
石破茂首相が25日に公明党の斉藤鉄夫代表と会談した際、強力な「物価高対策」を打ち出す意向を示したと報道された。筆者は、2025年度予算案が成立した直後に石破首相が「物価高対策」の策定を指示すると予想する。その際、日銀がどのような対応をするのか市場の関心を集めるだろう。これまでの経済対策と異なり、物価高対策は物価上昇の抑制が目的となるため、日銀が利上げを検討して政府の物価高対策に「呼応」するのは合理性がある。
日銀の植田和男総裁は26日の衆院財務金融委で、食品価格の上昇が外食に広がるなどインフレが経済に広がる可能性がある場合には「利上げで対応することも考えなければならない」と指摘しており、物価上振れの色彩が強まれば、政府の物価高対策と合わせて日銀が利上げするという可能性も相応に出てきたと指摘したい。
<予算案成立前の物価高対策の浮上、野党は猛反発>
時事通信など国内メディアの報道によると、石破首相は25日の自公党首の会談で強力な「物価高対策」を25年度予算案の成立後に打ち出す意向を示したという。会談後に斉藤代表は石破首相とガソリン税の暫定税率廃止を議論したことを明らかにし、コメ価格の高止まりに対して「何らか手を打たなければならない」と述べた。
ただ、この自公両党首の対応は、国会対策上は極めて「稚拙」だったとの批判を与野党から浴びた。参院では25年度予算案の年度内成立を巡り、与野党がギリギリの調整をしている中で、予算案の「再再修正」に結びつきかねない発言として、野党側が猛反発するのは目に見えていたからだ。
立憲民主党の水岡俊一参院議員会長は26日の参院議員総会で「(参院で)予算案を審議しているところだ。国会、参院を冒涜(ぼうとく)するような断じて許せない発言だ」と石破首相の発言を強く批判した。
<高額医療費の上限引き上げ問題絡み、野党も予算案の成立へ歩み寄りか>
25年度予算案は高校授業料の無償化を主張する日本維新の会の主張を自民、公明両党が取り入れて政府案を修正。衆院を通過させた。その後、参院審議の段階で政府が高額療養費の自己負担額の上限を8月に引き上げる計画を断念。参院で政府案を再修正し、衆院本会議で可決して成立するという手順が想定されていた。
そこに石破首相の商品券問題が浮上。予算案の年度内成立に向けて29日と30日の土日にも審議を行うという異例の事態さえ、水面下では検討されていた。
こうした中での「物価高対策」の浮上は、予算案審議を一段と紛糾させかねない状況を作り出した。林芳正官房長官が25日の会見で、物価高対策は「新たな予算措置ではなく、物価高の克服に取り組む決意を申し上げたもの」と「弁明」したのも、何とか25年度予算案の年度内成立を果たしたいという思惑から出た、とみることができる。
とはいえ、野党が抵抗して予算案の成立を遅らせると、高額療養費の問題で負担がより大きい衆院で可決された予算案が4月2日に自然成立することになる(憲法の衆院優越の規定で)。ということで、最終的には参院で再修正された予算案が成立することになる、と筆者は予想する。
<参院選前に物価高の逆風意識、ようやく動き出した政府>
24日の当欄で指摘したように、物価高対応で無策のまま時間を無駄使いすれば、7月の参院選で自民、公明の連立与党が大きく議席を減らす可能性が高まる。
それを回避するために、石破首相が「物価高対策」の取りまとめ指示を出すのは確実だと予想する。その際の柱になるのは、エネルギー価格対応だろう。ガソリン税の暫定税率廃止は国民民主党など野党が主張してきたが、今回は与党も飲まざるを得ないと予測する。1.5兆円の財源手当てが必要になるが、食料品の消費税率をゼロ%にする際に必要な約4兆円よりは小規模ですみ、参院選での目玉政策になるとみている可能性があると指摘したい。
また、3月で廃止される電気・ガス料金の補助も、冷房需要が高まる夏場にかけて復活する可能性もありそうだ。コメ価格の上昇問題では、すでに自民、公明両党の幹事長、国対委員長レベルで必要に応じた追加の備蓄米放出で合意しており、これも物価高対策の大きな柱になるとみられる。
<物価高対策と同じ方向性、日銀は利上げ議論に踏み出すのか>
市場の一部には、このような対策を政府が打ち出す際に「景気を冷やす」効果を持つ日銀の利上げはできない、という見方があるようだ。
だが、デフレ時代に実行されてきた需要を喚起する経済対策と、これから検討される物価高対策は目的が異なる。物価高対策は物価上昇の抑制が目的であり、もし、日銀が利上げを本格的に検討するなら、物価高対策と政策の方向性が同じであると言える。
特に足元における経済・物価情勢をみると、円安の効果で輸入物価の円ベースの上昇率が契約通貨ベースの上昇を上回って推移しており、円安が物価押し上げの大きな要因となっている。
日銀が物価上昇に上振れの懸念があるとして、利上げの議論を本格化させた場合、その政策の方向性は物価高対策と「軌を一にしている」と言えるだろう。
<植田総裁、食品値上げなどインフレ広がるなら「利上げ対応することも考えないといけない」>
25日の当欄で指摘したように、1月の金融政策決定会合の段階で一人の委員は「新年度に向けた賃上げといった国内要因による 価格転嫁の一段の進展や為替円安の進行で、物価が上振れる可能性がある」との見解を表明していた。
植田総裁は26日の衆院財務金融委で、食品などの値上がりが一時的であれば金融政策で対応すべきではないとしつつ、インフレが経済に広がる場合は「利上げ対応することも考えないといけない」と指摘。日銀の見通しよりも物価が「上振れる場合は緩和調整の度合いを強める」とも語った。
26日に発表された2月企業向けサービス価格指数は前年比プラス3.0%と、3カ月連続で3%台の上昇となった。これは消費税導入・増税の影響を除くと、1990年4月から91年3月にかけた12カ月連続の上昇以来、約34年ぶりの現象だ。
また、調査品目のうち生産額に占める人件費のコストが高い業種(高人件費率サービス)は3.3%の上昇となっており、賃上げがサービス価格の上昇を大きくしていることを示していた。
政府が物価高対策の検討を本格化させる4月以降、物価上昇の足音が一段と高まっていくのかどうか、日銀の政策判断に市場の注目が一段と集まりそうだ。
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