忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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頑張る親父「大統領の理髪師」

2005年04月01日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


■DVD:「大統領の理髪師」


相変わらずもの凄い勢いで流れ込んでくる韓国映画だが、
ハリウッド映画ほどバイヤーの目が鍛えられていないのか、
日本で公開される作品の質にかなりムラがあるのが気になる。
どの国のどのジャンルであれ、アタリハズレは当然あるのだが、
韓国映画はハズレが多い一方、アタリを引いた時は
年間でも5本の指に入るほどの傑作だったりするため
「次こそは」という思いから止められなくなってしまう。

今回紹介する「大統領の理髪師」は「アタリ」だ。
1960年3月の李承晩大統領の不正選挙から
1979年10月の朴正煕大統領暗殺までの約20年間にスポットを当て、
大統領付きの理髪師という、一庶民であると同時に国の心臓部を
覗き見ることの出来る特権的なポジションの男の目線から
圧政により支配されていた当時の韓国を
少しの毒気と独特のユーモアを交えて描いている。

本作では、韓国軍事独裁政権下という時代の「空気」は再現されているものの、
そこで繰り広げられる悲喜交々のエピソードの大半はフィクションである。
映画の重要なウェイトを占めている下痢事件に関しても
実は監督の創作であると後で知った。
エピソードに笑いを誘うものが多いのは、
声高に非難するよりおちょくってやった方が面白いという
イム・チャンサン監督ならではのアプローチなのだろう。
韓国映画でこの手の題材を扱うとどうしても重く、
泥臭くなってしまうのだが、視点をぼやかすことなく、
ここまで軽い味に仕上げたのは素晴らしい。
聞き慣れない名前の監督だったので
過去に何を撮った人なのかと調べてみたところ、何とこれがデビュー作とのこと。
映画の振興に政府が強力な支援を行っている現在の韓国映画事情が
こういった若い監督を続々と生み出しているのだろう。
羨ましい話だ。
「箪笥」「殺人の追憶」「大統領の理髪師」
これらが全て若手の作品だということを考えると
日本は大丈夫なのかと不安になってしまう。

それにしてもソン・ガンホは上手い。
一庶民が大統領付きの理髪師という晴れ舞台に
連れて来られたことによる喜びや戸惑い、
周囲に対する少しの優越感や警護室長への畏れなどが
スクリーンから滲み出ている。
逆らうことの出来ない力と、
逆らってでも守るべき者の狭間で揺れる
ただの理髪師の親父の人生がこれほどまでに胸を打つのは、
ソン・ハンモという主人公をソン・ガンホが演じたからに他ならない。

2002年に公開された「バティニョールおじさん」という
フランス映画があるのだが、
あの映画も歴史の陰で活躍(と言ってもささやかなのだが)した
街の肉屋の親父の話であった。
「大統領の理髪師」は「バティニョールおじさん」に似ている。
体制に異を唱えて奮闘する親父というのは、
どこの国でも愛すべき存在なのかも知れない。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:大統領の理髪師
    配給:アルバトロス・フィルム
   公開日:2005年2月11日
    監督:イム・チャンサン
    出演:ソン・ガンホ(「殺人の追憶」)ムン・ソリ(「オアシス」)
 公式サイト:http://www.albatros-film.com/movie/barber/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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9 コメント

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バティニョール (ろっく)
2005-04-01 09:35:36
バティニョールおじさんは私も見ました。

何の変哲もないデブ親父がパタパタしながら活躍するのは面白かったです。

そのテイストがあるなら是非見てみたいですね~。

しかし、中国やヨーロッパの映画を見てると結構「監督兼主演」みたいな映画が多いのですが、そう言うの好きなんでしょうかね。あっちの人は。
返信する
はじめまして (ken)
2005-04-01 11:16:50
ぼくも見ましたが内容がよく理解できなくて、楽しめなかったです・・・w
返信する
観たいな~ (なおぽ)
2005-04-01 11:46:43
「殺人の追憶」大好きだし

ソン・ガンホの演技も好きだし

今一番観たい韓国映画だな~。
返信する
床屋映画 (シンちゃん)
2005-04-01 12:44:08
面白そうですね

コーエン兄弟の「バーバー」が大好きなので

変な期待を抱いてしまいそうです



猛烈に見たかった「サイドウェイ」と違って地元で上映してくれるので

まったり観に行こうかと思います
返信する
久々に (風来のシュン)
2005-04-01 14:00:21
忍さんのレビューを読んで、久々に韓国映画見てみようかという気持ちになりました。

ただ、近くに上映している所が無いのが残念。(^-^;



ソン・ガンホは確かにいい俳優ですね。

「J・S・A」の北朝鮮兵士役が特に印象に残っています。

返信する
む、 ()
2005-04-01 23:12:21
>ろっく殿



おぉ、「バティニョール」をご存知とは奇特な。

私はけっこう好きな映画なのだが、

あまり知名度がないのが残念。

ロベルト・ベニーニは監督を兼任しない方が良いと

「ピノッキオ」で思ったが、確かに日本よりは多い。

日本では北野武ぐらいか。

松尾スズキが密かに狙ってそうだが。



>ken殿



ようこそ、場末のBLOGへ。

確かに時代背景を分からないと今ひとつ楽しめないかも知れぬ。



>なおぽ殿



ソン・ガンホが好きなら絶対にお勧めだ。

損はしないと思う。



>シンちゃん殿



「サイドウェイ」は都市部ではそろそろ終わりであろうか。

単館系はこれからなのでお住まいの地方にも行くやも知れぬ。



>風来のシュン殿



うむ、韓国映画にアレルギーがなければお勧めだ。

近くでの上映予定がなければ是非DVDで。



返信する
Unknown (むご)
2005-04-02 11:21:32
映画のタイトルが「大統領の理髪師」と、ちょっと変わったタイトルで、韓国映画の事に疎い自分は、昨日がエイプリルフールだという事もあり、「ありもしない嘘の映画を面白おかしく紹介しているのかなぁ」、と思いこんでしまいました・・・。



実在したんですね・・・。

返信する
む、 ()
2005-04-02 23:49:28
>むご殿



ちゃんと公開中の映画だ。

題材に興味がおありなら是非。
返信する
Unknown (豆しば)
2005-04-04 15:40:14
「殺人の追憶」見ました。

詳しい感想は、自分のブログに書いときます。

次は反則王でも見ようかなと思ってます。
返信する

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