
日銀は25日、政策金利を0.5%に引き上げることを決めた今年1月23-24日の金融政策決定会合に関する議事要旨を公表した。注目されたのは、利上げを決めた会合で物価上振れの可能性に関する議論が行われたことだ。一人の委員は賃上げを起点にした価格転嫁の進展や円安進行によって物価上振れにつながる可能性があると指摘したが、2カ月が経過した現在の経済情勢は、まさにその指摘のように進行している。
4月30-5月1日の次回会合に向けて、物価上振れの見方がボードメンバーの中でどのように位置づけられていくのか、その展開次第で利上げの議論が本格化する可能性があると筆者は予測する。
<議事要旨で目立った利上げ継続の意見>
1月会合では0.25%幅の利上げを決めたが、17年ぶりの高水準への引き上げになることを踏まえ「先行きの金融政策運営」に関する議論の中で、利上げの効果や金融・資本市場に与える影響がどのようになるのか「しばらく慎重に見極める必要がある」という趣旨の発言がいくつかあるのではないか、と予想していた。
だが、利上げ効果の慎重な見極めという趣旨の発言は見当たらず、今後も利上げを継続していく必要性を指摘する声が並んだ。ある委員は「利上げ後も、実質金利は大幅なマイナスとなっており、経済・物価がオントラックであれば、それに応じて、引き続き利上げをしていくことで、そのマイナス幅を縮小していく必要がある」と発言。
別の委員は「今後、基調的な物価上昇率が上昇していけば、それに応じて段階的に政策金利を引き上げて いく必要がある」と述べ、さらに別の委員は「経済・物価がオントラックで推移する中、物価の上振れリスクが膨らんでおり、金融緩和の度合いを適時・段階的に調整していくことが適当である」と語った。
<昨年上回る賃上げ率と円安の再進行、足元で広がる物価上振れの要因>
筆者が注目したのは、以下に紹介する一人の委員の発言だ。そこでは「新年度に向けた賃上げといった国内要因による 価格転嫁の一段の進展や為替円安の進行で、物価が上振れる可能性があるほか、不動産も含めた資産価格上昇で投資家の期待も高まっている」と述べていた。
新年度に向けた賃上げに言及しているが、2カ月が経過した現在では、今年の春闘における連合の2次集計で賃上げ率が前年比プラス0.15ポイントの5.40%になっていることが分かっている。
また、外為市場ではドル/円が再び150円台に乗せ、さらに円安が進む可能性があると市場ではみられている。シカゴ・マーカンタイル取引所(CМE)「IММ通貨先物」の円買いポジションは、3月11日の13万3902枚から18日には1万0938枚減少の12万2964枚となっており、この減少がドル高・円安の圧力を増したと考えられている。過去最高の円買いポジションの取り崩しがさらに進行するなら、152円から153円程度へのドル高・円安になることも十分にあり得る。
<4月に食料品値上げのヤマ、予想物価上昇率の押し上げに>
上記の一人の委員が指摘した賃上げなど国内要因と円安の進行による物価上振れの可能性は、3月下旬の段階で現実味を帯びてきたと言えるのではないか。
帝国データバンクの調査によると、2025年に入ってからの食料品値上げの要因として、原材料高とともに物流費などのサービス価格の上昇、賃金上昇の割合が急上昇しており、物価押し上げのルートが賃上げによるサービス価格の上昇にも波及していることを浮き彫りにしている。
また、足元での値上げが消費者の予想物価上昇率を押し上げているとみられるが、その押し上げのインパクトが大きくなる予兆もある。
例えば、筆者の居住するエリアの安売り酒販売チェーンでは、4月から値上がりするビールや酎ハイ、ノンアルコール商品を写真で列挙し「買い置きはお早めに」というチラシを大量に配布している。また、あるスーパーでも4月1日に値上げする商品を紹介し、早めの買いだめを奨励するような張り紙を店内の目立つところにたくさん掲示。値上げ前の駆け込み消費を誘引しようとしている。
<円安進行なら、利上げ議論の可能性も>
このような国内要因に起因した値上げ圧力の高まりに、円安の再進行が重なれば、物価の上昇圧力は時間の経過とともに大きくなるだろう。まさしく「物価の上振れ」リスクが高まる情勢に直面しつつあると筆者は予想する。
次の金融政策決定会合までに1カ月超の期間があるが、ドル/円がドル高・円安方向に一段と傾斜しやすくなるなら、会合で物価上振れのリスクを議論する可能性が高まり、内外の経済や市場動向次第で「利上げを議論する」という展開になる可能性もあると推理する。
その意味で、ドル/円の動向は大きなカギを握っていると言えそうだ。
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