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板の庵(いたのいおり)

エッセイと時事・川柳を綴ったブログ : 月3~4回投稿を予定

エッセイ:「青いカナリア(11)」2017.05

2017-06-01 07:40:10 | エッセイ
エッセイ:「青いカナリア(11)」2017.05


 記憶が薄れつつあるが、昨年小笠原諸島で中国の漁師が大挙(最大242隻)して赤サンゴの密漁をした。中国政府はそれを見て見ないふりをする。 一網打尽に拿捕されても文句は言えない泥棒行為である。
謝罪はおろか、国際社会から非難され嘲笑されてもそれを恥とも悪いことだとも思わない無神経な国だ。
中国では法律制定により資源保護の目的で赤サンゴの捕獲を禁止した。代わりに一攫千金を狙った密漁行為だとも言われている。
 
しかし、ジャーナリストの桜井よしこ氏は、往復4~5千キロの燃料代数百万円をかけてまで個人が行くだろうかと中国政府の関与を指摘する。

 サンゴは、熱帯・亜熱帯の透明度抜群の透き通る海底に、鮮やかな赤色など色とりどりのものが木の枝のように群生する。これを動物だと言われてもピンと来ないのである。
サンゴ礁が海洋に占める面積はたったの0.2パーセントだが海水魚の種の三分の一が、そして全海洋生物の四分の一がサンゴ礁にいる。それほど生物多様性の高いのがサンゴ礁である。

サンゴの特徴は、
①自分の体(ポリプ)の外側に石製(石灰質を分泌)のコップをつくりこの中に住んでいる。
 
 ②単体1匹のポリプは小さく(1センチ以下)、脇腹から芽を出したり、分裂させたりして自分そっくりのポリプを作り出す。
 これは無性生殖で、遺伝子もまったく同じのクローンだ。この繰り返しでできる群体の石造マンションが木や塊なのである。

 ③造礁サンゴは体(ポリープ)の中に藻類(褐虫藻)を住まわせ、それと共存・共生している。サンゴの重量の半分が褐虫藻なのだ。

 海の中で光合成するものは藻類(コンブ等)だけ。ところがサンゴ礁では水に揺らぐ藻類の林など見当たらない。また水の透明度が示しているように植物性プランクトン(栄養分)も少ない。

 サンゴの中で敵から身を守ってもらっている褐虫藻はひたすら光合成に励むのである。赤道付近の海中には紫外線が強烈に注ぐ。そこでサンゴは紫外線を吸収するフィルターをつくり、これを褐虫藻の上にかけてやって住まわせているのである。

 サンゴは、動物プランクトンを触手を使って捕まえて食べている。その排泄物を褐虫藻がもらい受ける。褐虫藻が光合成するには二酸化炭素が必要だがそれもサンゴの呼吸して吐き出す二酸化炭素を利用する。
 サンゴは、殻の元になる炭酸カルシュウムの結晶をつくるのに必要な有機物を褐虫藻からもらう。さらにありがたいのは、褐虫藻が光合成する際に排出した酸素を細胞内で直接もらい受けるのだ。

 サンゴと褐虫藻の繁栄は、リサイクルを利用した共存関係で成り立っている。
またサンゴは自分を守るために表面に大量の粘液を分泌する。しかもこの粘液は、栄養分の塊であるから他の生物たちのよい食物になる。この栄養分でバクテリアが盛んに増殖する。それを動物プランクトンが食べて増え、さらにより大きな魚が食べるという食物連鎖が進んでいくのである。

 ご存知のように、近年大問題となっているサンゴの白化である。原因は、サンゴの中にいる褐虫藻の数が異常に減少すること。褐色をした褐虫藻が少なくなれば透明なポリープの壁を通して下のサンゴの骨格が透けて白っぽく見える。これが白化である。この白化が2ヶ月も続けばサンゴは弱り死ぬ。
白化の原因は地球温暖化などストレスで引き起こされる。1998年に起きた大規模白化はエルニーニョ現象が発生し、世界のサンゴの16%が破壊された。沖縄ではやく8割が死滅した。

わずか1~2度で、サンゴと褐虫藻の共存関係が失われるという事実は、極めて重要なことをわれわれに教えてくれる。

生物と生物の関係も、そして生物と環境の関係も極めてデリケートだ。わずかの環境の変化にも反応し、地球温暖化の高感度センサーだといえる。
昔は炭坑に入る時に、カナリアを数羽前面に仕立てて下りていった。一羽でも鳴きやめばガス発生危険を察知したという。NHKの朝ドラ「アサが来た」でも炭坑の場面でカナリアが登場した。
地球の危険をいち早く知らせてくれる青い海のサンゴ礁だから青いカナリアともいえるのではないだろうか。

ところがとんでもない大統領が現れたものだ。自説で、地球温暖化は”でっち上げ”だという。そして先のG8では、トランプ米国大統領は、自国に不利益な「気候変動及びパリ協定」を離脱するようなそぶりを見せたのだ。
アメリカ・ファーストを旗印に、「民主主義」「自由貿易」や「人権」といった米国がこれま訴えてきた理念や規範で牽引を果たす姿勢は皆無になった。超大国の威厳はみじんも感じられない。
 力ずくや、脅して目に見える自国の利益を優先させ、先のことなどケセラ・セラというのだろう。トランプ大統領にハートのないカードでもてあそばれては世界にとっては不幸なことである。



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