CDショップ(+α)のおススメCD日記

何と、あまり聞いたことのないCDコメントの共同作業、つまりクロスレビューです。(不定期更新)

appleJam5月のブラボーな盤を聴く(工藤)

2008年05月31日 | 音楽
ドナルド・ハリソンとの出会いは’85年に買った、コンコードからのテレンス・ブランチャードとの双頭アルバム「ニューヨーク・セカンド・ライン」で、2人の組み合わせでこのレーベルから2枚、ソニーに移ってから3枚、現在もこのCDを持っています。その後それぞれの道を歩んだのだとは思いますが、ドナルド・ハリソンの方はあまり名前を聞かなくなりました。むしろ白岩さんからのルートで、彼の最近の活躍を知っている感じです。自分のルーツを意識したサウンド作りになってきましたね。’80-90年代はじめ頃までは、当時の新伝承派のサウンドが強くて、これはこれで好きなサウンドではありました。


For Arts Sake/Donald Harrison(As) Quintet (Black Lion/Candid) - Recorded Live at Birdland New York City November 9 and 10, 1990 - Marlon Jordan(Tp), Cyrus Chestnut(P), Christian McBride(B), Carl Allen(Ds) - 1. So What! 2. Nut 3. Softly, As In A Morning 4. In A Sentimental Mood 5. For Art's Sake 6. Oleo 7. Let's Go Off (And End Announcements)

ジャズメン・オリジナルかスタンダードが中心。このときはニューヨーク・ジャズのメイン・ストリーム街道をまっしぐら、というサウンドでせまってきます。有名なマイルス作を自由なモード奏法で泳いでいく1曲目、サイラス・チェスナット作のほんの少しアップテンポでいかにもジャズらしいノリとフレーズで聴かせる2曲目、アップテンポでスリリングなスタンダードを聴かせていく、けっこうハードな17分もの3曲目、ホッとするスローなバラードで中盤ミディアムでやや盛り上がる4曲目、ドナルド・ハリソン作で、アート・ブレイキーに捧げたと思われる、マイナーでハードバップという雰囲気が妙に懐かしい5曲目、アップテンポで明るめのテーマとモーダルなアドリブがガンガンせまる6曲目。

ジャズCDの個人ページ(工藤)


工藤さんの5月のおススメ盤を聴く(bb白岩)

2008年05月28日 | 音楽
ソロの部分に突然別な曲のお馴染みのメロディーが登場する瞬間って、どうして凄くスリリングに感じるのでしょうね。今回の大坂のアルバムでは「セント・トーマス」のピアノ・ソロの終盤で突然ベートーベンの第九の晴れたる青空~のフレーズが飛び出すのですが、それを受けて次のベースソロもそれを動機に展開していく様が心地よい瞬間でした。

オマージュ/大坂昌彦 M&I MYCJ-30461

Recorded Dec. 27-29, 2007.
Masahiko Osaka(Ds)
Tadataka Unno(P)
Daiki Yasukagawa(B)
Osamu Koike(Sax)

昨年暮れに収録されたライヴ盤で、まさに外は厳冬の広島の街、一歩店内に入るとそこは熱気で充満したジャズクラブという構図。ジャズほど紫煙と酒とコーヒーの香りの似合う音楽はありませんけど、この作品もまたそんな店内をイメージして聴くと一層臨場感が増す一枚。自分の場合、特に最初の一撃は#2.Aflo Blueでした。一瞬、アート・無礼鍵かと思うドラムワークに導かれて滑り込んでくるトレーン真っ青の小池修のテナーにも心臓ばくばくですが、その後にくる海野雅威のコロコロしたキュートなピアノが値千金!私はこの一曲のこの海野のピアノだけにアルバム一枚分のお金を出しても惜しくないくらい感激しました。続く#3以下の海野も最高で、冒頭#1ではいささかショート・センテンスのフレーズを繋ぐことでなんとか宇宙快速版チェロキーを乗り切っていた海野の、どちらかというと本領はやはり#2や#5かなと感じます。特に#5はもろバド風がたまらなく琴線に響きます。もちろんこの作品は大坂昌彦がボスなのでそこは仕方がないですが。で、その大坂ですが、ここであえて既存の超有名曲を沢山ぶつけてきたのも絶対の自信があったからに他無く、結果持っているものをすべて出し切った会心のライヴ盤になったのではないかと思います。このエネルギーは実際凄い!唯一オリジナルの#5.Dear Augustも全体の流れにすんなり溶け込んで、途中からバドとレイ・ブライアンとが入り交じった感じになるピアノのバックでダンスしまくる大坂のドラムがもう最高!今作品は全曲が聞き所多々で実に濃い仕上がりになったと思います。

bb白岩(appleJam)


5月のおススメ盤(工藤)

2008年05月08日 | 音楽
さて、久しぶりに大坂昌彦のアルバムが出ました。Paddle WheelからM&Iレーベルに移っても、硬派な感じのするところは相変わらずで、存在感のあるドラムを聴かせてくれます。ちなみにジャズの日本人ドラマーでは一番好きです。フュージョンだと神保彰。オリジナルか少なくて、ジャズメン・オリジナルが多いですが、柔らかくならないのがいいところだと思います。ともかく1曲目でぶっ飛びでした。


オマージュ/大坂昌彦(Ds)(M&I)
Hommage/Masahiko Osaka(Ds)(M&I) - Recorded 27-29, 2007. Tadataka Unno(P), Daiki Yasukagawa(B), Osamu Koike(Sax) - 1. Cherokee 2. Afro Blue 3. Isfahan 4. E.S.P. 5. Dear August - Special Song For Audi - 6. Remember Hymn 7. St. Thomas 8. Hymn To Freedom

ライヴ。サックスは1、8曲目は抜けます。大坂昌彦の作曲は5曲目のみで、他はジャズメンオリジナル中心。各曲がジャズメンたちへのトリビュートです。1曲目でピアノがスローで入ったと思ったら途中からこれ以上速くは弾けない、叩けないレベルでの「チェロキー」にはぶっ飛びます。これだけでも聴く価値あり。スピリチュアルな感じながら跳ね飛ぶようなドラムスが目立っている2曲目、バラードからミディアムにかけてのホンワカとした雰囲気のある3曲目、ベースソロからはじまりアップテンポで浮遊感があってモーダルな4曲目、やはりアップテンポで現代的で都会的なアプローチの5曲目、危うげな味わいの淡色系のバラードの6曲目、陽気に4ビートも交えつつカリプソでの7曲目、静かなピアノからゴスペル的に盛り上がる8曲目。(08年4月16日発売)

ジャズCDの個人ページ(工藤)


appleJam5月のブラボーな盤(bb白岩)

2008年05月06日 | 音楽
どちらかというとニューオリンズのジャズ盤を好んでここへ引っ張ってきている気が自分でもするのですが、今回はそのニューオリンズのジャズマンがまだ全然ニューオリンズ臭を感じさせていなかった時の盤です。といいますか、自分がドナルドを好きになったきっかけがそもそもはアート無礼鍵のバンドでテレンス・ブランチャードと一緒にフロントに立っていた頃でした。そんな訳で実はドナルドには言いにくいのですが彼が後にマルディグラ・インディアンとして自己のアイデンティティを確立して以降も同じくらい好きでありながら、もっとそれ以前のこの時期のドナルドの方を今もより好んでヘヴィに聴いている気がします。でももちろん最新盤が出たら出たでそれが最もワクワクどきどきする刺激を私に与えてくれることも確かです。


90年代ドナルドで最も大好きな作品がこのバードランドのライヴ盤
Donald Harrison Quintet / For Arts Sake
2007 German (USA Black Lion/Candid) CCD-79501

Recorded Live at Birdland New York City 1990
Donald Harrison - alto saxophone
Marlon Jordan - trumpet
Cyrus Chestnut - piano
Christian McBride - bass
Carl Allen - drums

怒鳴る奴(ドナルド)がいつ頃を境にはっきりと自身のルーツがニューオリンズにあることを、音楽で表現し始めたかは、私にはよく判らないのですが、少なくともこの時期はまだ100%メインストリーム・ジャズの土壌に両足が位置していた頃。後の2002年盤でも再演する"So What"が、原曲のイメージを忠実に残したカバー・チューンになっていることに、マイルスが59年にやろうとしたことを出来る限り似た条件下で自分自身ででも再現してみたかったのかなと感じます。自作の#5.For Art's Sakeは無礼鍵に捧げた感じのファンキー・チューン、Blue Note盤かと錯覚する音は確信犯だと思います。トランペットがリーモーガン生き写しなのも楽しい瞬間です。


あとがき

マルディグラ・インディアンとしての彼の作品を聴いたとき、そのクールなラップを誰がやっているのか気になってドナルドに尋ねたことがあるのですが、あっさりとラップも歌も(一部を除いて)ボクがやってるんだよ、という返事が返ってきました。ある時にはマイルスに同化しようと実験してみたり、あるときはアルトでコルトレーンに成りきってみたり、またあるときはヒップホップ寄りのマルディグラに挑戦してみたりと、思うにドナルドは気に入ったものに自ら全身で浸って、全身で浸ることで結果として自分の中のフィルターを通して今度は自分の世界観、音楽観として表現している人なんだなと最近は感じています。

bb白岩(appleJam)


appleJam 4月のブラボーな盤を聴く(工藤)

2008年05月01日 | 音楽
久しぶりに白岩さんのおススメCDは、ジャズの直球ど真ん中という感じで、オーソドックスなクインテット編成のジャズを聴かせてくれます。フランスでの録音となっていますが、雰囲気はどきどきセカンドラインもあったりして、気分はニュー・オリンズのモダンジャズという感じです。ニューヨークのようにはトンガってはおらず、陽気でおおらかなジャズを聴くことができます。やや田舎っぽくて往年の全盛期(’50年代)を感じるジャズとでも言うのか、その時々入るニューオリンズ風味がなかなかいいですね。都会的な味の曲ももちろんあります。


Guillaume's Invitation / Leroy Jones (2007 USA Gillaume Nouaux Production) - Recorded August 30 and 31, 2006. Leroy Jones(Tp, Flh), Jerry Edwards(Tb), Julien Brunetaud(P), Sebastien Girardot(B), Guillaume Nouax(Ds) - 1. Two RB's 2. Harbor Street Parade 3. Minor Bash 4. I'll Remember Alex 5. Scandinavian Summer 6. It Don't Mean A Thing... 7. 1944 Stomp 8. Transit 9. Invisible 10. Guillaume's Invitation 11. Second Line

リロイ・ジョーンズ作は5、9曲目の2曲、そしてドラマーでありレーベル・オーナーのGillaume Nouauxの曲は2、4、8曲目の3曲。他にはジャズメン・オリジナルが目立っています。セカンド・ラインの入る部分もあったりして明るいニュー・オリンズのジャズの雰囲気の曲もある(特に11曲目)ものの、3曲目のルー・ドナルドソンの曲のように、ややアップテンポで都会的な渋さを引きずっていて、おっ、いいねえ、と思わせる曲もあります。技法的には’50年代あたりを意識した演奏とも思え、適度にメロディアスなところがいいですね。4曲目は逆に現代的な複雑なコード進行のようで歌っている、アドリブの部分はミディアムで進行する曲。5曲目は明るくやや元気なボッサのリズム。ファンク的なビートを持つデューク・エリントン作もアレンジがカッコ良い。8曲目はちょっと靄のかかったダークな雰囲気が。オーネット・コールマンの9曲目も彼らのサウンドと化してしまっています。ちょっといなたいと言うか、白岩さん好みのサウンドのアルバムかな、と思います。私もこういう音、好きですけど。