ただの映画好き日記

観た映画と読んだ本の自分用メモ。

とっぴんぱらりの風太郎 / 万城目学 著

2013-10-05 | 本 万城目学


  とっぴんぱらりの風太郎

  万城目 学 著     文藝春秋 / 2013.9



  天下は豊臣から徳川へ──。
  重なりあった不運の末に、あえなく伊賀を追い出され、京(みやこ)でぼんくらな日々を送る“ニート忍者”風太郎(ぷうたろう)。
  その人生は、1個のひょうたんとの出会いを経て、奇妙な方向へと転がっていく。
  やがて迫る、ふたたびの戦乱の気配。だましだまされ、 斬っては斬られ、
  燃えさかる天守閣を目指す風太郎の前に現れたものとは──。







いやぁ~、マキメくん、お久しぶり!
久しぶりのマキメくんはちょっと変化していました。
中盤までは、微笑ましいポイント、感動のポイント、笑わせるポイント、それぞれのポイントが、ほんの一言だけで描かれていて、そのちょっとだけのポイントを拾えた自分が嬉しくなるというか、本当に私の好みを解ってくれているなぁ~と、思わず唸ってしまいました(笑)。

ひさご様との蹴鞠のシーンは本当に微笑ましかったですし、ねね様が左門の最期を問う一言には思わずグッとくるものがありました。
他にも、風太郎が芥下に戦で村焼きをして親子を殺したことを告白するシーンもグッとせずにはいられません。
芥下も幼い頃、戦のために忍びに家を焼かれ、親を殺された経緯があり、戦そのものを憎んでいたため、風太郎は芥下に戦に行っていたことは黙っていたかったはずで、ですが、きちんと、芥下に告白し、芥下もまたそれをきちんと受け止めるシーンは何とも言えないものがありました。
それまでパッとしない風太郎でしたが、このことで元来の風太郎を見られた気がしました。

もののけひょうたんの存在や黒弓の存在、他の伊賀の忍び仲間、それぞれが個性的で印象的ではありますが、それら以上に、ねね様の存在がとても重要で、あの聡明かつ優しさが物語を引き立てていたように思いました。
祇園会の時もそうでしたが、特に、大阪に届けておくれと風太郎に頼んだ脇差しの宿命には、思わず、涙が出てきて止まりませんでした。
そのねね様の気持ちを汲み取れる秀頼もまた決して憎めず、好きになってしまう存在として描かれていたと思います。

そして、そして、後半に突入…。
風太郎の戦が始まるワケですが、なんとも、リアルに血なまぐさくて、物語の先はとても気になるけど、もはや、マキメワールドではなくなっていました。
申し訳ないけど、ちょっと嫌だな~と思ってしまう程、普通の時代小説になっていて、もののけひょうたんは都合の良い道具でしかなく、ラストはかなり感傷的で、『プリンセス・トヨトミ』をどうしても貫きたいのか、あ~、本音を言ってしまうと、マキメワールドを楽しみにしていた分、後半は微妙でした。
普通に普通の時代小説だったな~と思ってしまうほど、中盤までの雰囲気は失われ、特に、クライマックスは…。
どうして生き残ったのが百市なのか(絶命の時に呼べる名前が欲しかった?)、どうして、風太郎も黒弓もみんな死んでしまうのか、芥下は何も知らずに瓢箪屋を続けるのだろうと思うと…。

スゴク頑張っただろうなというのが伝わってくるだけに、本当に申し訳ないですし、残念なのですが、いつも、読後に感じる「面白かったーーーっ!」という感想は持てませんでした。
ですが、ここ数作で感じていた“不器用な優しさ(ご本人の)”は間違いなく自然体になりつつあり、これからももちろん楽しみな作家さんであることは間違いありません。
お疲れ様でした。




余談ですが、かなり分厚いです。
740ページ、最近では珍しい上下巻ではなく1冊です!
久しぶりに腕が痛くなる喜びを感じつつ、本はやっぱりこの重さが醍醐味だな~と改めて感じました。
しかも、装幀が簡素!
普通ある上品な表紙がなく、通常より幅の広い帯が1枚付いているだけでした。
更に更に、分厚くなるせいもあるのだと思いますが、紙が薄い!
最近は、本当に本の値段が高くて、無駄に豪華な装幀、更に無駄な上質な厚い紙、しかも、余白が多いことに憤りを感じ、中身で勝負じゃないの?と常々思っていて、極力、無駄を省かないとダメなんじゃないかな~と…。
そして、まさに、その無駄を省いた理想的な本がこの本でした。

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