CDショップ(+α)のおススメCD日記

何と、あまり聞いたことのないCDコメントの共同作業、つまりクロスレビューです。(不定期更新)

appleJam9月のおもしろ盤を聴く(工藤)

2006年09月29日 | 音楽
アメリカにはアルバムを自主制作でやっているミュージシャンが多いわけですけど、日本でも、ライヴなどで手売りしている方が売れる、という話もよく聴きます。この人もおそらくそうなのでしょうけれど、もしJonathan Batisteが日本のミュージシャンだったらどこかのレコード会社から出ているんじゃないでしょうか。ニュー・オリンズを中心に活躍しているということで、やはりベースとドラムスはどこか懐かしい味を出しているというか、ある意味堅実で古典的なリズムなのですが、かえってここでは安定感を見せているような気もします。今の最先端のジャズって、変拍子が多く、やたら複雑なリズムなので聴く人を選びますが、このアルバムならば、広く万人に受け入れられるのかも、と思います。


The Jonathan Batiste(P) Trio / Live in New York at the Rubin Museum of Art(2006 USA Self Released) - Phil Kuehn(B), Joe Saylor(Ds) - 1. Sumayra 2. Kindergarden 3. Virupa (The Ugly One) 4. Moon River 5. Jen's Blues 6. Red Beans 7. Green Chimneys

4曲目がヘンリー・マンシーニ作の映画音楽、7曲目がセロニアス・モンク作で、他は全部Jonathan Batisteの作曲。白岩さんが紹介されたようにモンク色というか、引っ掛かりのある、ある意味不器用なフレーズもあって、流暢な現代ピアニストが多いところを考えると、これも個性かなと思われます。もちろん完全にモンクしているわけではなく、彼自身の個性の方が大きいですが。ミディアムながらちょっと古典的なリズムのサウンドとその引っ掛かるフレーズで楽しませてくれる1曲目、16ビート的なポップスのノリの明るい曲調のジャズの2曲目、東洋的な哀愁も感じる出だしから、一気にモーダルなアップテンポの曲になる3曲目、映画音楽らしくしっとりとした味わいで進んでいく4曲目、ドン、ドンというようなリズムの上をもっさりと、あるときはパラパラと演奏していき徐々に盛り上がるミディアムのブルースの5曲目、再びモンク色が時々あるピアノタッチで、ちょっと濃いブルース進行の6曲目、モンクの曲をポップス的なリズムで運び、起伏に富んでいる展開を示す7曲目。なぜかこの曲はあまり影響を感じさせません。

ジャズCDの個人ページ 工藤


工藤さんの9月のオススメ盤(bb白岩)

2006年09月20日 | 音楽
昔、といっても90年代の初め頃ですがそれまでの国産ギターから、生まれて初めて念願のギブソンのレスポールを買った日を境に、突然それまでよりかは思った通りに弾けるようになった気がして、やおらカセットの4トラックMTRとベースとマシンドラムとチープなキーボードを買い込み曲作りに没頭した時期がありました。曲作りと言っても、それは単に3コードのブルースを思いついたリフやバッキングでリズムトラックを作っておいてあとから自分のギターソロを落とし込むという単純な話。それでも気分を出すためにあえて弾けもしないキーボードをむちゃくちゃにかき回して何となくオルガンソロ!みたいなパートも挟んでそれらしいインスト・ブルースに仕上げたりするのが楽しかった。当時はまだ自分のバンドなんて夢だと思っていた頃で、その数年後には奇跡的にもバンドが出来てしまうので、結果としてそういったMTRを相手に全楽器を自分で弾いて曲を作るというのを止めてしまったのですが、今日の定休は昔のカセットやMDを整理しているうちに自分でも忘れかけていたそんなMTRブルースの力作を発見しました。当時、休みの日の夕方くらいから曲作りを開始して、何度も失敗を繰り返しながら、遂に全楽器で思い通りの演奏が仕上がったときは既に翌朝の5時くらいで(笑)、ろくに睡眠も取らずにそのまま出勤したりを繰り返していた頃です。如何に念願の楽器が人をポジティブにするかを身をもって知りました。と、こういうとき趣味のページをネット上に持っていると、昔みたいに聞いて、聞いて!などと無理矢理他人にカセットなど進呈しなくても簡単に自己満足に浸れる訳で、全く便利で無害な時代になったものです(笑)。きっと明日はいそいそとその趣味のページに音をupしている自分が居るのだと思います。

また枕が長くなってしまいました。 さっさと本題に移ります!

サウダージス/トリオ・ビヨンド(ECM)
Saudages/Trio Beyond(ECM 1972/73) - Recorded November 21, 2004. Jack DeJohnette(Ds), Larry Goldings(Org, El-p, Sampler), John Scofield(G) - 1. If 2. As One 3. Allah Be Praised 4. Saudages 5. Pee Wee 6. Spectrum 7. Sven Steps To Heaven 8. I Fall In Love Too Easily 9. Love In Blues 10. Big Nick 11. Emergency

今回の工藤さんのアルバムは、まさこれがECM!?と思うくらいホットでファンキーなオルガン・ジャズ。但し同じファンキーでもソウルっぽい方ではなくあくまでもマイルスが開拓した電化ジャズの延長にあるファンク・ミュージックです。もし何も知らずに、これが70年代初頭に吹き込まれたマイルスの一連のCBS音源の一部だといって聞かされたら私はきっと疑うことをしないでしょう。それくらいあの革新的だった時期の70年代電化ジャズ・サウンドをしています。自分がギター好きのせいかディスク2枚ともジョンスコのギターワークに耳をそばだてっぱなしでしたが、ぐっと身を引いて全体を俯瞰する感じで聞くとディジョネットのドラムワークが随所で冴えまくっていることに気づきます。複数のエフェクターの混合効果によるジョンスコのSF的なギターサウンド、うっかりするとジョージ・ルーカスが新作の音響効果監督にジョンスコを指名するのではないかと思うくらいのロボットじみたギターサウンドがやけにカッコいいのですが、あたかもそのロボットのパーツを一個一個ドリルやハンマーで打ち込んでいっているかのようなツボにハマるディジョネットのドラミングはまさにアートの領域です。一方、オレは決してギミックだけのギタリストではないとでも言いたげな、暖かみのあるバラードを弾くジョンスコの姿も有り。ということで2枚を聞き終えてみてから気が付くのですが、形態的には主役に思えたオルガンが意外なくらい印象が薄かったです。もしこの日のオルガンがクラレンス・パルマーやジョニー・ハモンド辺りだったらどんな印象になったのかなと思ったらむくむくと好奇心がもたげてきてしまいました。多分自分がかつてCTI時代のディジョネットを盛んに聞いた時期があったせいかも知れません。それはともかくこの工藤さんオススメのECMのトリオはかなり魅力的なユニットだと思います。

bb白岩(appleJam)


appleJam9月のおもしろ盤(bb白岩)

2006年09月06日 | 音楽
今月の選盤はこれが2度目の登場になりますピアニストのジョナサン・バティステです。前作ではモンク・チューンを独自のフィーリングで弾いていましたが、今回はまるでモンク・チューンに聞こえるオリジナルで勝負している姿が凛々しい感じです。この人もニューオリンズのミュージシャンですがこの作品自体はニューヨークでのライヴ盤、ことメインスリーム・ジャズのフィールドで活躍する人には活動地としてのニューヨークが故郷のニューオリンズと同じくらい重要な拠点になっている状況を感じる次第です。


この日のジョナサンはモンクのDNAチップを搭載していたに違いない
the Jonathan Batiste Trio / Live in New York at the Rubin Museum of Art
(2006 USA Self Released)
恐らくこの日はジョナサン自身がそう決めた日、もし自分にセロニアス・モンクが乗り移ったらこう弾くだろうといったニュアンスの演奏で作品は埋め尽くされています。唯一全7曲中1曲、ヘンリー・マンシーニ作の大スタンダード「Moon River」だけが脱モンクしていますが、その普遍的なスタイルが思い切りビューティフルに響くのが印象的。ラスト「Green Chimneys」は本家のモンク作、意外にもラムゼイ・ルイス風のファンキーな展開には思わず会場からも手拍子が木霊。まさに要注目の若き才能!

以下はあとがきですが・・・・

ハリケーン被災後のニューオリンズがきっともう完全には以前のニューオリンズとイコールにはならないだろうと多くの人が薄々感じているのだと思いますが、それを黒人音楽の文化発祥の街としての切り口から考えますと第九区が元の姿に戻らないことが街に将来的に及ぼす影響は音楽的な部分では計り知れないほどの影響がありそうです。それをシカゴに例えれば、かつてはそのストリートから日々新しいブルースが生まれたというマックスウェル・ストリートが、後に美観を優先して市の駐車場等にされてしまったことと似た影響があるかなと感じています。つまりはもう二度とその場所から以前と同じような状況では新しいサムシングが生まれたり育まれたりすることはないのです。これからのニューオリンズは恐らく今のシカゴやニューヨークと同じくミュージシャンがたむろするお店を中心に情報やアイデアが交換されて発展していく街になるのかなーと。以前はそれがストリートで生まれたり揉まれたりしていたものが・・・です。5年後、10年後あるいは20年後くらいにはかなり違った音楽的土壌に変化しているかも知れませんね。でもそれもまたニューオリンズのたどる運命のひとつだったのかななどと最近は思うようになっています。

bb白岩(appleJam)


9月のオススメ盤(工藤)

2006年09月01日 | 音楽
今回も6月の発売で少し間があいてしまいましたが、個人的にけっこう良いアルバムだったので、今月紹介させていただきます。

「トニー・ウィリアムスへのオマージュ」とサブタイトルにあります。トニーの’69年のアルバム「エマージェンシー」とも聴き比べをしましたが、トニーとジャック・ディジョネットを中心に聴き比べたところ、共通の曲も演奏してはいるものの、他の昔のメンバーもジョン・マクラフリンとラリー・ヤングでキャラクターが違うので、やっぱりドラムスもサウンドも別ものとしてとらえた方が良いくらい違うことが分かります。やっぱりここでのジョン・スコフィールドやラリー・ゴールディングスとのトリオは強力だし、音はECMらしからぬ、そして内容はECMらしい独創性のあるアルバムに仕上がったというところでしょうか。私的には今年のかなり上位にくるアルバム。


サウダージス/トリオ・ビヨンド(ECM)
Saudages/Trio Beyond(ECM 1972/73) - Recorded November 21, 2004. Jack DeJohnette(Ds), Larry Goldings(Org, El-p, Sampler), John Scofield(G) - 1. If 2. As One 3. Allah Be Praised 4. Saudages 5. Pee Wee 6. Spectrum 7. Sven Steps To Heaven 8. I Fall In Love Too Easily 9. Love In Blues 10. Big Nick 11. Emergency

2枚組CDのライヴで、トニー・ウィリアムスへのオマージュとのこと。ラリー・ゴールディングスの作曲でやや叙情的な2曲目、トリオでのインプロヴィゼーションでミディアムの8ビート的なファンクのタイトル曲の4曲目と、渋めのブルースの9曲目の他は、トニー・ウィリアムスの曲(5、11曲目)や、ジャズメン・オリジナルが多く、ECMにしては温度感が高くハードなジャズの曲が多いです。ミュージシャンの露出度も抜群。1、10曲目あたりは4ビートのビンビンくるオルガンジャズを堪能できます。5曲目は静かな、そして盛り上がる場面もあるバラード。6-7曲目もなかなかスピーディーでスリリング。しっとりとした部分もあるスタンダードのバラードの8曲目。トニーのトリビュートに欠かせない11曲目はイェーイといいたくなる選曲。(06年6月7日発売)

ジャズCDの個人ページ 工藤