昨日の昼過ぎ、2匹の飼い犬たちが店の横でしきりに吠えだした。
何かと思って飛び出してみると、蘭の鉢を並べた壁際で何かを見つけたようだ。
2匹を制して上から覗いてみると、なんと胴回り5センチほどの蛇である。
そばにあった薪を手に取り、ラーに声をかけた。
ふたりで警戒しながら鉢を動かしたり、蘭を根付かせている丸太を叩いたりしてみたが、すでに姿は見えない。
壁際奥のゴミ置き場に逃げ込んだか?
プラスチック容器や空き瓶を入れた飼料袋を、そっと動かす。
いた。
やばい。
上体を立ててはいないが、鎌首のまわりが大きく広がっている。
コブラ?
右手首を曲げてコブラの真似をして見せると、ラーがクッティアオを食べていた知り合いの客を大声で呼んだ。
彼が、シャッターを開ける金属の棒をつかんで走ってきた。
私が、飼料袋をそっと動かす。
すかさず、一撃。
瓶が割れた。
二撃、三撃。
そして、金属の棒を上から鎌首に突き立ててとどめを刺す。
「もう死んだよ」
体長1メートルほどの蛇を、平然と引っ張りだした。
広げていた鎌首はぺしゃんこ、膨らんでいた胴体もしぼんだように細くなっている。
ふと気がつくと、ラーの大声に近所の人たちが集まって遠巻きにして眺めている。
まだひくついている遺骸を、火ばさみにはさんで裏庭の向こうの崖下に放り投げた。
やれやれ。
とんだ捕り物だった。
「あれはまだ子供だね。崖下の草むらには、親蛇がいるかもしれない。気をつけないといけないよ」
ラーが、警戒するような目で崖下を指差す。
崖の上には小さな祭壇があり、生ゴミ用の穴も掘ってある。
電波の具合が悪いときは、私も祭壇の近くでネットをつなぐ。
数ヶ月前には、さほどの猛毒ではないが下手をすると手足の切断にもつながりかねないという細い毒蛇が這い出してきたので、とっさに火ばさみで頭を切断したこともあった。
店先の調理場に、巨大なムカデが入り込んできたこともある(村の衆はこれを焼酎に浸して強精剤にする)。
サソリは、まだ見たことがないが、バナナ園の土中には黒い毒蜘蛛も棲んでいる。
まあ、これも村の暮らしなのだが、こんなことを書くと誰もオムコイにやって来なくなるかもしれないなあ。
*
さて、夕方になると今度は仔豚の受け取りである。
「さて、行くか」
「クンター、ちょっと待って。次男のイエッを、いま呼んでくるから」
「なんで?」
「あの子、“豚年生まれ”だから最初に彼に触らせるの。そうすれば、豚が大きく育つから」
ん?
干支に“豚”なんて、あったっけ?
まあ、いいや。
ちなみにラーは鶏年生まれで、彼女が何か話しかけながらそっと手を伸ばすと鶏はほとんど暴れないで、手のうちに収まる。
“鶏語”が、話せるらしい。
*
ジョーも一緒にやってきて、隣家の豚舎に向かった。
まずは、品定めから。
思ったよりも、ずっと小さい。
体長は50センチくらいあるのだが、どうも頼りない。
ラーとジョーがあれこれ品評しているが、こんなに小さいと私にはよく分からない。
イエッが豚舎に入って、楽々と2頭を捕まえた。
さすが、豚年。彼も、“豚語”が話せるのだろうか。
「クンター、2頭とも雄だけどそれでいい?」
「だと、赤ん坊が生まれないじゃないか」
「でもねえ、生まれたばかりの赤ちゃんは夜も寝ないで世話しなくちゃならないんだよ。クンター、豚の赤ちゃんの世話できる?」
「・・・できない。雄だけでいこう」
暴れる2頭を袋に詰め込んで、家の裏庭に作った豚舎に運んだ。
新居に放たれた仔豚は、戸惑ったように走り回り、それからしっぽを丸めて隅っこで固まった。
最初の餌と水を与えるのも、イエッの仕事である。
こうして、引っ越しの儀式は終わった。
*
それにしても、小さい。
「ラー、この大きさで1頭1,000バーツは高いんじゃないか?」
「そうだねえ。でも、この飼料もひと袋650バーツだったでしょ。2年前は500バーツだったんだから、すべてが値上がりしてるんだよ。まあ、この仔豚たちは家族と一緒なんだから、ずっと長く飼って大きく育てようよ。そうすれば、いざというときに高く売れるから」
・・・家族かあ。
嫁1人。息子3人。犬2匹。鶏11羽(1羽は現在抱卵中)。牛12頭(7頭が妊娠中)。仔豚2頭。
総勢30名(匹、羽、頭)を超える大家族である。
犬と鶏は、すでにわが家の米の半分を消費するようになった。
今度は、これに豚の飼料代が加わる。
牛は放牧なので餌代はかからないが、今回のように怪我や病気があると薬代もかさむ。
やれやれ。
父ちゃんの肩の荷はずっしりと重い。
だが、犬たちは孤独な父ちゃんの遊び相手だし、ときにはコブラも発見してくれるからなあ。
鶏は新鮮な卵や「鶏鍋」を提供してくれるから、これも欠かせない。
牛や豚を眺めていると、時にざらつく心がホンワカと癒されるし、これらはいざという時のための保険代わりであり、年金代わりでもあるのだ。
となると、父ちゃんはさらに腕を磨き、わが麺屋の名声をオムコイ中の若い娘ばかりか、若い人妻、年増、さらにおばばたち、ついでに男衆の間にも轟かせなければならない、という使命感に燃えるのであった。
莫迦だねえ。
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干支の猪は日本だけみたいですよ。
で、シンガポールでは象らしいです。
ドイステープにシンガポールから送られた大きな釣鐘が有るんですが、そこに描かれた干支の絵の12番目は象でした。
今度機会が有れば見てください。
コメント3連発、ありがとうございました。
タイには、「豚年」があったんですねえ。ドイステープの釣り鐘は、いつも叩くだけで、干支の「象」にはまったく気づきませんでした。次の機会に、チェックしてみます。
今日の関東は暑いです。
子供の頃はよく近くの川に青大将やシマヘビを捕まえに行って闘わせたりしていました。尻尾掴んでぐるぐる廻したりとか...。が、今はもう免疫も無くなり触る事すら出来ません。(^.^;)なかでも超が付く程苦手なのがムカデです。巨大ムカデとは果たしてどれくらいの巨大さなのでしょう?そんなの目の当たりにしたら多分肝抜けますね...僕。(T.T)
ちなみに僕もタイ人達に言わせれば豚年らしいです。猪は山の豚らしいのですが少し抵抗がありますね...。
ムカデは巨大に見えましたが、殺したら縮んでビール瓶に入ったから、まあたいして大きくはなかったのでしょう。
なかちゃんも、豚年ですか。村においでのときは、ぜひ豚の世話係をお願いしたいものです。