新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 賢木 遺言 蔵書

と聞え給へれど、いとくらう物さはがし

きほどなれば、またの日せきのあな

たよりぞ、御返しあり
 御息所
  すゞか川“八十瀬の波にぬれ/\ず

いせまでたれか思ひをこせんこと

そぎてかき給へるしも御ていと
                   源
よし/\しく、なまめきたるに、哀なる

けを、すこしそへ給へらましかはとお

ほす。霧いたうふりてたゝならぬあ

さけに、うちながめてひとりごちおはす
  源
  行かたをながめもやらん此秋は
                   源
あふさか山をきりなへたてそ。にし

のたいにもわたり給はで、人やりな

らず物さびしげにながめくらし給。
 地
ましてたひの空はいかに御心づく

しなることおほかりけん院の御なやみ、

神無月になりては、いとおもくおは

します。世中におしみ聞えぬ人
    朱雀
なし。内にもおぼしなげきて、行幸
    院           冷泉
あり。よはき御心ちにも、春宮の

御ことを返す/\聞えさせ給て、つぎ
             院詞
には大"将の御こと、侍つる世にかはらず、

大"小のことをへだてず、なにことも御う

しろみと思◯せ。よはひの程よりも

代をまつりごたむにも、おさ/\はゞ

かり有まじうなんみ給ふる。かなら

ず世中たもつべきさうある人なり。

さるによりてわづらはしさに、みこ

にもなさずたゝ人にて、おほやけの

御うしろみをせさせんと思ふ給べし

なり。その心たがへさせ給なと、あはれ

なる御ゆいごんどもおほかりけれど、


女のまねぶべきことにしあらねば、この

かたはしだにかたはらいたし。みかども

いとかなしとおほして、さらにたがへき

こえさすまじきよしを、かへす/\聞え
     御門
させ給。御かたちもいときよらに、ねび
            院
まさらせ給へるを、うれしくたのもし
          御門
く見奉らせ給。かぎりあればいそ

ぎかへらせ給にも、中/\なることお

ほくなん。春宮"もひとたびにとおぼし

めしけれども、物さはがしきにより、日
      院へ
をかへてわたらせ給へり。御としの程

よりは、おとなびうつくしき御さま
    院
にて、こひしと思ひ聞えさせ給ける

つもりに、なに心もなくうれしとおほ

して見奉り給。御気色いと哀なり。
藤つほ
中宮"は泪にしづみ給へるを、みたて

 

 


と聞え給へれど、いと暗う物、騒がしき程なれば、又の日、関の

あなたよりぞ、御返しあり

  鈴鹿川八十瀬の波に濡れ濡れず伊勢まで誰か思ひをこせん

ことそぎて、書き給へるしも、御手いとよしよししく、なまめき

たるに、哀れなるけを、少し添へ給へらましかばとおぼす。霧い

たう降りて、ただならぬ朝けに、打ち眺めて、独りごちおはす。

  行く方を眺めもやらんこの秋は逢坂山を霧な隔てそ

西の対にも渡り給はで、人やりならず、物寂しげに、眺め暮らし

給ふ。まして、旅の空は、いかに御心尽しなること多かりけん。

院の御なやみ、神無月になりては、いと重くおはします。世の中

に惜しみ聞えぬ人無し。内にも、おぼし歎きて、行幸あり。弱き

御心地にも、春宮の御事を返すがえす聞こえさせ給て、次には大

将の御事、「侍りつる世に変はらず、大小の事を隔てず、何事も

御後見と思せ。齢の程よりも、代をまつりごたむにも、おさおさ

憚り有まじうなん見給ふる。必ず世の中保つべき相ある人なり。

さるによりて、煩はしさに、親王にもなさず、ただ人にて、公の

御後見をせさせんと、思ふ給へしなり。その心、違へさせ給ふな」

と、あはれなる御遺言ども多かりけれど、女のまねぶべき事にし

あらねば、この片端だに片腹痛し。帝も、いとかなしとおぼして、

さらに違へ聞こえさすまじき由を、返すがえす聞こえさせ給ふ。

御かたちも、いときよらに、ねびまさらせ給へるを、嬉しく頼も

しく見奉らせ給ふ。限りあれば、急ぎ帰らせ給ふにも、中々なる

事多くなん。

春宮も一度(ひとたび)にと、おぼしめしけれども、物騒がしき

により、日を変へて渡らせ給へり。御年の程よりは、大人び、美

しき御樣にて、恋しと思ひ聞こえさせ給ひけるつもりに、何心も

なく嬉しとおぼして、見奉り給ふ御気色いと哀れなり。中宮は、

泪に沈み給へるを、見たて

 

 

三重県明和町 斎宮歴史博物館

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「源氏物語和歌」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事