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一歩先の経済展望

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「賃金に上昇圧力」と植田日銀総裁、市場はいつからその本音を織り込むのか

2025-08-25 16:04:45 | 経済

 市場が注目していた「ジャクソンホール会議」でのパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演は、市場が9月利下げに扉が開かれたとみて、米株に資金が流入した。25日の東京市場で日経平均株価は続伸したものの、一段高のエネルギー注入はなかった。9月上旬の8月米雇用統計の発表までマーケットはこう着感が強まりそうだ。

 こうした中で、マーケットが織り込んでいない材料が唯一残されている。それがジャクソンホール会議での植田和男日銀総裁の発言だ。人手不足を背景に「賃金には上昇圧力がかかり続けると見込まれる」と述べたが、25日のマーケット反応は乏しかった。筆者はこの発言の重要性を見落としていると指摘したい。賃金に上昇圧力がかかったままで政策金利の大幅な実質マイナスを継続すれば、物価上昇圧力の増大を見逃すことになる。今後の日銀からの情報発信に対する市場の注目度は大幅に上昇すると予想する。

 

 <ジャクソンホールでのパウエル議長講演、市場は9月利下げの公算大と受け止め>

 パウエル議長の講演での発言を「おさらい」すると、7月米雇用統計の結果などから「雇用に関する下振れリスクが高まっていることが示唆されていて、急激な解雇の増加と失業率の上昇という形で急速に表面化する可能性がある」と指摘。「労働市場が減速するリスクが高まる場合には「政策スタンスの調整が正当化される可能性がある」と述べて、9月の利下げの可能性が色濃いことを強くにじませた。

 インフレ警戒に軸足を置くのではないか、という市場の懸念が根強く存在していたこともあり、22日にダウは前日比プラス846.24ドルの4万5631.74ドルと最高値を更新して取引を終えた。

 

 <年内2回の米利下げ織り込む市場、一段の株高と円高進展には材料不足>

 25日の東京市場は、この米株高を受けて一時、前週末比で500円を超す上昇となったが、午後は伸び悩んだ。というのもパウエル議長の講演を受けて、マーケットは今年12月までに0.25%刻みで2回の利下げを織り込んだが、当面は8月米雇用統計の発表まで米労働市場の弱さをチェックするデータの確認ができないため、「一段高」を織り込めないというムードが広がったからだ。

 ドル/円も22日NY市場で147円を割り込んだが、25日の取引では147円前半での取引で終始した。株式市場と同様に、年内2回の米利下げはすでに織り込んでおり、さらに円高を進める新たな材料が足元では見込めないとの心理が広がった。

 ジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演を織り込んだ市場は「新たな均衡点」を形成しており、ここから先の展開は、フレッシュで強いインパクトを持つ材料の提示があるまで「こう着相場」が続く可能性が高まっていると言える。

 

 <賃金にかかり続ける上昇圧力、植田総裁の指摘をマーケットは無視>

 だが、多くのマーケット参加者がある種の固定観念で無視した発言がある。ジャクソンホール会議の最終日に当たる23日に行われたセッションにおける植田日銀総裁が述べた内容だ。

 「転換期の労働市場の政策的含意」がテーマとなったパネルセッションで、植田総裁は「人口減少下における日本の労働市場:ダイナミクスの変化とマクロ経済へのインプリケーション」と名付けられた分析結果を公表した。

 パウエル議長が22日の講演で労働市場の弱さが顕在化するリスクへの対応として利下げの選択の合理性を指摘したが、植田総裁は日本国内における構造的な人手不足の現状を説明しつつ「大きな負の需要ショックが生じない限り、労働市場は引き締まった状況が続き、賃金には上昇圧力がかかり続けると見込まれる」と述べた。

 つまり、トランプ関税の賦課によって大きな需要ショックが発生しないのであれば、構造的な人手不足を背景に日本国内の賃金には上昇圧力がかかり続けると述べたことは、賃上げを起点にした物価上昇のメカニズムが働き続けるという蓋然性を指摘したことにほかならない。

 大きな負の需要ショックが生じる可能性については、日経平均株価がいったんは史上最高値を更新し、足元でも最高値付近での推移を続けている現状を見れば、少なくもマーケットはそうしたリスクが高まるとは見てないと言える。 

 

 <賃上げ圧力の継続と3%台のCPI上昇をどうみるべきか>

 今回の講演では、足元の物価情勢への言及はなかったが、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)が8カ月連続で3%台を記録し、生鮮食品を除く食料が前年比プラス8.3%と高止まり、これが日銀の想定よりもコアCPIが上振れて推移する大きな要因になっている。

 政策金利を実質でみれば、マイナス2%台という主要国で飛び抜けて低い水準となっており、それが円の実効為替レートを円安方向に促している。エネルギーと食料の輸入比率が高い日本にとって、円安は物価の押し上げ要因になりやすい。

 

 <日銀利上げへの市場織り込み、進むことになればマーケットへのインパクト増大も>

 こうした中で賃金上昇圧力の継続性に言及した植田総裁の発言は、適時に利上げを検討していくスタンスを示したとみていいのではないか。

 先に指摘したようにマーケットはジャクソンホール後の注目点を探している状況だが、植田総裁の発言は材料視されず、ほとんど織り込まれていない。25日の段階で日銀利上げの織り込みは9月が12%、10月が54%、12月が76%となっていて、ジャクソンホールでの植田総裁の発言の前後で大きな変化はない。

 しかし、これからの日銀金融政策決定会合のメンバーからの発言で、利上げに対する積極的な姿勢が見えれば、織り込みが進む可能性が出てくる。そのケースではドル安・円高の動きがこれまでよりも強まる展開も予想される。

 その意味で、28日の中川順子審議委員による「山口県金融経済懇談会」での講演と会見、9月2日の氷見野良三副総裁による「道東地域金融経済懇談会」での講演と会見は、注目度が一段と上がるのではないかと予想する。


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