新・ヒット商品の発想&開発方法

ロングセラー商品やヒット商品のアイデア発想と開発方法を探り、未来のヒット商品を生み出す。

ロングセラー商品⑬~江崎グリコ「ポッキー」

2011年02月19日 | ロングセラー商品
昭和41年に発売された江崎グリコの看板商品「ポッキー」。35年発売のスティック菓子「プリッツ」にビターチョコレートをコーティングした姉妹商品である。
ヒットの主因は、チョコレートを手を汚さずに指でつまんで食べられる手軽さ、「プリッツ」の香ばしさ・食感とチョコレートを同時に楽しめる絶妙のバランスにある。誰もが食べたことがある国民的菓子の代表格だが、商品設計(味覚)の完成度の高さは他を圧倒する。”商品力”が、数多のミート商品を寄せ付けないばかりか、逆に同商品の美味しさを際立たせガリバー商品としての不動の地位を築いたのである。その後、ムース系などのヒット商品を派生していることがそのことを裏付けている。
「プリッツ」の香ばしいロースト感に負けないチョコレート感を醸し出すためにカカオを深焙焼し、「プリッツ」の香ばしさと食感を失わないチョコレートのコーティング技術が、”ポキッ、ポキッ”という心地良い音感と程良い食感を生みだした。まさに五感を訴求した商品である。付言すると、”甘さは旨み”といわれる中、甘さ控えめのビターチョコレートは、素材の良さ所以であり、より幅広い顧客層に支持されることに結び付いたのだ。
百花繚乱の菓子市場、洗練された商品も上市され嬉しい限りだが、少子化によるパイの食い合いなどネガティブ発想があるのも事実。菓子類に限らず、ロングセラー商品が示唆しているのは、”付加価値とはあれもこれもと価値を加える(足す)ことではない”ということだ。シンプルに、研ぎ澄ますこと。「ポッキー」はそのことを教えてくれている。

ヒット商品④~キリンビバレッジ「午後の紅茶 エスプレッソティー」

2011年02月05日 | ヒット商品
「午後の紅茶」のプレミアム商品として2010年2月に発売されたのがキリンビバレッジ「午後の紅茶エスプレッソティー」である。
同シリーズは缶紅茶が主流だった1986年に1.5L容量のPETボトル「ストレートティー」で発売、以来4半世紀に渡り”午後ティー”の愛称で親しまれ、紅茶飲料において不動の地位を築いているロングセラーブランドだ。
PETボトルの製品化にあたっては、クリームダウン(紅茶の白濁)や澱の技術的問題をクリアアイスティー製法で解決、甘みを抑え茶葉本来の香味を大切にしたことで多くの支持を得た。以後、ミルクティーやレモンティーをラインナップしたが、ストレートティーが変わらぬ一番人気である。
とはいえ、あくまでも他の清涼飲料に比べると紅茶はニッチ市場。しかも他の茶系飲料のように健康志向は謳えない。バリエーションの手詰まり感にあえぐ中、08年9月に発売した「茶葉2倍ミルクティー」が割高にもかかわらずヒットした。同じ嗜好飲料のコーヒー飲料ではプレミアムタイプの190g缶やカップチルドがCVS等で活況だった。筆者もコーヒー・ココア・紅茶飲料の開発時、フレーバーティーなどに着手したが新機軸の商品アイデアはなかなか浮かばず苦労した。
同商品が秀逸なのは、コーヒーではごく当たり前ののエスプレッソ製法を茶葉に応用したことだ。開発者が陥るのが、歴史や伝統、産地や製法を学んでいくうちに俄か専門家になり発想の視野が狭まることだ。エスプレッソ製法は、良質なコーヒー豆でなくても高温・高圧の抽出方法により美味なコーヒーを抽出ことができるもので、「良質な茶葉を使えばエスプレッソ抽出など不要、よってこのアイデアは邪道」となりがちなのだ。
紅茶とエスプレッソ抽出のコラボが生む”味への期待やワクワク感”とTVCMの”茶葉の旨みがギューー、ミルクの旨みがジュワーー”といった強烈なインパクトと話題性が、新たなユーザーを缶紅茶に引き込んだ。加えてこれまでの缶コーヒーのヘビーユーザーも取り込んだことが大きく、当初の年間販売販売目標の100万c/sを2カ月半で達成、300万c/sに上方修正するヒット商品となった。自戒を込めて言うと、商品企画には”常に常識を捨てた柔軟な思考・発想が求められる”ということだ。