耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

今日は“一茶忌”~晩年の異常性欲

2007-11-19 08:20:01 | Weblog
 今日は一茶が没して180回目の“一茶忌”。3歳で母を亡くし、8歳で継母を迎えた一茶は15歳の時、江戸に奉公に出される。奉公先を転々としながら俳句の道をめざす。29歳の時に一度ふるさとに帰るが、30~36歳まで関西、四国、九州を俳句修行の旅。39歳になって再びふるさとに帰って父を看病、父は一茶と弟で田畑・家屋敷を等分するよう言い遺し、ひと月後に亡くなる。

 このあと10年以上にわたり継母・弟との財産争いが続くが、52歳で28歳の「きく」を妻に迎え、三男一女を産むもいずれも夭折、妻「きく」も37歳の若さで逝く。ところで、一茶は克明な日記を残しているが、これに関し立川昭二著『病と人間の文化史』(新潮選書)から引いてみよう。

 <一茶は52歳ではじめて妻をもった。根が頑健で勢力旺盛であったためか、あるいは跡継ぎがあまりに欲しかったからか、惨絶ともいえる性欲の噴出をみせ、閨房(けいぼう)のリアルな記録をのこす。この年(注:1816)の8月にはつぎのように、連日連夜の房事の回数を克明に書きとめていく。
 8 晴 夕方一雨、雲竜寺葬、菊女帰ル            夜 5交合
 9 晴 田中希杖ヨリ一通来ル、去ル5日、沓野ノ男女心中、死ス
12 晴                           夜 3交
13 晴 アサノニ入ル
14 晴 内町ニ入ル、夕小雨
15 晴 婦夫月見、留守中木瓜(ぼけ)ノ挿木何者カ之ヲ抜ク    3交
16 晴 白飛ニ十六夜セント行クニ留主              3交
17 晴 墓詣                        夜 3交
18 晴                           夜 3交
19 晴                             3交
20 晴                             3交
21 晴 牟礼(むれ)雨乞、通夜大雷、隣旦飯           4交

 …21日など、隣村の牟礼で雨乞の祈祷、夜どおし大雷、隣家の義弟仙六方で亡父の供養をし、朝食を馳走になったあと、白昼4交におよぶ。…
 そして、こうした性交記録と平行して、日記には「黄精酒ニ漬ケル」「淫羊霍(いんようかく)ヲ採ル」「神仙丹四服」…など、強精剤を懸命に採集・製造している記録がつづく。そして「雪、暁1交」「雪、旦1交」「晴、5交」というように連日昼夜をおかず交合をくりかえす。若い妻をもった初老の男のあせりか、あるいは子種ほしさの切ないたたかいか、それとも老人性異常性欲ででもあったのだろうか。…>

 なんとも凄まじい話ではある。晩年、一茶は中風(脳卒中)で半身不随の不自由な身だったが、「きく女」のあと2番目の妻を迎えるが2ヶ月で離婚、3番目の妻「やを」との間に1女「やた」をもうける。「やた」は一茶の死後産まれ、明治まで生きて一茶の血を伝えた。1827(文政10)年11月19日、一茶は65歳の生涯を閉じる。

 
 一茶の句から思いのまま選んでみた。

・陽炎やむつましげなるつかと塚        29歳
 (「蓮生寺に参。是は次郎直実発心して造りし寺とかや。蓮生、敦盛並て墓の立るもまた哀也」と前書あり)
・秋の夜や旅の男の針仕事           31歳
・もたいなや昼寝して聞く田うへ唄       36歳
・生残る我にかゝるや草の露          39歳
 (火葬場で父の遺骨を拾った朝)
・はいかいの地獄はそこか閑古鳥        41歳
・木がらしや地びたに暮るゝ辻諷ひ       42歳
 (「辻諷(つじうた)ひ」は辻で諷ひながら物乞いする人)
・いざさらば死ゲイコせん花の陰        46歳
 (西行の「願はくは花の下にて春死なむその如月のもちづきのころ」に思いをかけてか?)
・露の世の露の中にてけんくわ哉        48歳
・むつましや生れかわらばのべの蝶       49歳
・月花や四十九年のむだ歩き          49歳
・亡母(なきはは)や海見る度に見る度に    50歳
・是がまあつひの栖か雪五尺          50歳
・あの月をとつてくれろと泣く子哉       51歳
・我と来て遊ぶや親のない雀          52歳
・蝿一ツ打ってはなみあみだ仏哉        52歳
・痩蛙まけるな一茶是に有り          54歳
 (蛙が群れて行う生殖行為を見て?)
・闇夜(やみのよ)のはつ雪らしやボンの凹(くぼ)57歳
・目出度さもちう位也おらが春         57歳
・雀の子そこのけそこのけ御馬が通る      57歳
・木がらしや廿四文の遊女小屋         57歳
・秋風やむしりたがりし赤い花         57歳
 (「さと女三十五日墓」の前書)
・やれ打つな蝿が手をすり足をする       59歳
・来る人が道つける也門の雪          62歳
・団扇の柄なめるを乳のかはり哉        63歳
 (「母に遅れたる子の哀れさは」の前書)
・花の影寝まじ未来が恐ろしき         65歳
 (これが辞世の句か?)