きょうの日本民話 gooブログ編

47都道府県の日本民話をイラスト付きで毎日配信。

7月31日の日本民話

2007-07-31 05:20:38 | Weblog

福娘童話集 > きょうの日本民話 > 7月の日本民話

7月31日の日本民話

鳥になったかさ屋

鳥になったかさ屋
大阪府の民話大阪府情報

 むかしむかし、河内の国(かわちのくに→大阪東部)に、かさ屋のまさやんという若者がくらしていました。
 まさやんは毎日毎日、ただ、だまってかさをはりつづけておりました。
「おーい、まさやん、せいが出るのう」
「ああ、おかげさんで」
 まさやんは、通りがかりの村の人が声をかけたときだけしか声を出しません。
 天気のよい日には表に道具を出して、空をとぶ鳥を見あげながらしごとをするのが、まさやんのたった一つの楽しみです。
「気持ちええやろなあ。あんなふうに空をとべたらなー」
 そんなある日の事、かさが一つ風にとばされてしまいました。
 かさが一本でもなくなれば、その日はごはんが食べられません。
「うわっ、待てえ!」
と、とんでいくかさを、まさやんはひっしでおいかけました。
「とっ!」
と、かさにとびつくと、まさやんのからだはフワッと宙にうきました。
 でも、すぐに地面におちてしまいました。
「おお、いたっ!」
 ドスンと打ったおしりをなでながら、しばらくポカンと空を見あげていたまさやんは、ふと、おもしろいことを思いついたのです。
「そうや、これや!」
 それから、三日がたちました。
(ようし、これから、空をとんでみせる)
 まさやんは屋根の上に立って、かさをひろげました。
 これを見た村の人たちは、おどろいて屋根の下にあつまってきました。
「おーい、まさやん、そんなところにのぼって、何をはじめるんじゃい?」
「へい。これから空をとぼうと思いますねん」
「空をとぶ? そんなアホなこと、やめとかんかい」
「そやそや、あぶないで」
 みんながとめるのも聞かず、まさやんはとびました。
 いえ、とんだつもりです。
「うっ、ういたぞ、ういたぞ」
と、思ったとたん、見物人の目の前にドスーン。
「まさやん、けがはないか?」
 まさやんは、ちょっぴりはずかしそうに頭をかきながらいいました。
「へへへ、だいじょうぶや。だいじょうぶや」
 それからというもの、まさやんは空をとぶことにむちゅうで、夜も昼もその事ばかり考えていました。
「そうや、もっともっと大きいのをつくらんと。大きくてじょうぶなやつを」
 まさやんは商売のかさはりをほうりだして、ごはんが食べられなくても気にしません。
 はらがへれば水をのんで、夜中までむちゅうになって空とぶかさづくりをつづけます。
 それから、何日目かの朝の事です。
「でけたぞう。これだけ大きければ、まちがいあらへん。そや、こんどは屋根より高いところからとんでみよう」
 まさやんは大きなかさを持って、えっちらおっちら歩きだしました。
 まさやんのお目あては、村で一番高いスギの木です。
「でっかいかさやなあ。またとぶつもりやで」
「こんどはこの上からとびおりるんか? あんな高いところからとんだら、死んでしまうがな」
 心配した村の人たちが、いっしょうけんめいとめましたが、まさやんはすこしも気にせずニッコリわらって、スギの木のてっぺんへとのぼっていきました。
「うわあ、高いなあ。こうしてながめると、家も人間も小さいもんや。あんな小さな家の中で、ゴチャゴチャいうてくらしとるんかいなあ。それにくらべて、烏たちは広い広い空でせいせいしとるんやろなあ」
 そしてとうとう、まさやんはかさをひろげました。
「うわっ、かさひろげよった!」
「うわっ、とびよった!」
「こんどこそ、とぶんか!」
と、思ったけれど、またまたしゅっぱいです。
 でもまさやんは、それでもこりません。
 夜になると、またゴソゴソなにかをはじめました。
「数をふやせばだいじょうぶや」
 次の日、まさやんはまた、スギの木の上へのぼりましたが、またもやわらの上ヘドスーン!
 これを何回くりかえした事でしょうか。
 何回やっても失敗するので、いまではもう、見物人もあつまりません。
 しかし、まさやんはかさをかついで、今日も出かけていきます。
 村の人たちは、あきれ顔でいいました。
「まだやっとる」
「病気じゃのう」
「アホや」
 まさやんは、今日もスギの木の上に立ちました。
 でも、いつもとちがって、すぐにはとびません。
 なにやら、待っているようすです。
 しばらくして、ソヨソヨとスギの葉が風でゆらぎます。
「きたきた、でも、まだとばんでえ」
 だんだん風が強くなってきました。
「よし、いまや!」
 まさやんはとびました。
 フワリ。
 ひろげたかさと一緒に、空へまいあがります。
「やった! 鳥や、これが鳥の気分や。せいせいするでえ。あはは」
 まさやんが空をとんだうわさは、殿さまの耳にもとどいて、村は大さわぎとなりました。
 まさやんの家には、おおぜいの人たちがあつまってきました。
「まさやん、殿さまが空とぶかさを買いたいんやと。お金はなんぼでも出すと。殿さまは、そのかさで敵の城を空からせめるおつもりなんや」
「それがうまくいってみい。まさやんはお城づとめや。いやいや、侍大将ぐらいになれるかもしれん」
 あんなにまさやんの事をバカにしていた村の人たちも、みんなでまさやんをほめはじめました。
「たいへんな出世や。うらやましいなあ」
 ところがまさやんはというと、とってもこまったようすです。
「えらいことになったなあ。いっそ、このかさをこわしてしまおうか。いやいや、そんなことしたら、お殿さまのいいつけにそむいたと、殺されてしまうわ」
 まさやんは、ただ自分が空をとびたくてつくったかさが、いくさの道具につかわれるのがいやだったのです。
 ひとばん考えたまさやんは、次の日のタ方、かさをかかえてコッソリ家をぬけだすと、スギの木のてっぺんから秋の夕空高くとびたちました。
 かさをひろげてとぶ人間を見て、鳥たちはビックリ。
「鳥よ。一緒にいこか」
 かさ屋のまさやんは、そのまま消えてしまったという事です。

おしまい

きょうの豆知識と昔話

きょうの記念日 → 蓄音機の日
きょうの誕生花 → やなぎらん
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7月30日の日本民話

2007-07-30 05:12:42 | Weblog

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7月30日の日本民話

オオカミ退治

かえってきたなきがら
京都府の民話京都府情報

 むかしむかし、京の都のある屋敷(やしき)に、娘がくらしていました。
 父と母にかわいがられて育ちましたが、もう、二人とも死んでしまっていません。
 娘はお嫁にいくこともなく、屋敷をまもっていましたが、ある時、重い病気にかかって死んでしまいました。
 そこで親戚(しんせき)の人たちがお葬式(そうしき)をすることになって、娘のなきがらをひつぎにおさめて、さみしい野原に運んでいきました。
 その途中の事、ひつぎをかついでいた人たちが、
「おや? どうしたんだろう? 急にひつぎがかるくなったぞ。ちょっと、しらべてみよう」
と、いいだしました。
 ひつぎをおろしてみると、ふたがほんの少し開いています。
「あっ!」
 ふたを開けた人たちは、思わずビックリ。
 なんと、たしかにおさめたなきがらが、かげもかたちもありません。
「どこかに、落としてきてしまったのだろうか?」
「そんなはずはない。もし落とせば、すぐにわかるはずだ」
「とにかく、道をもどってみよう」
 親戚の人たちはひきかえしましたが、なきがらを見つける事はできません。
 すると、一人の男が、
「もしかしたら、あの屋敷に」
と、娘の屋敷へ出かけてみました。
 すると娘のなきがらが、もとのまま座敷のふとんに横たわっていたのです。
 男はおそろしくなって、親戚の人たちを呼びよせて相談しました。
「まったく、不思議な事だ。わけがわからん」
「いずれにしても、明日、あらためて野べ送りをしようではありませんか」
 こうして野べ送りは、あくる日やりなおされる事になりました。
 娘のなきがらは、ふたたびひつぎにおさめられ、しっかりとふたがされました。
「では、そろそろ運びましょう」
親戚の人たちがひつぎに手をかけようとすると、しっかりふさいだふたが、わずかに開きはじめたではありませんか。
親戚の人たちがあっけにとられていると、ふたはさらに開いて、娘のなきがらが立ちあがりました。
「あわわ!」
「・・・・・・!」
 親戚の人たちは、腰をぬかして口もきけません。
 ひつぎをぬけだしたなきがらは、もとの座敷のふとんによこたわりました。
「不気味な事だが、このままにしておくわけにはいくまい。もう一度、ひつぎにおさめよう」
 親戚の人たちはおそるおそる、なきがらをかかえあげようとしたのですが、まるで根をはやしたようにビクともしません。
 そのとき一人のおじいさんが、なきがらの耳もとにはなしかけました。
「そうか、そうか。この屋敷をはなれたくないというのだな。では、のぞみをかなえて床下にうめてあげよう」
 おじいさんはみんなをさしずして、床をはがしてもらい、穴をほりました。
 おじいさんがなきがらをだくと、今度はやすやすとだきあげられ、床下におろされました。
 親戚の人たちは土をもりあげて、つかをつくると、ホッとした顔でかえっていきました。
 やがて屋敷はとりこわされましたが、つかだけは、今でも残されているそうです。

おしまい

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7月29日の日本民話

2007-07-29 06:54:15 | Weblog

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7月29日の日本民話

十数えてごらん

十数えてごらん
鹿児島県の民話鹿児島県情報

 むかしむかし、ある年の大みそかの事です。
 お日さまが貧しい坊さんに姿をかえて、とぼとぼ村を歩いていました。
 大きな庄屋(しょうや)の家を見つけると、坊さんは家の戸をトントンとたたいて、
「何か、食べる物をめぐんでくだされ」
と、いいましたが、けちんぼうの庄屋は、
こじき坊主にやるもんは、なんもない。とっとと失せろ!」
と、坊さんを追いかえしてしまいました。
 坊さんはしかたなく、となりの貧しいおじいさんとおばあさんの家へいきました。
 すると、
「これはこれは、たったいま、アワガユができたところです。さあ、どうぞお食べ下さい。一緒に年忘れをしましょう」
と、おじいさんは、坊さんを家の中にまねきいれてくれました。
 けれど、おなべの中はお湯ばかりで、アワなど少しも見えません。
 坊さんは、おばあさんにいいました。
「そのおなべを洗ってな、葉っぱを三枚入れて、もう一度煮てごらんなさい」
 いわれたとおりにすると、おなべの中に、野菜の煮物がいっぱい出てきたのです。
 次に坊さんは、ふところから米つぶを三つぶとりだして、
「おかまを洗って、このお米をたきなさい」
と、いうので、そのとおりにすると、今度はおかまいっぱいに、ホカホカのご飯がたきあがったのです。
「さあ、これでおかずもご飯もできた。三人で、たのしい年忘れの食事をしましょう」
 坊さんにいわれて、おじいさんとおばあさんは、まっ白なご飯とごちそうですばらしい年忘れをしました。
 おなかがいっぱいになると、坊さんが二人にいいました。
「明日はお正月じゃ。もし望みがかなうなら、あなたがたは宝物がほしいかな? それとも、もう一度若くなりたいですかな?」
「はい、わしらはよく話します。二人が出会った十七、八にかえってみたいと」
 おじいさんがそう答えると、お坊さんはたらいにお湯をわかすようにいって、黄色い粉をパラパラとお湯の中に落としました。
「さあ、手をつないでお湯につかってみなされ。そして、十数えてみなされ」
 おじいさんとおばあさんは、言われたとおりにお湯につかりながら、
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」
と、十数えると、二人はたちまち若い娘と若者になっていたのです。
 二人が喜んでいると、もう夜が明けてきました。
 娘になったおばあさんが井戸水をくみにいくと、となりの庄屋夫婦がおどろいて、わけをたずねました。
 話をきいて庄屋は、すぐに坊さんを家へひっぱっていき、むりやりごちそうしました。
「わしは夜が明けたら、空へ帰らねばならんのじゃ。早くふろをわかしなさい」
 すぐにおふろをわかすと、坊さんは赤い粉をパラパラとおふろに落としました。
「さあ、もう時間がないから、奥さんも息子さんも、この家で働いておる者も全部一緒に入ってな。十数えてみなされ」
 そういわれて、みんなは大喜びです。
 そして一度におふろに入り、十数えてとびだすと、庄屋さんと奥さんはずるがしこいサル、息子はイヌ、働いている三人の男と女は、ネコとネズミとヤギになっていたという事です。

おしまい

きょうの豆知識と昔話

きょうの記念日 → 肉の日
きょうの誕生花 → ダリア
きょうの誕生日 → 1947年 せんだみつお(タレント)

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7月28日の日本民話

2007-07-28 05:14:17 | Weblog

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7月28日の日本民話

万蔵とウマ

万蔵とウマ
福島県の民話福井県情報

 むかしむかし、小坂峠(こさかとうげ→福島県)のふもとの村に、万蔵(まんぞう)という若い男がいました。
 万蔵は心のやさしい正直者で、毎日のようにウマの背に荷物をのせて峠(とうげ)をこえていました。
 ある日のこと、万蔵はかけごとで大負けをして、大事なウマまでとられてしまいました。
 万蔵が夕暮れの峠の道をのぼっていくと、旅姿(たびすがた)の老人がしょんぼり石にすわっています。
「どうした? じいさん」
 万蔵がわけをたずねると、
「実はお金をつかいはたしてしまい、朝から何も食べておらんのじゃ」
と、いうのです。
「そりゃあ、お気の毒だな。おいらにまかせておきな」
 万蔵は自分が無一文なのも忘れて老人を元気づけると、知りあいの茶屋(ちゃや)へつれていきました。
「ここで二、三日、ゆっくり体を休めていくといい。お金はおいらがなんとかするから。なんでもたくさん食ってな。はやく元気になるんだぞ。なにも心配はいらないから」
 万蔵は老人を茶屋の主人にたのんで、家に帰っていきました。
 そして次の日の朝でかけてみると、またあの老人が、きのうの峠の石にすわっているのです。
 でも今日の老人は、黒毛のたくましいウマを五頭もつれています。
「きのうのお礼に、このウマをさしあげよう。町へいって売りなされ」
 老人は、にこやかにいいました。
「こんなに立派なウマを。・・・あ、あなたさまは、どこのだんなさまで?」
 万蔵がたずねると、老人はニッコリわらって、
「この峠の上の、稲荷大明神(いなりだいみょうじん)のつかいの者じゃ」
と、いって、けむりのようにスーッと消えてしまいました。
 万蔵は老人にいわれたとおり、五頭のウマをひいて町へいきました。
 すると、
「なんともすばらしいウマを、五頭もつれ歩いている男がいる」
と、いう話がお城へ届いて、すぐに殿さまが五頭とも買いあげてくれたのです。
 万蔵は思いがけない大金を手にしましたが、もうかけごとはしようと思いませんでした。
 その大金で峠に稲荷大明神をまつるお堂(どう)をつくってそこにすみ、雪の日や雨の日などに、峠越えで苦しむ人たちを助けはじめたのです。
 ところがある日のこと、お城からたくさんのさむらいがやってきて、
「お殿さまが買いあげたウマが、五頭とも消えてしまった。お前がぬすんで、ほかに売ったのではないのか?」
と、いうではありませんか。
 万蔵は、どうしてよいかわからなくなりました。
 こまった万蔵は、お城にでむいてふしぎな老人と出会ってからの事をぜんぶ話しました。
 すると、万蔵の話をきいた殿さまは、
「お前をうたがってすまぬ。これはきっと、正直でやさしいお前に神がやどったのじゃろう」
と、万蔵をほめたたえという事です。

おしまい

きょうの豆知識と昔話

きょうの記念日 → 第一次世界大戦開戦日
きょうの誕生花 → つゆくさ
きょうの誕生日 → 1978年 矢井田瞳(シンガー)

きょうの日本昔話 → うば捨て山
きょうの世界昔話 → 人魚のしかえし
きょうの日本民話 → 万蔵とウマ
きょうのイソップ童話 → からいばり
きょうの江戸小話 → とこを取れ

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7月27日の日本民話

2007-07-27 05:34:18 | Weblog

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7月27日の日本民話

オオカミの恩返し

オオカミの恩返し
大分県の民話大分県情報

 むかしむかし、ある山の中の一軒家(いっけんや)に、おかあさんの息子がくらしていました。
 二人はひどい貧乏だったので、お母さんも息子も、毎日毎日働きづくめです。
 ある日のま夜中の事、お母さんが急の病(やまい)にかかって苦しんでいました。
 医者は、山の向こうの里にしかいません。
 それに山にはたくさんのオオカミがいるので、夜になると誰も外に出ようとはしません。
 ですが息子は、お母さんの病気を治したい一心で出かけました。
「たのむ、オオカミよ、どうか出ないでくれ」
 息子は神さまにいのりながら、山道をいそぎましたが、やはりオオカミは出てきたのです。
 一匹の大きなオオカミに、まっ赤な目でにらまれた息子は、
「オオカミどん、今だけはおらを食うのをかんべんしてくれ。おっ母さんが病気で苦しんどるだ。医者さまを連れて来ねばなんねえ。たのむ。見逃がしてくれ」
と、言いましたが、オオカミはこっちへ近づいてきます。
「たのむ。医者さま連れて来たら、きっと食われに来るから」
 息子は泣いてたのみましたが、オオカミはどんどん近づいてきます。
 オオカミの息が顔にかかったとき、息子は目をつぶって、オオカミに食べられるのをかくごしました。
 ですが、オオカミはかみついてきません。
(もっ、もしかして、見逃してくれたのか?)
 息子がゆっくりと目を開けると、オオカミはやっぱり目の前にいます。
「ヒエーッ!」
 息子は再び目をつぶりましたが、オオカミはその場にジッとしています。
(どうした? どうして、かみつかないんだ? なにか、言いたいことでもあるのか?)
 不思議に思った息子がオオカミを見ていると、どうもオオカミの様子がおかしいのです。
 舌をベロンと出して、口を大きく開けたまま何度も頭を下げたり上げたりしています。
 どうも、口にある何かをうったえている様子です。
 息子がオオカミの口の中をのぞいてみると、キラリと光る物がありました。
「おや、のどに骨が刺さっとるぞ」
 息子はオオカミののどに手を入れて、ささっていた骨をぬいてやりました。
 するとオオカミは何度も何度も頭を下げて、そのまま立ち去っていきました。
 何とか無事に、息子は医者の家をたずねたのですが、医者はオオカミを怖がって、外に出ようとはしません。
 そこで息子は薬だけをもらって、急いで山道を引き返していきました。
 すると今度は、四、五十匹ものオオカミが息子に寄って来て、するどいキバを息子にむけました。
(ああっ、今度こそだめだ。おっ母さん。すまん!)
 息子がかくごを決めたその時、突然大きなオオカミが飛び込んで来て、取り囲んでいるオオカミに向かってほえました。
 すると、息子を取り囲んでいたオオカミたちは、一斉(いっせい)にどこかへ行ってしまいました。
 この大きなオオカミは、さっき息子が骨を抜いてやったオオカミで、オオカミの大将だったのです。
 息子はオオカミの大将に守られながら、無事に家に帰ることが出来ました。
 次の朝、息子が家を出ようとすると、家の前にイノシシやウサギやキジなどの獲物(えもの)が、山のようにつまれています。
 息子はそれをふもとの里に売りに行き、たくさんのお金を手にすることが出来ました。
 また、お母さんの病気もすっかりよくなったので、二人は幸せに暮らすことが出来ました。

おしまい

きょうの豆知識と昔話

きょうの記念日 → スイカの日
きょうの誕生花 → フィソステギア
きょうの誕生日 → 1930年 高島忠夫(俳優)

きょうの日本昔話 → 母親にばけたネコ
きょうの世界昔話 → ネコとヒョウ
きょうの日本民話 → オオカミの恩返し
きょうのイソップ童話 → 金のライオンを見つけた男
きょうの江戸小話 → カニのふんどし

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