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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

日本株の大幅下落、政府の関税対策で持ち直すのか 自動車依存の構造改編も急務

2025-03-31 16:36:14 | 経済

 31日の東京市場で日経平均株価が、前週末比1502円77銭(4.05%)安の3万5617円56銭と約7カ月半ぶりの安値水準で取引を終了した。トランプ米大統領が4月3日から発動する輸入自動車への25%の追加関税に対する日本企業への打撃について、東京市場がようやく本格的に織り込んできた動きと言える。また、トランプ大統領の経済政策が「一強」だった米経済の繫栄をぶち壊すのではないかとの見方がNY市場で台頭してきたことも対米経済依存度の高い日本経済の弱点として海外勢の眼に映った可能性がある。

 28日の当欄で指摘したように石破茂首相は、自動車関税をはじめとする「トランプ関税」による日本国内の産業への打撃を緩和させるための対応策検討を近く指示するとみられる。これによって株価が下げ止まる展開も予想されるが、問題の本質は年間で5.4兆円の貿易赤字を出している日本が米国との自動車と自動車部品を合計した輸出入のネットで7兆円超の黒字を出しているという歪んだ構造になっていることだ。政府は自動車の「一本足打法」から脱却するための新たな産業政策を打ち出す必要があり、その中核になるのは人工知能(AI)技術になるのは間違いなく、一刻も早く先行する米国と中国を追随するためのプランの提示するべきだ。

 

 <トランプ経済対策への不信感浮上、スタグフレーションへの警戒も株安要因に>

 米国による自動車関税をめぐっては、東京市場で様々な憶測が交錯しつつ、日本からの対米輸出を止めるかもしれない25%の追加関税賦課の可能性は低いとの声が少なくなかった。したがって日本株への織り込みはあまり進んでいなかったが、4月3日の発動が正式に発表されてようやく事態の深刻さをマーケットが認識してきた、と筆者は考える。

 また、減税を志向するトランプ大統領の経済政策は、米経済と株価にプラスというイメージがマーケットに強く浸透し、今年1月の政権発足直後までは市場によるトランプ経済政策への信認は高かった。だが、足元における関税政策の「二転三転」ぶりはトランプ政策の不透明感を助長し、物価高と景気後退という米経済の「スタグフレーション」入りへの警戒感を高めてしまった。

 直近で特に問題視されたのが、米自動車業界への「恫喝」まがいの値上げ自粛要請だった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、トランプ大統領は米自動車企業の幹部との電話会談で、関税を理由とした値上げをしないよう要請したという。これに反すれば、トランプ政権から懲罰的な対応を受けるかもしれない、という懸念も出ていたとされている。

 この報道は、関税実施の結果、メーカーが被るコスト上昇分への価格の引き上げを米政府が認めず、強制的に収益を圧迫させる言わば「増税」の押し付けとマーケット参加者の多くに映り、市場のトランプ政権に対する信認が動揺したという。

 複数の市場関係者によると、トランプ政権の経済政策への不透明感や不信感は4月2日の「相互関税」のスキーム発表で一段と強まる可能性があり、それによって米株と日本株のさらなる下落の可能性が高まるという。

 

 <海外勢が日本株売りと円買いを活発化>

 また、足元ではこれまで日本株を買ってきた海外勢の売りが目立っており、31日はその売りに押された面も強いとの声が出ていた。特に一部の海外勢は、日本株のロングポジションを拡大させる際に日本株の現物買いと先物売り、円売りをセットで取引してリスクをヘッジしていた。ところが、31日はその取引をまき戻し、日本株の現物売りと先物買い、円買いが活発化し、日経平均株価の下落とドル安・円高の同時進行という現象が目立ったという。

 国内勢からみれば、海外勢の株売りと円高の「二重」の圧力で日本株が売られているように見え、下げ幅の拡大につながったという要因もあったようだ。

 

 <関税対策の検討指示で株価は反発するのか>

 上記で示したように、4月2日の相互関税のスキーム発表までは市場の不透明感が残存してしまうが、石破首相が「関税対策」の策定を関係閣僚に指示することになれば、対策の効果を期待する見方から日本株が下落から上昇に転じる可能性もある。

 その時に日本国内の自動車生産減少に伴う関連する企業や下請け・孫請け企業への支援がまず注目されるだろうが、それだけでは「一時しのぎ」とマーケットに見透かされてしまうだろう。

 日本政府の政策が最も貧弱に見えるのは、トランプ大統領が最も力を入れている自国内への製造業の誘致だ。TSMCの熊本県への進出がいつまでたっても「成功例」として紹介されているようでは、世界の製造業の「誘致競争」に大幅に劣後することになる。2025年度予算案の成立後、会見する石破首相は「誘致競争」に勝利するためのプランを打ち上げるべきだ。

 

 <脱自動車依存への動き、放置してきた歴代政権>

 安倍晋三政権以降、これまでの自民党と公明党の連立政権は、超低金利政策で生まれた経済的な余裕をイノベーティブな分野における産業の育成に振り向けるという点で、ほとんど目立った実績を残すことができなかった。

 その結果、2024年の貿易収支は5兆4712億円の赤字となったが、対米の自動車と同部品の輸出額が7兆2574億円の黒字であるのに対して、米国からの自動車と同部品の輸入は2077億円にとどまり、差し引きで7兆0497億円の黒字を稼ぎ出した。

 この状況はトランプ大統領に指摘されるまでもなく、非常にいびつな構造だと言える。もし、自動車と同部品の黒字がなくなれば、日本の貿易赤字は現状の2倍超の12兆円規模に膨れ上がることになる。

 

 <AIXで人手不足と低生産性を跳ね返す>

 米国による自動車関税の賦課をきっかけに、日本政府は日本の産業構造を大きく変えていく「基本計画」の策定に動き出すべきだ。

 その際の中心に存在するべきは、生成AIに代表されるAI技術の各産業への「実装化」であり、人手不足と低生産性を跳ね返す起点と捉えるべきだ。

 例えば、深刻な人手不足に直面しているスーパーや食品の量販店、コンビニでの商品管理に開発されたプリファードネットワークス社の「Misebo」は、自律移動するロボットが欠品や価格表示の間違い、品ぞろえなどを自動検知する。

 こうした取り組みを政府が支援するだけでなく、必要な技術と産業のマッチングを容易にするシステムの開発に政府がコミットするということで、ファイナンスの面でも余剰資金の有効活用にもつながると考える。

 自動車産業だけに依存した現在の産業構造の大改編を政府が打ち出し、方向性を示すだけでも閉塞感の打破につながると主張したい。


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