トランプ米大統領は21日夜(日本時間22日朝)に米軍がイラン国内の3カ所の核施設を空爆したと発表、同日のテレビ演説で「イランの主要な核濃縮施設は、完全かつ徹底的に抹消された」と述べて米軍の作戦が成功のうちに終了したことを強調した。
だが、国際原子力機関(IAEA)は22日、米軍による攻撃後に周辺地域の放射線レベルの上昇は報告されていないと発表、マーケットでは今回の米軍による攻撃でイランが受けた被害がはっきりしないとして、23日のアジア市場取引時間帯は株売りや原油価格の上昇が限定だった。今後はイランの反撃態勢やイスラエル、米国とイランとの軍事衝突が長期化するのか短期間で収束するのかを見極める展開となり、その際に最も注視されるのは原油先物価格になりそうだ。
<米軍の攻撃、高濃縮ウランの所在は不明>
米軍の攻撃対象となったのは、フォルド、ナタンズ、イスファハンの核施設。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、21日にトランプ大統領は攻撃計の実施を決断。その数時間後にB2ステルス戦略爆撃機がイラン領空に侵入し、中部フォルドゥの地下にある核施設に対してバンカーバスターを投下。米潜水艦からイスファハンとナタンズの核施設に巡航ミサイルを発射したという。
一方、イランのタスニム通信は、当局者の話しとして「3カ所の核施設周辺における放射性物質による汚染の可能性について調査を行った結果、汚染の兆候はない。施設周辺の住民に危険はない」と伝えた。
また、イラン政府の高官が22日、ロイターの取に対し、高濃縮ウランの大部分が米軍攻撃の前に非公開の場所に移送され、施設の人員も最小限に減らされていたと述べた。
<リスクオフ心理、3つの要因で進展せず>
こうした中で、23日の日経平均株価は前週末比49円14銭(0.13%)安の3万8354円09銭で取引を終えた。
米軍攻撃でいったんはリスクオフ心理が高まったものの、1)イランの被害の詳細が不明、2)攻撃された核施設での放射能漏れが記録されていない、3)イランの本格的な反撃がない──などから様子見のムードが広がり、当初想定されていたような大幅な株売りは控えられた。
外為市場でも当初は、リスクオフ心理が優勢になり、ドルと円がともに他の主要通貨に対して強い展開となったが、イラン側の反撃がない状況で、紛争の短期終結への思惑も浮上。リスクオン方向への巻き戻しがみられてドル/円はドル高・円安方向にシフトし、23日夕方には147円半ば付近までドル高・円安が進行している。
<短期収束と長期化、2つのシナリオ 後者なら世界的株価下落避けられず>
複数の市場関係者によると、マーケットには2つの正反対のシナリオが並立しているという。1つは、米軍の攻撃などでイランの軍事態勢が大幅に弱体化し、兵器の補充もままならないため、和平交渉のテーブルに着き、短期間で紛争が解決するという結末が想定されている。
もう1つは、イランが対米報復を決意し、ペルシャ湾岸に展開する多数の米軍基地も対象に攻撃を開始し、中東での軍事衝突が激化するとともに長期化するという予想だ。
後者のシナリオ実現性が高まると、世界的にリスク資産が売られ、株式は世界的な下落が避けられなくなる。
<イスラム革命防衛隊の指揮官の独断、ホルムズ封鎖が最悪のシナリオ>
市場関係者の間で、最も警戒されているシナリオが実は別に存在する。イランの最高指導者・ハメネイ師がイスラエルなどからの暗殺を恐れ、通信手段の活用を断念し、イラン国内のどこかに隠れている場合、イラン政府の内部で最高意思決定のプロセスが機能せず、イスラム革命防衛隊がそれぞれの部隊で独自の判断によって攻撃を仕掛けるという展開だ。
そのうちの派生形として懸念されているのが、ホルムズ海峡の封鎖を現場の指揮官の独断で実行に移し、タンカーによる原油輸送がストップするケースだ。
イランで生産された原油の多くはホルムズ海峡を通って輸出されており、特に最近になって取引高が増加している中国やインドなどが悪影響を受けるため、両国が強くイランに自制を求めるとの観測が根強く語られている。
ただ、イスラム革命防衛隊の指揮・命令に関し、ハメネイ師が関与できなくる状況に直面した場合は、想定を超えた不可抗力が働いて、何らかの緊急事態が発生することも十分に予想されると筆者は考える。
<原油先物が示す中東情勢の危険度、緊迫なら90ドル台への上昇も>
様々な不確定要素が混在する中で、多くのマーケット参加者が注視ているのが原油先物価格だ。23日のアジア市場取引時間帯に、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は1バレル=76ドル台に上昇したものの、その後は73ドル半ばまで下落している。
もし、原油先物が80ドル台から90ドル台へと上昇を始めた時は、イランをめぐる軍事情勢が再び緊迫し、紛争が長期化する可能性が高まっていることを示しているとみていいだろう。
原油価格の上昇は、米国内でのインフレ懸念を再燃させる方向に働き、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ決断を遠ざけることになる。
日本にとっても、企業収益の圧迫要因となり、ドル高・円安の進展によって日本の物価上昇率をさらに押し上げる要因としても意識されることになる。
中東情勢に最初に反応するデータとして、原油先物価格の動向は世界中の市場関係者にとって当面は、最大の注目材料となりそうだ。