6月14日の日本民話
宝のどんぶり
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むかしむかし、鯖江(さばえ)の城下町(じょうかまち)に、五郎兵衛(ごろべえ)という男が住んでいました。
五郎兵衛はなまけ者で、少しも働こうとはせず、家にある品々を売って毎日をくいつないでいました。
そんなある日、とうとう家の中はふとん一枚が残るだけになりました。
さすがの五郎兵衛も、ふとんにあおむけになりながら考えこんでしまいました。
「もうこれ以上、売る物がない。どうしようか?」
その時ふと、天井からぶらさがっている小箱が目に止まりました。
「あった! あの箱を売ればいい。・・・いや、まてよ」
その箱は先祖代々(せんぞだいだい)、貧乏になって家をなくす時まで開けてはならないと伝えられている事を思いだしました。
しばらくの間、五郎兵衛は箱をにらんでいましたが、
「ええい、こんな時だ。ご先祖さまだって文句はいうまい」
と、さっさと箱を開けてしまいました。
すると箱の中には、うすよごれたどんぶりが一つ入っているだけです。
「ちぇっ、こんな物、何にもならないや。・・・まてまて、人のいい長者(ちょうじゃ)の源(げん)さんなら『家宝(かほう)だ』といえば、少しぐらいのお金をくれるだろう」
五郎兵衛はさっそく、長者のところへもっていきました。
長者は家宝まで売りにくる五郎兵衛をあわれに思い、うすよごれたどんぶりと米五俵(ひょう)をかえてくれました。
さて、その年の秋祭りの日に、長者がたくさんのお客を家に呼びました。
そしてなにげなく五郎兵衛のどんぶりを、みんなに見せました。
「長者さん、これが家宝だって? どんぶりの底にコイの染付(そめつけ)があるだけじゃないか。水でも入れたら、何か変わった事でもおきるのですかい? たとえば、染付のコイが泳ぎだすとか?」
と、じょうだん半分に客にいわれた長者は、
「そうだな。そうかもしれないぞ」
と、どんぶりに水を入れてみました。
すると不思議な事に、コイの染付がむくむくと動きだして、ピシャンと空中に飛びはねたのです。
「なんと、これは!」
一同は、ビックリです。
長者はその不思議などんぶりを、五郎兵衛に返しました。
五郎兵衛が何度も水を入れてみましたが、ただのどんぶりでした。
でも長者が水を入れると、コイがちゃんと泳ぎだすのです。
それをみた五郎兵衛は、これはご先祖さまのいましめにちがいないと思い、それからはまじめに働いたという事です。
おしまい
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