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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

5月に加速した日本のコアCPI上昇率、中東情勢と原油価格次第で高止まり長期化も

2025-06-20 14:08:17 | 経済

 総務省が20日に発表した5月の全国消費者物価指数(CPI)は、コアCPI(生鮮食品を除く総合)が前年比プラス3.7%と4月の同3.5%から伸びが加速した。2%を上回るのは38カ月連続、3%を上回るのは6カ月連続となる。

 コメを中心にした生鮮食品を除く食料が同7.7%と4月の同7.0%から加速、物価全体の押し上げに強く影響した。エネルギーが同8.1%と4月の同9.0%から伸びが鈍化したが、イスラエルとイランの軍事衝突の結果、足元で原油価格が上がり始めており、紛争の長期化が現実味を帯びれば原油価格の上昇を起因としたエネルギー価格の上昇が食料とともに物価を押し上げる構図になることも十分に想定される。物価の上昇率が一段と大きくなれば、日銀の物価への判断や政策運勢スタンスに変化が生じることも想定される。

 

 <コメは過去最大の上げ幅、生鮮下落でも食料上昇でコアCPI押し上げ>

 筆者が注目したのは、生鮮食品が4月の前年比プラス3.9%から5月に前年比マイナス0.1%へと値下がりが鮮明だったにもかかわらず、5月のCPI総合が前年比プラス3.5%と4月の同3.6%から小幅の伸び率低下にとどまったことだ。

 その背景には、生鮮食品を除く食料の上昇率加速が大きく影響しており、多くのメディアはコメ価格が前年比プラス101.7%と過去最大の上げ幅となったことを挙げたが、筆者はそれ以外にも根深い構造問題が潜んでいると指摘したい。

 

 <食料品の値上げ、株式市場の評価高く企業のハードル下がる>

 帝国データバンクの調査によると、食料品の値上げ品目は今年6月に1932品目と前年6月の約3倍に急増した。また、10月までの値上げを公表している分を加算すると、2025年10月までの値上げ品目は1万6224品目と24年通年の1万2520品目を約3割上回っている。

 同社の調査では、値上げの要因として企業が挙げる項目として原材料高だけでなく、物流費や人件費を指摘する割合が過去と比べて上昇している。

 筆者は、この2-3年の経験によって製品値上げが売上高と営業利益の上昇に直結し、株式市場での評価も高くなるということが企業側に強く認識され、値上げのハードルが低くなったことが大きく作用してしていると指摘したい。

 

 <米国が対イラン攻撃決断なら、原油価格の急騰も 市場の一部に100ドル説>

 また、イスラエルによるイランへの先制攻撃で始まった両国の武力衝突に対し、米国がイスラエル側に立って参戦する可能性が複数の海外メディアによって指摘されており、米側の攻撃対象やイラン側の反撃態勢によっては、イランだけでなく中東全体での原油輸出が大きな打撃を受け、原油価格が大幅に上昇するリスクが意識されている。

 足元で原油先物価格(WTI:ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は1バレル=73ドル台と、4月上旬に60ドル割れとなった水準から大幅に上昇。イスラエルとイランの軍事衝突の展開次第では、1バレル=90ドルから100ドル付近まで上昇する可能性がある、と予想する市場参加の声が多くなってきた。

 もし、原油価格の上昇が鮮明になれば、足元で目立っている食料の価格だけでなく、エネルギー価格も上昇の主体として浮上することになり、食料とエネルギーの2つが両輪となって物価上昇を加速させる構図になれば、全国CPIの総合やコアの上昇率が3%台で推移する期間が長期化することになる。

 

 <着実に上がってきたサービス価格、高校授業料の無償化がプラス幅押し下げ>

 さらに注視すべきは、サービス価格の上昇だ。財の価格に比べてサービス価格の上昇が鈍いというのが、多くのエコノミストの見方だったが、5月のサービス価格は前年同月プラス1.4%となり、より実態に近いと言われている持ち家の帰属家賃を除くサービスは同1.9%まで上昇幅を高めた。

 また、一般サービスも同1.7%と4月の同1.5%から伸びを高めている。サービス全体の伸びが財に比べて緩慢なのは公共サービスの伸びが同0.5%と4月から横ばいとなったことが影響している。

 だが、ここには公立校の授業料の無償化の影響で高校授業料が前年比マイナス9.5%と大幅に下がっていることが含まれており、エコノミストの中にはサービス価格上昇の実態は前年比プラス2%まで上がってきているとの指摘もある。

 

 <足元の物価上昇、注目される日銀の情勢判断>

 日銀の植田和男総裁は18日の会見で「コストプッシュによる物価上昇が、人々のマインドや予想物価上昇率を介して、基調的な物価上昇率に二次的な影響を及ぼす可能性があることも認識しておく必要がある」と述べていた。

 日銀はトランプ関税に代表される各国の通商政策によって、経済・物価ともに下振れるリスクの方が大きいとの見解を維持しているが、5月全国CPIで示された物価上振れの動きが継続するようなら、物価に対する見通しやリスク判断を修正する可能性もあるのではないか、と筆者は予想する。

 その意味で足元で緊迫する中東情勢の動向は、日本の物価動向を判断する上でも極めて重要であり、中でも近日中に決断すると予想されるトランプ大統領の対イラン攻撃の有無が、今後の日本の経済・物価情勢にも大きな変化を与えそうだ。


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