きょうの日本民話 gooブログ編

47都道府県の日本民話をイラスト付きで毎日配信。

7月31日の日本民話 鳥になったかさ屋

2010-07-31 06:56:16 | Weblog

福娘童話集 > きょうの日本民話 > 7月の日本民話


7月31日の日本民話


鳥になったかさ屋



鳥になったかさ屋
大阪府の民話大阪府情報


 むかしむかし、河内の国(かわちのくに→大阪東部)に、かさ屋のまさやんという若者がくらしていました。
 まさやんは毎日毎日、ただ、だまってかさをはりつづけておりました。
「おーい、まさやん、せいが出るのう」
「ああ、おかげさんで」
 まさやんは、通りがかりの村の人が声をかけたときだけしか声を出しません。
 天気のよい日には表に道具を出して、空をとぶ鳥を見あげながらしごとをするのが、まさやんのたった一つの楽しみです。
「気持ちええやろなあ。あんなふうに空をとべたらなー」
 そんなある日の事、かさが一つ風にとばされてしまいました。
 かさが一本でもなくなれば、その日はごはんが食べられません。
「うわっ、待てえ!」
と、とんでいくかさを、まさやんはひっしでおいかけました。
「とっ!」
と、かさにとびつくと、まさやんのからだはフワッと宙にうきました。
 でも、すぐに地面におちてしまいました。
「おお、いたっ!」
 ドスンと打ったおしりをなでながら、しばらくポカンと空を見あげていたまさやんは、ふと、おもしろいことを思いついたのです。
「そうや、これや!」
 それから、三日がたちました。
(ようし、これから、空をとんでみせる)
 まさやんは屋根の上に立って、かさをひろげました。
 これを見た村の人たちは、おどろいて屋根の下にあつまってきました。
「おーい、まさやん、そんなところにのぼって、何をはじめるんじゃい?」
「へい。これから空をとぼうと思いますねん」
「空をとぶ? そんなアホなこと、やめとかんかい」
「そやそや、あぶないで」
 みんながとめるのも聞かず、まさやんはとびました。
 いえ、とんだつもりです。
「うっ、ういたぞ、ういたぞ」
と、思ったとたん、見物人の目の前にドスーン。
「まさやん、けがはないか?」
 まさやんは、ちょっぴりはずかしそうに頭をかきながらいいました。
「へへへ、だいじょうぶや。だいじょうぶや」
 それからというもの、まさやんは空をとぶことにむちゅうで、夜も昼もその事ばかり考えていました。
「そうや、もっともっと大きいのをつくらんと。大きくてじょうぶなやつを」
 まさやんは商売のかさはりをほうりだして、ごはんが食べられなくても気にしません。
 はらがへれば水をのんで、夜中までむちゅうになって空とぶかさづくりをつづけます。
 それから、何日目かの朝の事です。
「でけたぞう。これだけ大きければ、まちがいあらへん。そや、こんどは屋根より高いところからとんでみよう」
 まさやんは大きなかさを持って、えっちらおっちら歩きだしました。
 まさやんのお目あては、村で一番高いスギの木です。
「でっかいかさやなあ。またとぶつもりやで」
「こんどはこの上からとびおりるんか? あんな高いところからとんだら、死んでしまうがな」
 心配した村の人たちが、いっしょうけんめいとめましたが、まさやんはすこしも気にせずニッコリわらって、スギの木のてっぺんへとのぼっていきました。
「うわあ、高いなあ。こうしてながめると、家も人間も小さいもんや。あんな小さな家の中で、ゴチャゴチャいうてくらしとるんかいなあ。それにくらべて、烏たちは広い広い空でせいせいしとるんやろなあ」
 そしてとうとう、まさやんはかさをひろげました。
「うわっ、かさひろげよった!」
「うわっ、とびよった!」
「こんどこそ、とぶんか!」
と、思ったけれど、またまたしゅっぱいです。
 でもまさやんは、それでもこりません。
 夜になると、またゴソゴソなにかをはじめました。
「数をふやせばだいじょうぶや」
 次の日、まさやんはまた、スギの木の上へのぼりましたが、またもやわらの上ヘドスーン!
 これを何回くりかえした事でしょうか。
 何回やっても失敗するので、いまではもう、見物人もあつまりません。
 しかし、まさやんはかさをかついで、今日も出かけていきます。
 村の人たちは、あきれ顔でいいました。
「まだやっとる」
「病気じゃのう」
「アホや」
 まさやんは、今日もスギの木の上に立ちました。
 でも、いつもとちがって、すぐにはとびません。
 なにやら、待っているようすです。
 しばらくして、ソヨソヨとスギの葉が風でゆらぎます。
「きたきた、でも、まだとばんでえ」
 だんだん風が強くなってきました。
「よし、いまや!」
 まさやんはとびました。
 フワリ。
 ひろげたかさと一緒に、空へまいあがります。
「やった! 鳥や、これが鳥の気分や。せいせいするでえ。あはは」
 まさやんが空をとんだうわさは、殿さまの耳にもとどいて、村は大さわぎとなりました。
 まさやんの家には、おおぜいの人たちがあつまってきました。
「まさやん、殿さまが空とぶかさを買いたいんやと。お金はなんぼでも出すと。殿さまは、そのかさで敵の城を空からせめるおつもりなんや」
「それがうまくいってみい。まさやんはお城づとめや。いやいや、侍大将ぐらいになれるかもしれん」
 あんなにまさやんの事をバカにしていた村の人たちも、みんなでまさやんをほめはじめました。
「たいへんな出世や。うらやましいなあ」
 ところがまさやんはというと、とってもこまったようすです。
「えらいことになったなあ。いっそ、このかさをこわしてしまおうか。いやいや、そんなことしたら、お殿さまのいいつけにそむいたと、殺されてしまうわ」
 まさやんは、ただ自分が空をとびたくてつくったかさが、いくさの道具につかわれるのがいやだったのです。
 ひとばん考えたまさやんは、次の日のタ方、かさをかかえてコッソリ家をぬけだすと、スギの木のてっぺんから秋の夕空高くとびたちました。
 かさをひろげてとぶ人間を見て、鳥たちはビックリ。
「鳥よ。一緒にいこか」
 かさ屋のまさやんは、そのまま消えてしまったという事です。


おしまい


きょうの豆知識と昔話


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7月30日の日本民話 吹雪と女幽霊

2010-07-30 06:52:06 | Weblog

福娘童話集 > きょうの日本民話 > 7月の日本民話


7月30日の日本民話


吹雪と女幽霊



吹雪と女幽霊
新潟県の民話新潟県情報


♪朗読再生


 むかしむかしのある寒い冬の夜ふけ、村はずれにある久左衛門(きゅうざえもん)というお百姓の家の戸を、トントン、トントンとたたく者がいました。
 ふとんにくるまってねむっていた久左衛門は、目をさまして、
「だれだ? こんな夜ふけに」
と、起きあがると、
「どなたですかな?」
と、戸口へ声をかけました。
 すると、戸のむこうから若い女の声が聞こえてきました。
「夜分にすみません。実はこの吹雪で、先へ進めなくなりました。どうか、しばらく休ませてください」
 久左衛門は気の毒に思って、戸を少し開けました。
 するとそのとき、
「ご親切に、ありがとうございます」
と、いう声が、背中の方から聞こえてきました。
 久左衛門はびっくりして、後ろをふりむきました。
「お前さん、いつ、家の中に入ったんだ?」
 まっ白な着物を着て肩の下まで長い黒髪をたらした若い女は、顔色も白くて雪の精のようです。
「わたしはとなり村へいく途中なのですが、この吹雪では前へ進めません。風がおさまれば、すぐに出ていきます。どうかそれまで、ここで休ませてください」
 女の人は立ったまま、静かにいいました。
 その女の人の顔と声に、久左衛門は一年前におこった、となり村の大雪の事故を思い出しました。
「あっ、あんた、もしかして隣村の? おっ、おらは幽霊などに、うらまれる覚えはないぞ!」
 久左衛門が怒ったようにいうと、女の人は、
「わたしの事を、聞いたことがあるようですね」
と、いって、静かに話し出しました。
「わたしは、となり村の弥左衛門(やざえもん)の娘のお安(やす)です。一人娘なので、年をとった父は三年前、伊三郎(いさぶろう)という婿さんを家にむかえて、わたしと夫婦になりました。ところが去年の冬、大雪に埋まってわたしが死ぬと、伊三郎は病気の父を捨てて、実家へ帰ってしまったのです。明日は、わたしの命日です。伊三郎のところへいって、うらみをいおうと思っているのです」
 しばらくすると吹雪がおさまってきたのか、あたりが静かになってきました。
 すると、ギギギィッと戸が開く音がして、気がつくと若い女の姿は消えていました。
 夜が明けるのをまって、久左衛門はお安の家へ出かけていくと、なんと婿の伊三郎がお安の父親の世話をしているではありませんか。
 伊三郎にたずねると、お安の幽霊は久左衛門の家を出たあと、伊三郎の枕元に現れたのでした。
 おそろしくなった伊三郎は、夜明け前にお安の家へもどってきたというのです。
 すっかり心をいれかえた伊三郎は、一生懸命お安の父親の看病をして、その父親が亡くなると頭をまるめてお坊さんになり、全国をめぐり歩く旅に出たという事です。


おしまい


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7月29日の日本民話 十数えてごらん

2010-07-29 07:13:55 | Weblog

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7月29日の日本民話


十数えてごらん



十数えてごらん
鹿児島県の民話鹿児島県情報


 むかしむかし、ある年の大みそかの事です。
 お日さまが貧しい坊さんに姿をかえて、とぼとぼ村を歩いていました。
 大きな庄屋(しょうや)の家を見つけると、坊さんは家の戸をトントンとたたいて、
「何か、食べる物をめぐんでくだされ」
と、いいましたが、けちんぼうの庄屋は、
こじき坊主にやるもんは、なんもない。とっとと失せろ!」
と、坊さんを追いかえしてしまいました。
 坊さんはしかたなく、となりの貧しいおじいさんとおばあさんの家へいきました。
 すると、
「これはこれは、たったいま、アワガユができたところです。さあ、どうぞお食べ下さい。一緒に年忘れをしましょう」
と、おじいさんは、坊さんを家の中にまねきいれてくれました。
 けれど、おなべの中はお湯ばかりで、アワなど少しも見えません。
 坊さんは、おばあさんにいいました。
「そのおなべを洗ってな、葉っぱを三枚入れて、もう一度煮てごらんなさい」
 いわれたとおりにすると、おなべの中に、野菜の煮物がいっぱい出てきたのです。
 次に坊さんは、ふところから米つぶを三つぶとりだして、
「おかまを洗って、このお米をたきなさい」
と、いうので、そのとおりにすると、今度はおかまいっぱいに、ホカホカのご飯がたきあがったのです。
「さあ、これでおかずもご飯もできた。三人で、たのしい年忘れの食事をしましょう」
 坊さんにいわれて、おじいさんとおばあさんは、まっ白なご飯とごちそうですばらしい年忘れをしました。
 おなかがいっぱいになると、坊さんが二人にいいました。
「明日はお正月じゃ。もし望みがかなうなら、あなたがたは宝物がほしいかな? それとも、もう一度若くなりたいですかな?」
「はい、わしらはよく話します。二人が出会った十七、八にかえってみたいと」
 おじいさんがそう答えると、お坊さんはたらいにお湯をわかすようにいって、黄色い粉をパラパラとお湯の中に落としました。
「さあ、手をつないでお湯につかってみなされ。そして、十数えてみなされ」
 おじいさんとおばあさんは、言われたとおりにお湯につかりながら、
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」
と、十数えると、二人はたちまち若い娘と若者になっていたのです。
 二人が喜んでいると、もう夜が明けてきました。
 娘になったおばあさんが井戸水をくみにいくと、となりの庄屋夫婦がおどろいて、わけをたずねました。
 話をきいて庄屋は、すぐに坊さんを家へひっぱっていき、むりやりごちそうしました。
「わしは夜が明けたら、空へ帰らねばならんのじゃ。早くふろをわかしなさい」
 すぐにおふろをわかすと、坊さんは赤い粉をパラパラとおふろに落としました。
「さあ、もう時間がないから、奥さんも息子さんも、この家で働いておる者も全部一緒に入ってな。十数えてみなされ」
 そういわれて、みんなは大喜びです。
 そして一度におふろに入り、十数えてとびだすと、庄屋さんと奥さんはずるがしこいサル、息子はイヌ、働いている三人の男と女は、ネコとネズミとヤギになっていたという事です。


おしまい


きょうの豆知識と昔話


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きょうの誕生花 → ダリア
きょうの誕生日 → 1947年 せんだみつお(タレント)



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7月28日の日本民話 万蔵とウマ

2010-07-28 07:39:15 | Weblog

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7月28日の日本民話


万蔵とウマ



万蔵とウマ
福島県の民話福井県情報


 むかしむかし、小坂峠(こさかとうげ→福島県)のふもとの村に、万蔵(まんぞう)という若い男がいました。
 万蔵は心のやさしい正直者で、毎日のようにウマの背に荷物をのせて峠(とうげ)をこえていました。
 ある日のこと、万蔵はかけごとで大負けをして、大事なウマまでとられてしまいました。
 万蔵が夕暮れの峠の道をのぼっていくと、旅姿(たびすがた)の老人がしょんぼり石にすわっています。
「どうした? じいさん」
 万蔵がわけをたずねると、
「実はお金をつかいはたしてしまい、朝から何も食べておらんのじゃ」
と、いうのです。
「そりゃあ、お気の毒だな。おいらにまかせておきな」
 万蔵は自分が無一文なのも忘れて老人を元気づけると、知りあいの茶屋(ちゃや)へつれていきました。
「ここで二、三日、ゆっくり体を休めていくといい。お金はおいらがなんとかするから。なんでもたくさん食ってな。はやく元気になるんだぞ。なにも心配はいらないから」
 万蔵は老人を茶屋の主人にたのんで、家に帰っていきました。
 そして次の日の朝でかけてみると、またあの老人が、きのうの峠の石にすわっているのです。
 でも今日の老人は、黒毛のたくましいウマを五頭もつれています。
「きのうのお礼に、このウマをさしあげよう。町へいって売りなされ」
 老人は、にこやかにいいました。
「こんなに立派なウマを。・・・あ、あなたさまは、どこのだんなさまで?」
 万蔵がたずねると、老人はニッコリわらって、
「この峠の上の、稲荷大明神(いなりだいみょうじん)のつかいの者じゃ」
と、いって、けむりのようにスーッと消えてしまいました。
 万蔵は老人にいわれたとおり、五頭のウマをひいて町へいきました。
 すると、
「なんともすばらしいウマを、五頭もつれ歩いている男がいる」
と、いう話がお城へ届いて、すぐに殿さまが五頭とも買いあげてくれたのです。
 万蔵は思いがけない大金を手にしましたが、もうかけごとはしようと思いませんでした。
 その大金で峠に稲荷大明神をまつるお堂(どう)をつくってそこにすみ、雪の日や雨の日などに、峠越えで苦しむ人たちを助けはじめたのです。
 ところがある日のこと、お城からたくさんのさむらいがやってきて、
「お殿さまが買いあげたウマが、五頭とも消えてしまった。お前がぬすんで、ほかに売ったのではないのか?」
と、いうではありませんか。
 万蔵は、どうしてよいかわからなくなりました。
 こまった万蔵は、お城にでむいてふしぎな老人と出会ってからの事をぜんぶ話しました。
 すると、万蔵の話をきいた殿さまは、
「お前をうたがってすまぬ。これはきっと、正直でやさしいお前に神がやどったのじゃろう」
と、万蔵をほめたたえという事です。


おしまい


きょうの豆知識と昔話


きょうの記念日 → 第一次世界大戦開戦日
きょうの誕生花 → つゆくさ
きょうの誕生日 → 1978年 矢井田瞳(シンガー)


きょうの新作昔話 → ひょうたんの大入道
きょうの日本昔話 → うば捨て山
きょうの世界昔話 → 人魚のしかえし
きょうの日本民話 → 万蔵とウマ
きょうのイソップ童話 → からいばり
きょうの江戸小話 → とこを取れ


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7月27日の日本民話 オオカミの恩返し

2010-07-27 07:04:43 | Weblog

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7月27日の日本民話


オオカミの恩返し



オオカミの恩返し
大分県の民話大分県情報


♪朗読再生


 むかしむかし、ある山の中の一軒家(いっけんや)に、お母さんと息子がくらしていました。
 二人はひどい貧乏だったので、お母さんも息子も、毎日毎日働きづくめです。
 ある日のま夜中の事、お母さんが急の病(やまい)にかかって苦しんでいました。
 医者は、山の向こうの里にしかいません。
 それに山にはたくさんのオオカミがいるので、夜になると誰も外に出ようとはしません。
 ですが息子は、お母さんの病気を治したい一心で出かけました。
「お願いだ。オオカミよ、どうか出ないでくれ」
 息子は神さまにいのりながら、山道を急ぎましたが、やっぱりオオカミは出てきたのです。
 一匹の大きなオオカミに、まっ赤な目でにらまれた息子は、
「オオカミよ、今だけはおらを食うのをかんべんしてくれ。おっ母さんが病気で苦しんでいるんだ。お医者さまを連れて来ないと。だからたのむ。見逃がしてくれ」
と、言いましたが、オオカミはこっちへ近づいてきます。
「たのむ。お医者さまを連れて来たら、きっと食われに来るから」
 息子は泣いてたのみましたが、オオカミはどんどん近づいてきます。
 オオカミの息が顔にかかったとき、息子は目をつぶって、オオカミに食べられるのを覚悟しました。
 ですが、オオカミはかみついてきません。
(もっ、もしかして、見逃してくれたのか?)
 息子がゆっくりと目を開けると、オオカミはやっぱり目の前にいます。
「ヒエーッ!」
 息子は再び目をつぶりましたが、オオカミはその場にジッとしています。
(どうした? どうして、かみつかないんだ? なにか、言いたいことでもあるのか?)
 不思議に思った息子がオオカミを見ていると、どうもオオカミの様子がおかしいのです。
 舌をベロンと出して、口を大きく開けたまま、何度も頭を下げたり上げたりしています。
 どうも、口にある何かをうったえている様子です。
 息子がオオカミの口の中をのぞいてみると、キラリと光る物がありました。
「おや、のどに骨が刺さっとるぞ」
 息子はオオカミののどに手を入れて、刺さっていた骨を抜いてやりました。
 するとオオカミは何度も何度も頭を下げて、そのまま立ち去っていきました。
 息子は何とか無事に、医者の家をたずねたのですが、医者はオオカミを怖がって、外に出ようとはしません。
 そこで息子は薬だけをもらって、急いで山道を引き返していきました。
 すると今度は、四、五十匹ものオオカミが息子に寄って来て、するどいキバを息子に向けました。
(ああっ、今度こそだめだ。おっ母さん。すまん!)
 息子が覚悟を決めたその時、突然大きなオオカミが飛び込んで来て、取り囲んでいるオオカミに向かってほえました。
 すると息子を取り囲んでいたオオカミたちは、一斉(いっせい)にどこかへ行ってしまいました。
 この大きなオオカミは、さっき息子が骨を抜いてやったオオカミで、オオカミの大将だったのです。
 息子はオオカミの大将に守られながら、無事に家に帰ることが出来ました。
 次の朝、息子が家を出ようとすると、家の前にイノシシやウサギやキジなどの獲物(えもの)が、山のようにつまれています。
 息子はそれをふもとの里に売りに行き、たくさんのお金を手にすることが出来ました。
 また、お母さんの病気もすっかりよくなったので、二人は幸せに暮らすことが出来ました。


おしまい


きょうの豆知識と昔話


きょうの記念日 → スイカの日
きょうの誕生花 → フィソステギア
きょうの誕生日 → 1930年 高島忠夫(俳優)



きょうの日本昔話 → 犬が寒がらない理由
きょうの世界昔話 → 四色のさかな
きょうの日本民話 → オオカミの恩返し
きょうのイソップ童話 → 金のライオンを見つけた男
きょうの江戸小話 → カニのふんどし


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