新・ヒット商品の発想&開発方法

ロングセラー商品やヒット商品のアイデア発想と開発方法を探り、未来のヒット商品を生み出す。

ヒット商品⑦~ローソン「バスチー・バスク風チーズケーキ」

2019年11月08日 | ヒット商品
コンビニスイーツ最大のヒット商品になったのが、2019年3月に発売されたローソン「バスチー・バスク風チーズケーキ」である。
発売5日で100万個を売り上げた2009年発売の「プレミアムロールケーキ」の記録を発売3日で突破、5日で182万個を売り上げる驚異のロケットスタートを切った。期間限定品のプレミアムタイプを含めたシリーズ累計は2450万個(9月15日現在)を超えた。
フランス、イタリア、オーストリア、ドイツなどスイーツ美食大国ではない、スペインのバスク地方のローカルチーズケーキが昨年夏頃から専門店で売られているのに着想を得て、コンビニ向けプチサイズに独自開発した。百花繚乱のスイーツ洋菓子の中からヒットの予感を得る”気づき”がもたらしたヒット商品であるとともに、成熟カテゴリーにおいて進化形チーズケーキとして昇華させた商品でもある。
表面が焼きプリンを彷彿させる焦がしキャラメルの「黒い、焦げたチーズケーキ?」に見える外観と「レアでもベイクドでもないチーズケーキ」の新食感を、意表を突く「パッケージ」「商品名」「ロゴ」で戦略的に仕上げた。
斬新で目を引く黄色のパッケージに、中央に「BASCHEE(バスチー)」と表記し、意図的にシズル感を抑えた。パッケージ全体のイメージと「(良い意味で)裏切られた美味しい食感」とのギャップが強烈なインパクトを与え、コンビニ発スイーツ最大のブレイク商品になった。
購入者の7割が女性で、コンビニ来店喚起に繋がったこと、本体価格199円(税込215円)という価格設定はコンビニスイーツ200円台到来を予感させたことなどコンビニスイーツの魅力をパティスリー級に高めた功績は大きい。

ヒット商品⑥~東洋水産「マルちゃん 正麺」

2012年12月10日 | ヒット商品
即席袋麺市場でおよそ40年間、不動の首位だった「サッポロ一番」(サンヨー食品)を抑え、今年首位に躍り出るのが生麺に近い食感を出した東洋水産「マルちゃん正麺」だ。
2011年11月の発売以来、当初見込みの2倍の2億食、200億円を売り上げる大ヒットとなった。
国内の即席袋麺市場は軽食や保存食として一定の市場はあるものの、89年にカップ麺に逆転された後は縮小が進み、今やカップ麺とは2倍以上の差となっている。「サッポロ一番」、「チキンラーメン」(日清食品)、「明星チャルメラ」(明星食品)などの超ロングセラー商品に加え、大手小売りのPB商品や中小メーカー商品などがひしめき、カップ麺とともに特売目玉商品として常に消耗戦を繰り広げている。
ヒットの主因は「これぞ正しい麺、理想のラーメンの完成形」という麺へのこだわりをシンプルかつ分かりやすく伝えたネーミング、5年の開発期間を要した「生麺うまいまま製法」(特許出願中)と名付けた生麺を彷彿とさせる食感の実現だ。割高の価格設定だが、「しょせん即席袋麺だから」という消費者の袋麺に持つネガティブイメージを見事に覆し、想像を上回る即席麺を実現したことだろう。特筆すべきはネーミングの秀逸さだ。麺へのこだわりが強いほどそのことを訴求するために華美なネーミングにしてしまいがちだ。「正麺」とあえて抑えた表現にしたことがより消費者の注目を惹いたと言っていい。
5年の開発期間を要したという麺は、切り出した生の麺をそのまま熱風乾燥した。通常の製造工程にある蒸し工程を省くことでより生麺に近い食感・風味を可能にした。さらに調理時や食べるときにも消費者視点の心憎い一工夫を加えている。鍋に入れやすいように丸い形にしたこと、乾燥する前に一度麺をほぐすことで茹でた時のほぐれ易さを向上し調理時の利便性向上を図ったことだ。加えて女性や子供、高齢者にも食べやすい長さ(25~30cm)に麺をカットすることでより麺の美味しさを実感できるように配慮した。
ともすれば不毛の商品開発になりかねない即席袋麺市場の中で、袋麺の理想形を追い求めた開発者の熱い思いを見事に結実させた商品である。

ヒット商品⑤~ヤマサ醤油「鮮度の一滴 特選しょうゆ」

2011年08月07日 | ヒット商品
伝統調味料である醤油を”鮮度”を切り口に開発したのが2009年8月発売のヤマサ醤油「鮮度の一滴 特選しょうゆ」(500ml)である。
醤油の主流形態である1LのPET容器は使い終わるまでに平均1.5カ月程かかる。その間、徐々に酸化が進み、香味は劣化、色は黒色に変色する。開栓後に冷蔵するこだわり派はまだごく少数だ。技術陣には「いかに出来立ての香味のまま届けられるか」という至上命題がある。経時的な劣化を最小限に止め、いかに美味しさを保ったまま提供できるかを原材料、包装容器、充填・製造方法、物流・保管等の全工程においてチェック・改善を常に行っていくのである。
同社は鮮度維持についての研究を発売の7年前より着手しており、5年前に現在の容器の原型に出会った。これまでの概念を覆す商品開発というのは多くの年月を要すもの。容器開発も然りで、「鮮度の一滴」も社内外の英知とパッションの結集が商品化に結び付いたことは想像に難くない。逆止弁の役割を果たす特殊な薄いフィルムを注ぎ口に採用することで容器内に空気を入り込むのを抑えた。また、袋を2重構造にすることで残量が少なくなっても自立できるよう設計した。「常にフレッシュなしょう油が常温保存で味わえる」画期的な商品が誕生したのだ。斬新なデザインに加え、同サイズのPET容器の約1/3の減量化と使用後に小さくたたんで廃棄できるという省エネ・エコ容器も好評価を得た。
Webサイトを中核にした極め細かいマーケティング戦略も奏功した。発売に先立ち開設したWebコミュニティーサイトやバイヤー・MDの要チェック番組であるWBS「トレたま」コーナーでの紹介など効果的なブランディングを行った。また、同社初の新商品発表会の開催やTV‐CMと幅広いマーケティング活動を展開したことで、発売後1年で300万本、7億円を売り上げるヒット商品となった。成熟・縮小市場、しかも量販店特売商材の醤油において新風を巻き込んだ革新型商品である。

ヒット商品④~キリンビバレッジ「午後の紅茶 エスプレッソティー」

2011年02月05日 | ヒット商品
「午後の紅茶」のプレミアム商品として2010年2月に発売されたのがキリンビバレッジ「午後の紅茶エスプレッソティー」である。
同シリーズは缶紅茶が主流だった1986年に1.5L容量のPETボトル「ストレートティー」で発売、以来4半世紀に渡り”午後ティー”の愛称で親しまれ、紅茶飲料において不動の地位を築いているロングセラーブランドだ。
PETボトルの製品化にあたっては、クリームダウン(紅茶の白濁)や澱の技術的問題をクリアアイスティー製法で解決、甘みを抑え茶葉本来の香味を大切にしたことで多くの支持を得た。以後、ミルクティーやレモンティーをラインナップしたが、ストレートティーが変わらぬ一番人気である。
とはいえ、あくまでも他の清涼飲料に比べると紅茶はニッチ市場。しかも他の茶系飲料のように健康志向は謳えない。バリエーションの手詰まり感にあえぐ中、08年9月に発売した「茶葉2倍ミルクティー」が割高にもかかわらずヒットした。同じ嗜好飲料のコーヒー飲料ではプレミアムタイプの190g缶やカップチルドがCVS等で活況だった。筆者もコーヒー・ココア・紅茶飲料の開発時、フレーバーティーなどに着手したが新機軸の商品アイデアはなかなか浮かばず苦労した。
同商品が秀逸なのは、コーヒーではごく当たり前ののエスプレッソ製法を茶葉に応用したことだ。開発者が陥るのが、歴史や伝統、産地や製法を学んでいくうちに俄か専門家になり発想の視野が狭まることだ。エスプレッソ製法は、良質なコーヒー豆でなくても高温・高圧の抽出方法により美味なコーヒーを抽出ことができるもので、「良質な茶葉を使えばエスプレッソ抽出など不要、よってこのアイデアは邪道」となりがちなのだ。
紅茶とエスプレッソ抽出のコラボが生む”味への期待やワクワク感”とTVCMの”茶葉の旨みがギューー、ミルクの旨みがジュワーー”といった強烈なインパクトと話題性が、新たなユーザーを缶紅茶に引き込んだ。加えてこれまでの缶コーヒーのヘビーユーザーも取り込んだことが大きく、当初の年間販売販売目標の100万c/sを2カ月半で達成、300万c/sに上方修正するヒット商品となった。自戒を込めて言うと、商品企画には”常に常識を捨てた柔軟な思考・発想が求められる”ということだ。

ヒット商品③~花王「ヘルシア緑茶」

2010年02月10日 | ヒット商品
2003年に特保表示許可「体脂肪が気になる方へ」を取得し、発売当初から大ヒットしたのが花王「ヘルシア緑茶」である。
化学メーカーだった同社が、石鹸という油脂化学の研究テーマの一つとして取り組んでいたのが脂肪(食用油脂)についてだった。その研究成果が製品となって結実したのが、90年に発売された食用油「エコナ」だ。そしてより幅広い消費者に健康機能価値を訴求できると参入したのが茶系飲料だった。
大手飲料メーカーがしのぎを削る超激戦市場である茶系飲料では、中途半端な商品、マーケティング戦略では到底太刀打ちできない。時あたかも「メタボ」に話題、関心が高まってきていた。そこでターゲットを健康に対する関心が高い30代以上の男性に定め、体脂肪低減効果の高い「茶カテキン」を含む飲料の開発に着手したのである。
350ml当たり高濃度茶カテキンが540mg含む茶系飲料という新しい切り口と、12週間継続飲用すると明らかな体脂肪低減効果を得られるという臨床データと特定保健用食品の認可が相まって、従来品に飽き足らない健康を気遣う若いサラリーマンの潜在欲求を満たしたのだ。
小型PET飲料は500ml・140円がボリュームゾーンの中、飲みきりサイズの350ml・180円というプレミアム価格に設定した。このプライシングもギリギリまで切り詰めた結果だろう。同年5月末に1都9県、CVS限定でスタート、想定以上の売り上げで瞬く間に茶系飲料で金額シェアトップとなった。
成長・激戦市場であっても、"新しい視点から市場を見て、潜在需要を掘り起こす"という商品開発の本質と、マーケティングミックスの4Pをしっかり捉えたことがヒットした原動力である。

ヒット商品②~コカ・コーラ「い・ろ・は・す」

2009年10月18日 | ヒット商品
2009年5月の発売以来、わずか4カ月で1億本という爆発的売り上げを記録したのがコカ・コーラ「い・ろ・は・す」である。
百花繚乱の天然水市場、しかも小型PET市場でブレイクできたのは、100万台の自販機を持つ同社だから成し得たのだが、従来の開発コンセプト・マーケティング戦略にない、斬新な切り口が多くの消費者の注目を集めた。
まず、採水地、「森、自然」といった天然イメージ、内容成分を強調したネーミングではなく、日本古来の「いろは歌」と「LOHAS(ロハス)」を掛け合わせたものにしたこと。見慣れないネーミングが"新鮮"かつ"何の意味だろう"という注目を喚起した。本来、小型PET飲料の購入動機に成り得ない、「ロハス」(継続性のある環境負荷の低い生活)への思いが消費者の潜在意識を掘り起こした。身近なところで手軽に「ロハス」を実践できることが共感を呼んだのだ。
そしてコンセプトをより強固にしたのが環境に配慮した包装資材の採用だ。国内最軽量12g(従来比40%軽量)を実現したのはもとより、ラベルシュリンクも簡単に剥がせる巻きラベルにするとともにラベル自体も小さくした。軽量化にともなう耐久性は、リブ(多角形のくびれ)を入れることでクリアした。またラベルデザインはシンプルかつ洗練されたものに仕上げており、表示面積の制限を見事に克服している。
「飲み終わったらクシャッとつぶせる」という斬新なPromotionも秀逸だ。これまでの小型PET天然水のユーザーに留まらず、小・中学生や女性にも幅広く支持を広げたのが大ヒットの要因。容量を20ml増量し値頃感を訴求しているのも見逃せない。

ヒット商品①~サントリー「伊右衛門」

2009年05月04日 | ヒット商品
清涼飲料市場で2000年以降最大のヒットを記録したのが04年3月発売の「伊右衛門」である。翌年には清涼飲料史上最速で1000億円を売り上げた。
これまで”宣伝のサントリー”と言われ、消費者の感性に訴えた商品開発と巧みな広告宣伝で話題を振りまき、ヒット商品を生み出してきた。品質よりも話題性を重視した商品開発がお家芸だったが、消費者が本質的な部分に価値を見出していることを重視、商品戦略の練り直しを図ってきた。その成果が「伊右衛門」「プレミアム・モルツ」の大ヒットに結びついたと言っていい。
日本の生活文化、日本人の心に深く根付いている緑茶の本質的な価値を探った。「緑茶飲料に求めているものは何か」を掘り下げていくと日本人の原風景に行き着く。寛政2年(1790年)創業の福寿園と交渉を重ね、両社の壁を一つ一つ乗り越え、ベクトルを合わせ最大のシナジーを発揮したのだ。「家業と事業」の隔たりを開発者の熱き想いが結びつけた。そして同じ目線(対等)で緑茶飲料の共同開発をしたことが大きい。
200種の茶葉から選び抜いたブレンド、非加熱無菌充填方式、福寿園創業者「伊右衛門」のネーミング、容器開発、デザイン、宣伝(CM)が高次元でリンクしたことが強烈なメーセージとなり、メガ・ヒットとなったのである。
商品コンセプトを練り上げたこと(本質を探る)、両社のノウハウと強みを具現化したこと(信頼・価値共有)、開発、宣伝・販促チームの思いを共有したこと(価値共有・組織化)が戦略として根付き、多くの共感を呼ぶ原動力となった。