も鼻も無かりける、女鬼にやあらんと、むくつけ
きを、頼もしういかき樣を人に見せ人と思ひて、衣を
 
略語
※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄  九条禅閣植通
※河 河海抄  四辻左大臣善成
※細 細流抄  西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄  牡丹花肖柏
※和 和秘抄  一条禅閣兼良
※明 明星抄  西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺
 
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