「いやあ、びっくりしました!」
バスを降りた釜野さんの第一声である。
当ブログを読んで、そこそこのオンボロバスというのは知っていた。
宿の案内で、所要時間もチェックした。
しかし、こんなに本当のオンボロバスで、しかもこんなに遠い山奥まで来てしまったことが、やはり驚きだというのである。
いえいえ、釜野さん。
私は決してオンボロバスなんぞとは書いていません。
「超豪華VIPオンボロバス」と書いているはずです。
ん?
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まずは、朝8時20分発のオムコイ行きバスに乗れるかどうかがひとつの賭けだった。
バンコク発エアアジアのチェンマイ到着時間が7時50分だったのである。
定刻に着いたとしても、タクシーを拾うのは8時過ぎになるだろう。
事前に何度かメールのやりとりをして、結局、友人のウイワットに空港ピックアップを依頼することになった。
空港を出たのは8時10分。
本当にギリギリだったのだが、バスの発車が少し遅れたことで、無事(?)冒頭の第一声につながったという次第だ。
もっとも、中間地点のホートで休憩した際、バスの運転手に案内されたトイレは道端の草っ原だったそうだが。
ナッケー!(カレン語で困ったもんだ)
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大阪で営業の仕事をしており、週末も会社に出るほどの忙しさなのだという。
7年前ほどに、ふとリフレッシュのためのひとり旅を思いついた。
奥さんや家族が心配して反対したものの、とりあえずは無難なタイへの旅を敢行。
それから病み付きになり、以降は毎年休暇をやり繰りして東南アジア各地を歩くようになった。
数年前に当ブログと出会い、拙著『「遺された者こそ喰らえ」とトォン師は言った』(晶文社)も読んで、今回北タイ初訪問の皮切りとしてオムコイを選んでくれたのだった。
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ひと休みのあとで、川向こうの展望台に案内した。
汗ばむほどの快晴だが、吹き抜ける風は冷涼である。
そして、頭上近くに浮かぶ白い雲。
「日本の秋、昔の日本の農村風景といった感じですねえ」
ちなみに、普段は地下鉄でビジネス街に通っているため自然に触れる機会はまったくないそうだ。
晩飯は、ラーが稲刈りの合間に掘ってきたクワイもどき(関西のエビ芋に似ているそうな)と豚肉の薬草・香草スープ。
釜野さん、ビールと村の焼酎をチビチビやりながらほろ酔いの気配。
このところ凄みを増してきた満天の星空に、嘆声しきりである。
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翌日は日曜日。
恒例の日曜礼拝を見たいということで、教会に案内して神父に紹介したあとひとり居残ってもらった。
昼前に戻ってくると、「せっかくだから町まで歩いてみたい」という。
夕方になって、棚田を突っ切って竹橋を渡るミニ・トレックに案内した。
残念ながら、周辺の収穫はすっかり終わって稲刈りや脱穀の様子は見ることができなかった。
日本では仕事に追われている様子なのだが、思いの他の健脚で暑さにも強い。
訊けば、マラソンをやっているのだという。
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晩飯は、プラーニン・スープ。
日本にゆかりの深い魚名について説明していると、ラーの同級生スジャーがやってきて一緒に食卓を囲み、魚の骨を取ってあげるなどしきりに世話を焼いている。
「皆さん、本当に親切なんですねえ」
「うーん、世話好きではありますねえ。特に酔っ払うと世話の焼き過ぎでうるさい面もありますが(笑)」
「でも、大阪あたりでは近所付き合いも減ってきて、祭りなどの集まりを面倒がる若い人も増えています。こうして近所の人が集まってワイワイやるなんて、子供の頃みたいでなんだか懐かしいですよ」
今夜も満天の星。
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2泊はあっという間だ。
翌朝8時前に、町のバス停まで送った。
チェンマイに2泊ほどしてチケットの手配などを行い、次はチェンライ、そしてゴールデン・トライアングルを目指すのだという。
「機会があったら、また」
バスを見送ったあとも、柔らかいゆったりした大阪弁が耳に残った。
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