わたしを離さないで
カズオ・イシグロ 著 早川書房 / 2008.8
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。
生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。
キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。
図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。
彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。
あの~、ミステリーってほどでもないのですが、キャシーが語るヘールシャムでの回想等が緻密で、そこに引き込まれるものがあったように思います。
回想もそうなのですが、キャシーとルース、トミーとのやり取りもとても緻密なものでした。
例えば、ケンカになりそうな時の自分(キャシー)の気持ちはもちろん、相手のルースやトミーの気持ち、その間にある空気感など、お話から一歩外に出て、著者であるイシグロさんに感心してしまうほどでした(笑)。
そして、徐々に徐々に明かされるキャシーたちヘールシャム出身者の行く末に、ミステリーという感覚を失いただ気落ちしてしまいました。
じわりじわりと彼女たちの闇を、しかもキャシーの口から淡々と語られる様子に、私は彼女たちの表情を想像することができませんでした。