エッセイ:「台風15号と美談(28)」2019.10
甚大な被害をもたらした台風15号と19号。この情報網の発達した時代に15号の千葉県や19号の爪痕には道路ががけ崩れや崩壊、さらには停電で陸の孤島もあったと聞く。
千曲川、那賀川、利根川水系、多摩川など記録的な大雨で堤防が決壊し洪水が一瞬にして田畑を襲い家屋などをすさまじい勢いで押し流す。連日の報道は見るも無残なものばかりだ。被災者には健康に気をつけて頑張ってくださいとしか言いようがない。
今は気が張っているから被災者の顔は元気そうに見える。しかし先の見えない長い避難生活と遅々として進まない復興、さらにこれからは寒さが加わって疲労のピークが訪れるだろう。わが身を被災者に置き換えると言葉も出ない。
過去に経験したことがないほどの災害であるから激甚災害であろうが、それにしても国や自治体の役所というところはなんと融通の利かないところであろうか。こんな時ほど小泉環境庁長官のように臨機応変に元気をくれる言葉や対応が期待される。にもかかわらず自民党二階幹事長は被災者や国民の気持ちを逆なでするような発言をする。
ところで、15号で千葉県市原市の住宅街のゴルフ練習所の鉄柱15本が倒壊して近隣の住宅を直撃、いまだに放置したままである。幸いに人身に大きな被害はなかったようだ。撤去は誰がどうするのだろうかと、関心をもっていたところに、突然お助けマンが現れたのだ。
倒壊した鉄柱の取り壊しをタダでやるというのだから驚いた。なんだよ、これは例のアパレルメーカーの前沢社長のような調子のよい宣伝のための売名行為ではなかろうかと疑う。
しかし、東京江戸川区の解体業者「フジムラ」は被害住民40人に説明会を行った。フジムラ側は撤去作業には全体で約2カ月かかり、費用は4500万円ぐらいかかるそうだがこれを無償で請け負うと。
このフジムラは鉄柱が倒れた翌日の9月10日、藤村 一人会長が市原市に撤去の協力をしたいと手を挙げたのだと。
ほぼ住民全員からの同意を取り付けたので準備作業が始まるようだ。住民にとってこの案が実現すれば、これほど安心できることはないだろう。だが撤去工事の際に家の損壊ができてしまう可能性も考えられるのだ。
また鉄柱をばらしていく際には、通常ガスバーナーで解体するのだがこれを使うと、必ず火災になるので使用はできないのだと。
ある住民は「これまでずっと業者が決まらなかった。無償でやってくれようとしている今回の業者さんはボランティアですよね。一生懸命やってくださる方々を信じて、やってもらいたい」と。
一方で「今後の補償が何も決まっていないのに、簡単にサインはできない。納得できない」と憤(いきどお)るものも。「作業の際、住居がさらに壊れるようなことがあっても、一切責任を負わないと書いてあった。損傷が浅い家はいいかもしれませんが、損傷が深い人にとっては取り返しがつかないことになる」と不信感を募らせた。さらに「業者は無償でやりますと言っていたが、タダほど高いものはない」と。
豪雨の被害を受けた住人の一人は「雨漏りしていなかった所からも水が漏れ出した。床や家財道具は乾燥させてもすぐにぬれ、カビがひどい」と静かに語った。
鉄柱2本が自宅屋根を貫通した住人は「ブルーシートも張れず、天井が大きく落ちた。工事開始が早ければ、被害を少しでも減らせたのでは」と憤った。
自宅に今も寝泊まりする住民)は「いつまでも撤去できないのではと不安だった。待ちに待っていたので一安心」と話した。
世間にはこういう奇特な企業があるのだなあ、という感想もある。
㈱フジムラは1980年創業した総合解体工事業。会長は藤村一人氏で資本金1億円、売上55億円、従業員84名(正規社員)である。
藤村一人会長は、国防の想いから関東一高校を中退して自衛官になった愛国者。
だが、今回の件と共に「商いにこだわることなく」、「日本一の解体工事専門業者」を目指していることを彷彿させる記事がある。それは国立競技場の解体工事一般入札での出来事。東京五輪開催用の新しい国立競技場を建設するための旧競技場取り壊しだ。
2014年5月の第1回入札では、参加出来る資格が建設業者に限られ、4社が参加したが不調に終わった。日本スポーツ振興センター(JSC)は7月の第2回目の入札で、参加資格に文部科学省の最高基準を満たした解体工事業者にも門戸を広げた。その結果、フジムラが最低価格を提示した。
だが、JSCは入札結果を保留、フジムラを特別重点調査の対象とした。その結果、この入札を無効とした。フジムラはJSCに抗議し、書類の不備の修正を申し出た。だが聞き入れられなかったため、8月28日、内閣府政府調達苦情処理対策室に苦情処理申立書を提出した。
9月末、内閣府政府調達苦情検討委員会はフジムラの苦情申立を認めた。要するにJSCに調達過程の公正性・公平性や入札書の秘密性を損なう不備があったのだ(招かざる入札業者に対する嫌がらせか)。この結果、12月に行われた第3回目の入札でフジムラは天下晴れて落札した。
今は当たり前になったが、ヤマト運輸の故小倉社長が、宅配便の規制緩和をめぐって当時の運輸省と激しく対立し要求を勝ち取ったのだ。
つまり、相手が監督官庁であろうと何であろうと、理不尽なことには毅然として立ち向かうということ。
とはいえ、これはフジムラも今後また売名行為だ、なんだかんだと「毀誉(きよ)褒貶(ほうへん)」(褒(ほ)めたり貶(けな)したりすること)が出てくるかも知れぬ。今回の無償撤去の申し出が「義挙(ぎきょ)」(正義のために起こす企てや行動)であり、途方に暮れていた被害者と練習場経営者に光明を見出させたことは、称賛して余りある、という。
先述の「ご挨拶」はこう続く。
解体業において最も重要な安全対策には、創業者・藤村洋輔の想いを込めた「妻や子が一つの願い・父の無事」が創業以来現社員一人ひとりに引き継がれており、日々安全作業を心掛けて施工しておりますと。
こういった企業理念を持つオーナー会社や小粒だがピリリと辛い企業の存在が、日夜人知れず日本を支えている。「フジムラ」に心からエールを送りたい、という識者もいる。
加えるに、
国庫に物納され上皇后さまの生家である旧正田邸を財務省 関東財務局は解体することとした。2002年㈱フジムラはこの解体工事を一旦受注した。ところが、「旧正田邸を守る会」による保存運動をテレビのワイドショーが連日取り上げることとなりフジムラは辞退した。
この際の記者会見において、「日本に生まれ、日本に育ち、日本を愛し、一日本人として、このような歴史的建造物を取り壊すというのは、非常に残念であり、かつ、複雑な心境でありました。」
「機械でいきなり壊すのではなく、柱1つずつ、梁も1つずつ、丁寧にきれいに仕事をさせていただき、記念に残るものは美智子さまにご返上申し上げたいと考えて(解体工事の)入札に参加させていただいた。」「国民の皆様方の感情と私共の感情が重なり合うことに気付き辞退届を提出した。」と語っている。
ところが、翌2003年財務省 関東財務局は別の解体業者へ発注、建物は解体された。なんだか騙し討ちあったようなものである。
フジムラは以上のような男気?を見せるヒーローにとられるかもしれない。
しかしながら反面、2009年12月15日、3年間に約1億8,000万円の所得を隠したとして、法人税法違反の疑いにより東京国税局から東京地検特捜部へ告発されたのである。
台風15号の被害の裏にはこうした美談がある。一方金が動くところにさり気なく役人や政治家が仕切る談合体質が今でも暗躍していることも事実であるという。
甚大な被害をもたらした台風15号と19号。この情報網の発達した時代に15号の千葉県や19号の爪痕には道路ががけ崩れや崩壊、さらには停電で陸の孤島もあったと聞く。
千曲川、那賀川、利根川水系、多摩川など記録的な大雨で堤防が決壊し洪水が一瞬にして田畑を襲い家屋などをすさまじい勢いで押し流す。連日の報道は見るも無残なものばかりだ。被災者には健康に気をつけて頑張ってくださいとしか言いようがない。
今は気が張っているから被災者の顔は元気そうに見える。しかし先の見えない長い避難生活と遅々として進まない復興、さらにこれからは寒さが加わって疲労のピークが訪れるだろう。わが身を被災者に置き換えると言葉も出ない。
過去に経験したことがないほどの災害であるから激甚災害であろうが、それにしても国や自治体の役所というところはなんと融通の利かないところであろうか。こんな時ほど小泉環境庁長官のように臨機応変に元気をくれる言葉や対応が期待される。にもかかわらず自民党二階幹事長は被災者や国民の気持ちを逆なでするような発言をする。
ところで、15号で千葉県市原市の住宅街のゴルフ練習所の鉄柱15本が倒壊して近隣の住宅を直撃、いまだに放置したままである。幸いに人身に大きな被害はなかったようだ。撤去は誰がどうするのだろうかと、関心をもっていたところに、突然お助けマンが現れたのだ。
倒壊した鉄柱の取り壊しをタダでやるというのだから驚いた。なんだよ、これは例のアパレルメーカーの前沢社長のような調子のよい宣伝のための売名行為ではなかろうかと疑う。
しかし、東京江戸川区の解体業者「フジムラ」は被害住民40人に説明会を行った。フジムラ側は撤去作業には全体で約2カ月かかり、費用は4500万円ぐらいかかるそうだがこれを無償で請け負うと。
このフジムラは鉄柱が倒れた翌日の9月10日、藤村 一人会長が市原市に撤去の協力をしたいと手を挙げたのだと。
ほぼ住民全員からの同意を取り付けたので準備作業が始まるようだ。住民にとってこの案が実現すれば、これほど安心できることはないだろう。だが撤去工事の際に家の損壊ができてしまう可能性も考えられるのだ。
また鉄柱をばらしていく際には、通常ガスバーナーで解体するのだがこれを使うと、必ず火災になるので使用はできないのだと。
ある住民は「これまでずっと業者が決まらなかった。無償でやってくれようとしている今回の業者さんはボランティアですよね。一生懸命やってくださる方々を信じて、やってもらいたい」と。
一方で「今後の補償が何も決まっていないのに、簡単にサインはできない。納得できない」と憤(いきどお)るものも。「作業の際、住居がさらに壊れるようなことがあっても、一切責任を負わないと書いてあった。損傷が浅い家はいいかもしれませんが、損傷が深い人にとっては取り返しがつかないことになる」と不信感を募らせた。さらに「業者は無償でやりますと言っていたが、タダほど高いものはない」と。
豪雨の被害を受けた住人の一人は「雨漏りしていなかった所からも水が漏れ出した。床や家財道具は乾燥させてもすぐにぬれ、カビがひどい」と静かに語った。
鉄柱2本が自宅屋根を貫通した住人は「ブルーシートも張れず、天井が大きく落ちた。工事開始が早ければ、被害を少しでも減らせたのでは」と憤った。
自宅に今も寝泊まりする住民)は「いつまでも撤去できないのではと不安だった。待ちに待っていたので一安心」と話した。
世間にはこういう奇特な企業があるのだなあ、という感想もある。
㈱フジムラは1980年創業した総合解体工事業。会長は藤村一人氏で資本金1億円、売上55億円、従業員84名(正規社員)である。
藤村一人会長は、国防の想いから関東一高校を中退して自衛官になった愛国者。
だが、今回の件と共に「商いにこだわることなく」、「日本一の解体工事専門業者」を目指していることを彷彿させる記事がある。それは国立競技場の解体工事一般入札での出来事。東京五輪開催用の新しい国立競技場を建設するための旧競技場取り壊しだ。
2014年5月の第1回入札では、参加出来る資格が建設業者に限られ、4社が参加したが不調に終わった。日本スポーツ振興センター(JSC)は7月の第2回目の入札で、参加資格に文部科学省の最高基準を満たした解体工事業者にも門戸を広げた。その結果、フジムラが最低価格を提示した。
だが、JSCは入札結果を保留、フジムラを特別重点調査の対象とした。その結果、この入札を無効とした。フジムラはJSCに抗議し、書類の不備の修正を申し出た。だが聞き入れられなかったため、8月28日、内閣府政府調達苦情処理対策室に苦情処理申立書を提出した。
9月末、内閣府政府調達苦情検討委員会はフジムラの苦情申立を認めた。要するにJSCに調達過程の公正性・公平性や入札書の秘密性を損なう不備があったのだ(招かざる入札業者に対する嫌がらせか)。この結果、12月に行われた第3回目の入札でフジムラは天下晴れて落札した。
今は当たり前になったが、ヤマト運輸の故小倉社長が、宅配便の規制緩和をめぐって当時の運輸省と激しく対立し要求を勝ち取ったのだ。
つまり、相手が監督官庁であろうと何であろうと、理不尽なことには毅然として立ち向かうということ。
とはいえ、これはフジムラも今後また売名行為だ、なんだかんだと「毀誉(きよ)褒貶(ほうへん)」(褒(ほ)めたり貶(けな)したりすること)が出てくるかも知れぬ。今回の無償撤去の申し出が「義挙(ぎきょ)」(正義のために起こす企てや行動)であり、途方に暮れていた被害者と練習場経営者に光明を見出させたことは、称賛して余りある、という。
先述の「ご挨拶」はこう続く。
解体業において最も重要な安全対策には、創業者・藤村洋輔の想いを込めた「妻や子が一つの願い・父の無事」が創業以来現社員一人ひとりに引き継がれており、日々安全作業を心掛けて施工しておりますと。
こういった企業理念を持つオーナー会社や小粒だがピリリと辛い企業の存在が、日夜人知れず日本を支えている。「フジムラ」に心からエールを送りたい、という識者もいる。
加えるに、
国庫に物納され上皇后さまの生家である旧正田邸を財務省 関東財務局は解体することとした。2002年㈱フジムラはこの解体工事を一旦受注した。ところが、「旧正田邸を守る会」による保存運動をテレビのワイドショーが連日取り上げることとなりフジムラは辞退した。
この際の記者会見において、「日本に生まれ、日本に育ち、日本を愛し、一日本人として、このような歴史的建造物を取り壊すというのは、非常に残念であり、かつ、複雑な心境でありました。」
「機械でいきなり壊すのではなく、柱1つずつ、梁も1つずつ、丁寧にきれいに仕事をさせていただき、記念に残るものは美智子さまにご返上申し上げたいと考えて(解体工事の)入札に参加させていただいた。」「国民の皆様方の感情と私共の感情が重なり合うことに気付き辞退届を提出した。」と語っている。
ところが、翌2003年財務省 関東財務局は別の解体業者へ発注、建物は解体された。なんだか騙し討ちあったようなものである。
フジムラは以上のような男気?を見せるヒーローにとられるかもしれない。
しかしながら反面、2009年12月15日、3年間に約1億8,000万円の所得を隠したとして、法人税法違反の疑いにより東京国税局から東京地検特捜部へ告発されたのである。
台風15号の被害の裏にはこうした美談がある。一方金が動くところにさり気なく役人や政治家が仕切る談合体質が今でも暗躍していることも事実であるという。