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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

米軍のイラン攻撃、被害実態見えず市場は様子見 最速で反応する原油先物に関心集中

2025-06-23 16:18:28 | 経済

 トランプ米大統領は21日夜(日本時間22日朝)に米軍がイラン国内の3カ所の核施設を空爆したと発表、同日のテレビ演説で「イランの主要な核濃縮施設は、完全かつ徹底的に抹消された」と述べて米軍の作戦が成功のうちに終了したことを強調した。

 だが、国際原子力機関(IAEA)は22日、米軍による攻撃後に周辺地域の放射線レベルの上昇は報告されていないと発表、マーケットでは今回の米軍による攻撃でイランが受けた被害がはっきりしないとして、23日のアジア市場取引時間帯は株売りや原油価格の上昇が限定だった。今後はイランの反撃態勢やイスラエル、米国とイランとの軍事衝突が長期化するのか短期間で収束するのかを見極める展開となり、その際に最も注視されるのは原油先物価格になりそうだ。

 

 <米軍の攻撃、高濃縮ウランの所在は不明>

 米軍の攻撃対象となったのは、フォルド、ナタンズ、イスファハンの核施設。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、21日にトランプ大統領は攻撃計の実施を決断。その数時間後にB2ステルス戦略爆撃機がイラン領空に侵入し、中部フォルドゥの地下にある核施設に対してバンカーバスターを投下。米潜水艦からイスファハンとナタンズの核施設に巡航ミサイルを発射したという。

 一方、イランのタスニム通信は、当局者の話しとして「3カ所の核施設周辺における放射性物質による汚染の可能性について調査を行った結果、汚染の兆候はない。施設周辺の住民に危険はない」と伝えた。

 また、イラン政府の高官が22日、ロイターの取に対し、高濃縮ウランの大部分が米軍攻撃の前に非公開の場所に移送され、施設の人員も最小限に減らされていたと述べた。

 

 <リスクオフ心理、3つの要因で進展せず>

 こうした中で、23日の日経平均株価は前週末比49円14銭(0.13%)安の3万8354円09銭で取引を終えた。

 米軍攻撃でいったんはリスクオフ心理が高まったものの、1)イランの被害の詳細が不明、2)攻撃された核施設での放射能漏れが記録されていない、3)イランの本格的な反撃がない──などから様子見のムードが広がり、当初想定されていたような大幅な株売りは控えられた。

 外為市場でも当初は、リスクオフ心理が優勢になり、ドルと円がともに他の主要通貨に対して強い展開となったが、イラン側の反撃がない状況で、紛争の短期終結への思惑も浮上。リスクオン方向への巻き戻しがみられてドル/円はドル高・円安方向にシフトし、23日夕方には147円半ば付近までドル高・円安が進行している。

 

 <短期収束と長期化、2つのシナリオ 後者なら世界的株価下落避けられず>

 複数の市場関係者によると、マーケットには2つの正反対のシナリオが並立しているという。1つは、米軍の攻撃などでイランの軍事態勢が大幅に弱体化し、兵器の補充もままならないため、和平交渉のテーブルに着き、短期間で紛争が解決するという結末が想定されている。

 もう1つは、イランが対米報復を決意し、ペルシャ湾岸に展開する多数の米軍基地も対象に攻撃を開始し、中東での軍事衝突が激化するとともに長期化するという予想だ。

 後者のシナリオ実現性が高まると、世界的にリスク資産が売られ、株式は世界的な下落が避けられなくなる。

 

 <イスラム革命防衛隊の指揮官の独断、ホルムズ封鎖が最悪のシナリオ>

 市場関係者の間で、最も警戒されているシナリオが実は別に存在する。イランの最高指導者・ハメネイ師がイスラエルなどからの暗殺を恐れ、通信手段の活用を断念し、イラン国内のどこかに隠れている場合、イラン政府の内部で最高意思決定のプロセスが機能せず、イスラム革命防衛隊がそれぞれの部隊で独自の判断によって攻撃を仕掛けるという展開だ。

 そのうちの派生形として懸念されているのが、ホルムズ海峡の封鎖を現場の指揮官の独断で実行に移し、タンカーによる原油輸送がストップするケースだ。

 イランで生産された原油の多くはホルムズ海峡を通って輸出されており、特に最近になって取引高が増加している中国やインドなどが悪影響を受けるため、両国が強くイランに自制を求めるとの観測が根強く語られている。

 ただ、イスラム革命防衛隊の指揮・命令に関し、ハメネイ師が関与できなくる状況に直面した場合は、想定を超えた不可抗力が働いて、何らかの緊急事態が発生することも十分に予想されると筆者は考える。

 

 <原油先物が示す中東情勢の危険度、緊迫なら90ドル台への上昇も>

 様々な不確定要素が混在する中で、多くのマーケット参加者が注視ているのが原油先物価格だ。23日のアジア市場取引時間帯に、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は1バレル=76ドル台に上昇したものの、その後は73ドル半ばまで下落している。

 もし、原油先物が80ドル台から90ドル台へと上昇を始めた時は、イランをめぐる軍事情勢が再び緊迫し、紛争が長期化する可能性が高まっていることを示しているとみていいだろう。

 原油価格の上昇は、米国内でのインフレ懸念を再燃させる方向に働き、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ決断を遠ざけることになる。

 日本にとっても、企業収益の圧迫要因となり、ドル高・円安の進展によって日本の物価上昇率をさらに押し上げる要因としても意識されることになる。

 中東情勢に最初に反応するデータとして、原油先物価格の動向は世界中の市場関係者にとって当面は、最大の注目材料となりそうだ。

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都議選で大敗北した自民、参院選勝利に賃上げ可能な成長プランが必須 

2025-06-23 13:54:55 | 政治

 22日に投開票された東京都議選は、自民党が史上最低の21議席にとどまり、全勝を目指した公明党も現職3人が落選し、国政で与党の自公両党には大逆風となった。多くのメディアは7月20日投開票の参院選は都議選における自公敗北の影響が色濃く反映されると予想するが、筆者は石破茂首相が低成長を打破する日本経済の成長プランを明確に打ち出し、経済成長と賃上げで所得を増強する具体性のある政策体系を打ち出せば、流れが変わる可能性があると指摘したい。

 特に小泉進次郎農相がコメ価格の引き下げを提起したことで、今まで農政に関心のなかった大都市圏の有権者が日本の農業の将来性と食料自給率の引き上げに注目し出し、既得権益に切り込む「改革」を打ち出したことへの影響力は大きく、改革によって日本経済の成長率を高める道筋を明確にできるかどうかが大きなポイントになりそうだ。

 

 <自民は結党以来の大敗北、都民ファーストに水道料金無償化が追い風>

 自民党は追加公認した無所属の3人を含めても、過去最低だった2017年の23人を下回り、結党以来の大敗北を喫した。

 特徴的なのは、自民支持者の自民党離れだ。朝日新聞の調査によると、今回の都議選で自民党支持層は前回2021年の28%から21%に低下したが、その細った支持層のうち自民党候補に投票したのは53%にとどまった。

 多くのメディアは31議席を獲得して第1党になった都民ファーストやゼロから9議席に躍進した国民民主党、同じく3議席を得た参政党に票が流れたとみている。

 特に都民ファーストは、小池百合子都知事が6月から9月、または7月から10月の夏場の4カ月間に限って水道料金の基本料金を無償化することを決めたことで、物価高に対して柔軟に対応する政策を推進する「小池与党」のカラーを打ち出したことが大きく影響したと指摘したい。

 国民民主党も「手取りの増加」を国政同様に打ち出し、若い世代の支持を集めたことが躍進の大きなパワーになったとみられている。

 

 <自民党に物価高に対応できない硬直したイメージ>

 これに対して自民党は同じ小池与党の立場ながら、物価高に対応する的確な政策を打ち出していない、というイメージが強まり、裏金問題で多数の候補者が非公認になったことも合わせ、古い体質と物価高に対応できない硬直した政党とのイメージを払拭することができなかった。 

 また、前回比でマイナス4議席の19議席にとどまった公明党だけでなく、日本共産党がマイナス5議席の14議席、日本維新の会がマイナス1議席のゼロとなったことなど、既存政党のイメージが強い政党の議席減が目立った。

 つまり、現状を変えていく期待感の強弱が、今回の都議選の結果で大きなファクターになったと指摘したい。

 

 <都議選の結果が参院選に連動しない3つの理由>

 都議選における自公への大逆風をみて、多くの識者は参院選での与党劣勢を強調し、中には参院選で与党が過半数を割り込むと予想する見方も出てきた。

 だが、12年に1度となる参院選と都議選の重なる年における2つの選挙の共通性をあまり強調すると、トレンドを見誤る可能性があると筆者は指摘したい。

 まず、1つ目の理由は都議選で躍進した都民ファーストが、参院選で候補者を擁立しておらず、自民批判票の受け皿が分散する可能性が高いことだ。

 2つ目は、物価高対策として参院選では消費税率の引き下げを主張している野党が多い中で、各種の世論調査で将来の社会保障関係費用の財源となる消費税の税率引き下げに対し、反対している割合がじわじわと上がっている傾向があることだ。

 3つ目は、小泉農相がリーダーシップを発揮しているコメ価格の引き下げ問題に関連し、日本のコメ生産が生産調整で抑制されてきた現実にも多くの国民の関心が集まり、農政を改革していく必要性について都市部の有権者の関心が高まっているという現象が生じている点だ。

 

 <地政学的リスクと地球環境問題、国民の食料安保への関心高める>

 筆者は、世界的な地政学的リスクの高まりと地球規模の環境変化の下で、日本の食料自給率の引き上げと安全保障が切っても切れない関係であることを多くの国民が気づき始めていると指摘したい。

 ところが、今の日本の農業の現状では、担い手の高齢化に歯止めがかからず、100%の自給が可能なはずのコメ生産においても、特に零細農家が多い西日本では安定的なコメ生産ができなくなる可能性が出てきている。

 農業の現状を改革し、生産性の向上に欠かせない農地の集約化に大ナタをふるう改革への強い決意がなければ、日本の農業は衰退の道から逃れることはできないだろう。

 

 <40年に1000兆円のGDP、具体化へ手段明示なければ参院選も赤信号点滅へ>

 こうした改革の旗印を農業だけでなく、日本経済の各方面で掲げ、潜在成長率を高める具体策を示し、その成長戦略の結果、賃金が上がっていく姿を国民に示すべきだ。

 石破首相は名目国内総生産(GDP)を2040年に1000兆円とし、平均所得を現在から5割以上増加させるとの目標を参院選の「1番目の公約」に掲げるよう自民党幹部に指示したが、具体的な手段を明示しなければ、だれも信用しないだろう。

 日本経済の構造改革を実行に移していく「グランドデザイン」を示すことができれば、給付偏重の野党との間で大きな違いを主張することができる。

 それができなければ、2万円の給付は「ばらまき」という野党やエコノミストの主張に対して明確な反論ができず、都議選と同様に「目玉政策なき選挙」を強いられて、参院でも与野党が逆転する事態を生み出す可能性が高まることになる、と予想する。

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