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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

米自動車関税と物価高の「二正面」作戦強いられる石破政権、日銀の対応はどうなるのか

2025-03-28 11:59:53 | 経済

 4月3日から発動される米国の輸入自動車に対する25%の追加関税賦課をめぐり、市場の危機感が表面化してきた。28日の日経平均株価は一時、節目の3万7000円を割り込み、すそ野の広い日本の自動車産業が受けるマイナスのインパクトの大きさを探り始めた。石破茂首相は「あらゆる面で万全の対応を取る」と述べ、政府が財政支援していく方針をにじませた。

 一方、東京都区部の消費者物価指数(CPI)は、約30年ぶりに3年連続で2%を上回り、石破政権にとって物価高対策が喫緊の課題であることも浮き彫りにした。28日に公表された日銀の3月金融政策決定会合における主な意見では、米関税政策などによる不確実性を根拠により慎重な利上げ検討を求める声が出た一方、利上げに向けて果断に対応する場面もあり得るとの声も併記された。政府・日銀が米自動車関税と物価上振れリスクとの間でどのような政策判断を下していくのか、大きな節目を迎えようとしている。

 

 <トヨタは営業利益が3割減少の試算も>

  28日の日経平均株価は一時、前日比900円を超す下落となって3万6800円台を3万6800円台まで下落する場面もあった。結局、前日比679円64銭(1.80%)安の3万7120円33銭で取引を終えた。3月期決算企業の配当落ち分(約307円)を差し引いても、市場の動揺が本格化してきたことをうかがわせる展開だった。

 日本経済新聞によると、25%の米自動車関税が2026年3月期の営業利益にどのような影響を及ぼすのか野村証券が試算した結果では、トヨタが5兆0360億円の予想から3兆6400億円へと3割減少するほか、マツダは1360億円の黒字から2800億円の赤字に転落する見込みという。

 また、25%の関税がかかり米国で10%の値上げをした場合、トヨタは23万台(10%)の販売減少に直面するという結果も出している。

 

 <自動車関連の中小に連鎖破綻リスク、石破首相は「万全の体制取る」と発言>

 27日の当欄で指摘したように、2024年の対米輸出のうち、自動車の6兆0264億円(輸出の28.3%)だけでなく、自動車部品も1兆2310億円(同5.8%)を占めており、サプライチェーン(供給網)の末端まで含めれば、関連する他の産業も含め、対米輸出の大幅な減少はドミノ的な減産につながり、放置すれば下請け、孫請けの中小、零細企業は経営破綻の連鎖に巻き込まれかねない。

 27日に政府による大規模な支援策が必要になると指摘したが、石破茂首相は28日の参院予算委で、米自動車関税への対応について「万全の体制をとる」と述べるとともに「資金繰り対策など含めて、国内の産業、雇用に影響が生じないようあらゆる方面から精査する」と語った。

 2025年度予算案の参院での採決が週明け31日に行われる状況の下で、「物価高対策」をめぐる発言で予算審議日程が混迷した「二の舞」にならないよう慎重に言葉を選んでいるが、仮に3月31日に参院で可決後、衆院でも再可決して予算案が成立した直後に大規模な支援策を念頭に置いた「米関税対応策」の具体的な検討を石破首相が指示することになると予想する。

 

 <都区部CPI、3年連続の2%台上昇は約30年ぶり>

 一方、石破首相が直面するのは、トランプ米大統領による自動車関税の実施だけでなく、食料品などを中心としたインフレ圧力増大と国民の不満の膨張という問題だ。

 総務省が28日に発表した2024年度平均の消費者物価指数(CPI)は、生鮮食品を除く総合(コアCPI)で前年度比プラス2.1%だった。22年度の同2.9%、23年度の同2.7%に続いて、2%台の上昇は3年連続。これは1989─1992年度の4年連続以来、約30年ぶりの現象だ。

 

 <ガソリンの暫定税率廃止や夏場の電気・ガス代補助の復活も>

 足元の2025年3月の東京都区部CPIは、コアCPIが前年比プラス2.4%と市場予想の同2.2%を上回った。政府が今年1月に再開した電気・ガス代補助による押し下げ効果でエネルギー関連の上昇幅が2月の6.9%から6.1%へと縮小したものの、生鮮食品を除く食料が2月の5.0%から5.6%へと伸びを高めた。特にコメ類は89.6%と比較可能な1971年1月以降で最大の上昇幅となった。

 2025年度予算案の成立後、石破首相は物価高対策の具体的な指示も出すとみられるが、中心となるのは、1)ガソリン税の暫定税率の廃止、2)電気・ガス代補助の夏場からの復活、3)コメの備蓄の追加放出──になると予想する。

 石破首相は、米自動車関税の実施による国内産業への打撃緩和策と物価高による国民の不満を和らげる対応策という「二正面」の作戦展開を余儀なくされるだろう。追加の財政支出は相当規模に膨れ上がることは避けられない。

 

 <日銀の主な意見で示された米関税政策への強い懸念>

 政府が二正面作戦に忙殺されることが予測できる中で、日銀はどのような対応をするのだろうか。28日に公表された今月18-19日の金融政策決定会合における「主な意見」の中に、日銀が直面する難しい情勢が透けて見えたと指摘したい。

 金融政策運営をめぐって、「米国発の下方リスクは足元で急速に強まっており、関税問題の今後の展開次第では、わが国の実体経済にまで悪影響を与えていく可能性が十分ある。その場合には、利上げのタイミングをより慎重に見極めることが必要である」と、米自動車関税の実施を予見するような見解が表明されていた。

 また、「米国の関税政策やサプライチェーンの分断など不確実性が高く、価格競争力の高い中国製品との競争激化も懸念され、日本経済への下押しリスクが高まっている。中小企業の業績・投資、賃金・物価の動向や米国関税政策の影響を入念に確認しつつ金融政策を調整する必要があるため、当面は現状の金融政策を維持することが適当である」という意見も、自動車関税の4月3日からの発動を前提にすれば、説得力のある見解とみることもできる。

 

 <並存する物価上振れリスクへの強い懸念>

 その一方で「不確実性は高まっているが、だからといって常に政策対応を慎重にすればいいというわけではなく、今後の状況によっては、果断に対応すべき場面もありうる」との意見が表明され、「各国の通商政策等から物価に上下双方向の不確実性がある時に、不確実だから現状維持、金融緩和を継続する、ということにはならない」という主張もあった。

 その背景には、足元でインフレを加速させるかもしれない要因の増加で物価情勢に大きな変化があるとの認識がありそうだ。ある委員は「高水準の賃上げが実現し、国内要因のインフレ圧力などから、『物価安定の目標』の実現が目前に迫りつつある段階であり、来年度には、こうした前提で情報発信する新たな局面に入るといえる」との見方を示している。

 また、「農産物の価格高騰は、供給力低下や人件費上昇等、一過性でない要因の影響が大きい。さらに家計のインフレ予想を押し上げ、物価の基調に大きく影響する」との見解や「1月の消費者物価指数(総合)の上昇率の過半はエネルギー、生鮮食品、穀類によるものだが、エネルギーの上昇は一時的な性格が強い。生鮮食品、穀類の上昇は、主に供給ショックと位置づけられるが、持続性がありうるため、いずれも予想物価上昇率などへの波及を注視すべきである」との見解も示された。

 

 <利上げペースの加速を示唆する主張も>

 つまり、物価の上振れリスクは、今年の春闘における高い賃上げ率を背景に高まる可能性があり、その認識が次回会合までに高まれば、利上げの議論をするべきだとの見方が相応にあるということではないか、と筆者の眼には映る。

 また、今回の主な意見では、利上げスタンスに関して注目すべき見解も示された。ある委員は「次の利上げを行う局面では、基調的な物価上昇率が2%の目標にかなり近づいていることも想定されるため、金融政策のスタンスを従来の緩和から中立へ転換させる点も含めて検討していく必要性がある」と述べた。

 これは、多くの市場関係者が前提としている「半年に1回の利上げ」というゆっくりとした利上げペースから「3カ月に1回」という利上げペースの加速を意味している可能性があると筆者は指摘したい。

 

 <関税のマイナスは政府対応で、インフレリスク増大は日銀が対応というアプローチ>

 以上のように、米自動車関税の賦課による日本経済への下押し圧力の大きさを重視し、当面は0.5%の政策金利の下で様子を見るべきであるという見方と、物価上振れのリスクを放置した場合、その後の利上げ対応が遅れてインフレ状況が深刻化するリスクを重視する見方が日銀内で併存しているように感じられる。

 こうした状況への適切な対応は、かなりハードルが高いようにみえるが、最終的には自動車産業への打撃が大きくなれば、日本経済全体にも大きな影響を与えるため、金利の据え置きを長期化するか、それとも自動車産業の受けるマイナス効果は政府の財政対応に任せ、同時に進行する懸念のあるインフレ加速を利上げで止める、という政府と日銀の「分業」の考え方を採用するのか、ということへの決断だと考える。

 筆者は、自動車産業の受けるマイナスインパクトを直接的に緩和する手段が日銀にはなく、政策維持の期間が長期化するとみた投機筋がドル買い・円売りを進め、ドル/円が足元の150円付近から一段と円安方向にシフトし、トランプ大統領の日本に対する心証を悪化させた方が打撃が大きいと指摘したい。

 トランプ大統領は報復関税を実施した相手国(地域)には、一段の関税引き上げも辞さない態度をすでに何回かにわたってチラチラとみせている。日銀の金融政策が発端となって円安が進行し、日米関係がぎくしゃくするリスクは可能な限り回避するべきではないかと思う。

 

 いずれにしても、この局面では政府と日銀の密接な意思疎通が欠かせない。石破政権の「二正面作戦」に日銀がどのようにかかわりあうのか、4月は内外情勢の変化がその先の大きな市場変動につながりやすい「激動の日々」となりそうだ。


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