新古今和歌集の部屋

源氏物語図屏風 若菜下 宮内庁三の丸尚蔵館 絵はがき

 
若菜下
御琴どもの調べども調ひ果てゝ、掻き合はせたまへるほど、いづれとなき中に、琵琶はすぐれて上手めき、神さびたる手づかひ、澄み果てておもしろく聞ゆ。和琴に、大将も耳とゞめ給へるに、なつかしく愛敬づきたる御爪音に、掻き返したる音の、めづらしく今めきて、更にこのわざとある上手どもの、おどろ/"\しく掻き立てたる調べ調子に劣らず、にぎはゝしく、「大和琴にもかゝる手有けり」と聞き驚かる。深き御労の程あらはに聞えて、おもしろきに、大殿御心落ちゐて、いとありがたく思ひ聞え給ふ。箏の御琴は、ものゝ隙々に、心もとなく漏り出づる物の音がらにて、うつくしげになまめかしくのみ聞ゆ。琴は、なほ若き方なれど、習ひ給ふ盛なれば、たど/"\しからず、いとよくものに響きあひて、「 優になりにける御琴の音かな」と、大将聞き給ふ。拍子とりて唱歌し給ふ。院も、時々扇打鳴らして、加へ給ふ御声、昔よりもいみじくおもしろく、少しふつゝかに、もの/\しきけ添ひて聞ゆ。大将も、声いとすぐれ給へる人にて、夜の静かになりゆくまゝに、言ふ限りなくなつかしき夜の御遊びなり。
 


源氏物語図屏風 左雙第二扇

 
 

宮内庁三の丸尚蔵館
 
 旧桂宮家伝来
 
 
 
狩野探幽画
元は八条宮家(桂宮)所有で、寛永十九年に、八条宮智忠親王の元へ嫁いだ加賀藩主前田利常女、富姫の嫁入り道具として制作。桂宮家から寄贈され、御物となった。
 
令和2年11月17日 點四/八枚
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