3月11日の日本民話
草葉のかげ
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むかしむかし、あるところに、とてもなまけ者の男がいました。
近所の大だんなの家で働いていましたが、少し働くとすぐ遊んでしまうので、いつもお金がありません。
ですから、すぐに大だんなのところへ行って、
「かならず返しますから、お金を貸してください」
と、言って、お金を借りてくるのです。
ですが、まだ一度も返したことがありません。
さて、もうすぐお正月だというのに、食べるお米がなくなってしまいました。
大だんなのところへ借りにいこうにも、お金を一度も返したことがないので、これ以上は貸してくれそうにもありません。
だからといって、このままでは死んでしまいます。
それに、男には大勢の子どもがいて、
「おなかすいた、おなかすいた」
と、さわぎ立てるのです。
男はこまってしまい、頭をかかえこんでしまいました。
(なにか、うまくいく工夫はないものか?)
男はしばらく考えていましたが、
「そうだ、うまい手がある」
と、言って、おかみさんを大だんなの家にいかせました。
「大だんなさま、うちの主人が死にました。今日食べるお米もありません。どうか、お米を一俵(いっぴょう)、貸してください」
おかみさんは男に言われたとおり、いかにも悲しそうな顔で話しました。
「そうか、それはかわいそうに。お前の家には貸しがいっぱいあるけど、まあいい。米を一俵、・・・いや、そこにある三俵全部持っていくがよい」
大だんなはおかみさんに同情(どうじょう)して、三俵のお米のほかに、お金まで貸してくれました。
男は大喜びで、しばらくはそのお米とお金で暮らしていましたが、少しも働かないので、そのうちにお金もお米もなくなってしまいました。
すぐにでも働きに行かなければなりませんが、でも、死んだ人間が大だんなの家に働きにいっては、ウソがばれてしまいます。
どうしようかと、大だんなの家の前でウロウロしているところへ、大だんなが出てきました。
(しまった、見つかったか)
男は大あわてで、近くの草むらの中へかくれました。
「おいおい、そこにかくれているのはわかっている。全く、死んだなんて、ウソをつくにもほどがあるぞ。さあ、でてこい」
男が出てこないので、大だんなは草むらのそばにやってきました。
すると男は、大だんなに手を合わせて言いました。
「いや、この間はすまんことでした。いえ、ウソなんかついていません。こうして、草葉のかげからおがんでおります」
ちなみに草葉のかげからというのは、なくなった人のことをいうときに使う言葉です。
おしまい
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