新・ヒット商品の発想&開発方法

ロングセラー商品やヒット商品のアイデア発想と開発方法を探り、未来のヒット商品を生み出す。

ヒット商品⑤~ヤマサ醤油「鮮度の一滴 特選しょうゆ」

2011年08月07日 | ヒット商品
伝統調味料である醤油を”鮮度”を切り口に開発したのが2009年8月発売のヤマサ醤油「鮮度の一滴 特選しょうゆ」(500ml)である。
醤油の主流形態である1LのPET容器は使い終わるまでに平均1.5カ月程かかる。その間、徐々に酸化が進み、香味は劣化、色は黒色に変色する。開栓後に冷蔵するこだわり派はまだごく少数だ。技術陣には「いかに出来立ての香味のまま届けられるか」という至上命題がある。経時的な劣化を最小限に止め、いかに美味しさを保ったまま提供できるかを原材料、包装容器、充填・製造方法、物流・保管等の全工程においてチェック・改善を常に行っていくのである。
同社は鮮度維持についての研究を発売の7年前より着手しており、5年前に現在の容器の原型に出会った。これまでの概念を覆す商品開発というのは多くの年月を要すもの。容器開発も然りで、「鮮度の一滴」も社内外の英知とパッションの結集が商品化に結び付いたことは想像に難くない。逆止弁の役割を果たす特殊な薄いフィルムを注ぎ口に採用することで容器内に空気を入り込むのを抑えた。また、袋を2重構造にすることで残量が少なくなっても自立できるよう設計した。「常にフレッシュなしょう油が常温保存で味わえる」画期的な商品が誕生したのだ。斬新なデザインに加え、同サイズのPET容器の約1/3の減量化と使用後に小さくたたんで廃棄できるという省エネ・エコ容器も好評価を得た。
Webサイトを中核にした極め細かいマーケティング戦略も奏功した。発売に先立ち開設したWebコミュニティーサイトやバイヤー・MDの要チェック番組であるWBS「トレたま」コーナーでの紹介など効果的なブランディングを行った。また、同社初の新商品発表会の開催やTV‐CMと幅広いマーケティング活動を展開したことで、発売後1年で300万本、7億円を売り上げるヒット商品となった。成熟・縮小市場、しかも量販店特売商材の醤油において新風を巻き込んだ革新型商品である。