耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

最新診断機器と中医の診断法

2007-03-25 21:24:38 | Weblog
 私が“急性乖離性大動脈瘤”を発症してからもうすぐ7年になる。5年間の経過観察期が過ぎ、ほぼ治癒したとみていいのだろう。だが、高血圧症と高脂血症の管理は欠かせず、数種類の薬剤を服用している。同時に、3~6ヶ月の周期で心電図、胸部X線、血液検査を受け、1~2年に一度の胸腹部エコー検査がある。私の主治医のやり方には、おおむね満足している。

 最近、義兄に前立腺がんが見つかった。泊りがけで精密検査を受けたが、ぐったりなって帰ってきた。もういい加減検査は受けたくないとぼやいている。これから免疫治療や放射線治療があるというから年寄りには長生きも楽ではない。

 大阪の親友Y君は、前立腺がんが発見されて10数年が経つ。発症当時は横浜に在住していて慶応病院にかかっていた。ところが、主治医との間で治療方針を巡り意見が対立(主治医は切除もしくは放射線治療を主張、Y君は免疫療法にこだわる)、相当悩んで頼りになる医師がいないか千葉にいた私に相談があったので、気功療法を取り入れた“がん専門病院”「帯津三敬病院(帯津良一院長・埼玉県川越市)」をすすめた経緯がある。その後彼は大阪に移住し、治療に専念してきたが、自分が納得できなければ<セカンドオピニオン制度>を積極的に活用し、とことん自分の体と向き合った療法を探究している。さすがだと感心している。

 「セカンドオピニオン」:http://www.tougouiryou.jp/

 最新診断機器ではCT(コンピューター断層撮影法)と血管カテーテル(導管)それに直腸内視鏡の受診しか体験がない私だが、新しい機器による診断技術は目覚しい進歩を遂げているらしい。不老長寿を願望する人間が病に直面すると“わらにもすがる”心境であらゆる療法に希望を託すのは自然の成り行きといえるかも知れない。

 20年ほど前になるが、鹿児島大学医学部N教授は、「旧来の心電図で心疾患の90%は正しい診断が可能」といい、ついでの話に「昔は、小、大便の色や臭いで病気の診断をしていたことを思えば、今の医者は機械に頼りすぎている」と述べていたが、診療現場の人びとには傾聴すべき話ではないだろうか。そういう意味で、中医学による診断法は現代医学でも見直されてしかるべきだと思われる。

 中医学の診法を「四診」といい、望・聞・問・切がある。

・〔望診〕 患者の全身、局所や排泄物などの状況から病状を大まかに知ること。意識や精神の状態、顔や身体などの色沢、形態などを見るが、なかでも舌の診察がとくに重要な意味を持つ。
・〔聞診〕 聞とはすなわち聴と嗅であり、音声を聞き、言語を聞き、呼吸を聞き、咳を聞き、そしてにおいを嗅ぐこと。
・〔問診〕 医師が患者または患者の家族とかわす談話のことである。それによって疾病の進展変化の状況および患者の生活の場所、周囲の環境などを理解し、これにより疾病を知る上にさらに多くの資料が得られる。問診は[十問」が決められている。
・〔切診〕 切診は数千年にわたって歴代の医家による研究と発展を経て、臨床実践の中できわめて豊富な理論と経験を積重ねて来た。切診は脈診と按診に分けられ、病者の身体表面に触れ、摸、按圧を行いデータを獲得する。脈診は二十八脈に分類されている。
(『漢方診療ハンドブック』/荻田善一編=医歯薬出版㈱参照)

 もう少し詳しく言うと、たとえば、望診ではとくに舌診が重要とされているが、大まかに言って次の五色の舌色に分類される。
〔淡(白)〕 一般に貧血ぎみ。虚寒証に属す。
〔紅〕    一般に温熱証に属す。ほぼ正常とみられる。
〔えび茶〕  邪熱がきわまり、体の深部までおかしていることを示す。
〔紫〕    体内にお(やまいだれに於)血が蓄積していることを示す。(淡紫色は陰証を示す)
〔藍〕    病が重大であることを示す。

 この五つの舌色がさらに舌の部位(前後中左右)で臓腑と関連し、舌質と舌苔とも関係する。

 さらに、切診における二十八種類もの脈診を習得するには、おそらく数十年の実習経験が必要だろう。

 
 機器に頼らず、ひたすら自らの五感を研ぎ澄ませて、身体の情報を読み取るという技術はいまも中国の医療現場では生かされている。わが国でも、一部の漢方薬が保険適用になった現在、医学教育でもいわゆる「漢方」の実習があるそうだが、「五感を研ぎ澄ませる」ほどの教育がどの程度なされているのだろう。医療機器購入に要する莫大な費用を考えると、「伝統医学」をもっと重宝してもおかしくないと思うのは素人の浅知恵だろうか。