
日銀が1日に発表した企業短期経済観測調査(3月短観)は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス12と4期ぶりに悪化したものの、販売価格判断が強めに出たほか物価見通しも前回調査から上昇し、国内経済は日銀の見通し通りに進ちょくしている(オントラック)ことが確認できたのではないか。
その一方、自動車関税や2日に全容が判明する相互関税などいわゆる「トランプ関税」による経済下押しのインパクトを重視した日経平均株価は、1日も3万6000円台を割り込んだままだ。この2つの要因に挟まれて円債市場ではやや金利が上昇しており、10年最長期国債利回り(長期金利)は前日比0.015%高い1.500%で取引終盤を迎えた。2日(日本時間3日未明)に判明する米国の相互関税の実施要項を見て米国や日本の株価がどのように反応するのか、その展開次第で日本の長期金利や日銀の政策判断にも大きな影響を与えそうだ。
<堅調だった企業物価見通しや販売価格判断>
3月短観の大企業・製造業DIがプラス12と4期ぶりに悪化したが、鉄鋼がマイナス18と10ポイント悪化したのが目立った。米国の鉄鋼・アルミへの25%の関税賦課が3月12日からスタートし、その影響が出た。
その一方、自動車はプラス13と前回比5ポイントの改善だった。自動車業界がトランプ米大統領による25%の関税実施方針をあまり織り込んでいなかった可能性があり、その後の株価急落のインパクトも今回の短観結果にあまり反映されていなかった可能性がある。
そうした点を差し引いても、今回の短観の結果は日銀がオントラックとみている国内経済の堅調さを示している内容と言えるだろう。
例えば、大企業・非製造業の業況判断DIはプラス35と、1991年8月調査以来、33年7カ月ぶりの高水準となったほか、販売価格判断は製造業がプラス28、非製造業がプラス32とともに前回から3ポイント上昇した。
企業の物価見通しは、全規模・全産業で消費者物価の前年比上昇率が平均で、1年後が2.5%、3年後が2.4%、5年後が2.3%とそれぞれ前回調査から0.1ポイントの上昇となった。そのうち3年後と5年後の見通しは過去最高だった。
また、2025年度の設備投資計画は大企業・全産業で前年度比プラス3.1%となり、過去と比較して高めの数字でスタートしている。
このように今回の短観のデータを見ると、国内企業の経済活動は日銀の想定通りに進ちょくしいていることが確認され、中でも物価見通しが堅調で2%でアンカーされていることが明確になったと言える。
足元で消費者物価指数(CPI)が食品などの値上がりで上振れの可能性が高まっていることを勘案すれば、次回の4月30日─5月1日の金融政策決定会合で利上げが議論されてもおかしくない状況になって来たと筆者には映る。
<自動車関税の公表後に株価急落、市場の日銀利上げ予想は先送り方向にシフト>
だが、トランプ大統領による自動車と同部品への25%関税の実施や、そのマイナスインパクトを織り込もうとした日経平均株価の大幅な下落傾向をみると、日銀の早期の利上げは難しなくなったという声がマーケットで急速に広がっている。
1日の段階で市場が予想する利上げの可能性は、5月会合が20%、6月会合が52%、7月会合が76%と利上げ予想が先送りされる方向にシフトしている。
<米相互関税の全容発表後の日米株価、大幅続落と反発の予想交錯>
この見通しに大きな影響を与えそうなのが、2日にトランプ大統領が公表する相互関税の内容だ。今のところマーケットには米国と日本の株式についいて、1)自動車関税に続くマイナスの影響の追加で大幅に続落する、2)相互関税の内容が思ったよりも穏健であればこれまでの下落幅が大きいので反発する──という2つの見方が並立しているようだ。
もし、米株が2)のように反発した場合は、日本株も追随して反発する可能性はそれなりにあるのではないか。
また、トランプ関税全般の日本経済や日本企業に与える打撃の大きさが大まかに予見できるようになった段階で、石破茂首相が財政資金による「打撃緩和策」の策定を関係閣僚に指示し、どこかの段階で2025年度補正予算を編成する方針を明らかにする可能性があると予想する。
このような政府対応が市場に伝われば、これも日本株の反発材料として意識されるだろう。
<日銀の判断、市場動向に左右される展開か>
上記のどちらの道をマーケットが行くかによって、円債市場における金利の動向も全く違った方向になると思われる。日本株の下値模索が継続するようなら「リスクオフ」心理が刺激され、長期金利が大幅に低下するのではないか。
その一方、日本株が反発するコースをたどるなら、日本の長期金利もじりじりと上がる展開が予想される。
日銀の金融政策判断も、相互関税の全容判明以降の市場動向によって大きな影響を受けるのではないか。堅調な国内経済が海外の不確実性によって、どの程度の下振れとなるのか。新年度スタートとともに今年の内外経済の動向を左右する局面にいきなり直面する。
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