ワールドカップ日本代表は、ベスト16まで勝ち抜いてその戦いを終えたようだ。
だが、団体競技にさして興味のない私にとってはむしろ、「総合格闘家のエメリエンコ・ヒョードルが三角締めで一本負けを喫した」というニュースの方がよほど衝撃的だった。
格闘技に興味のない読者にとっては、「何、それ?」の話題に違いない。
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ヒョードルは、サンボをベースにしたロシアの総合格闘家である。
日本では、前田日明が主宰する『RINGS』でデビューし、その後今は消滅した『PRIDE』という格闘技イベント団体に移籍。
そのアグレッシブかつ冷酷な打撃とサンボで培った高度な寝技で国内外の有力格闘家をなぎ倒し、“氷の拳”という称号のもと総合格闘技界に君臨した。
まだ真剣勝負に挑んでいた頃の柔道金メダリスト・小川直也を、鮮やかな腕ひしぎ十字固めで子供扱いしたシーンは、未だに目に焼き付いて離れない。
フジテレビの撤退と同時に『PRIDE』が消滅してからは、日本のリングから離れ、故国でサンボを中心とした競技活動を行っていたようだが、最近、アメリカの格闘技イベント『ストライクフォース』に参戦。
相変わらずの強さを見せつけたばかりだったので、数日前にネットニュースで読んだ「一本負け」の文字には、思わず目を疑った。
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しかも、相手の決め技は彼が知り尽くしているはずの三角締めである。
試合経過を読むと、パンチで腰をおとした相手に覆いかぶさるように攻め込んでいったというから、これは彼のいつもの勝ちパターンなのであるが、その一瞬の隙に腕をとられ首筋に脚を絡められてしまったのだろう。
まあ、相手もブラジリアン柔術の猛者でアブダビコンバット(寝技世界一を決める大会といわれる)の優勝経験もあるというから、相当の強豪には違いない。
パンチを受けて倒れながらも、あのヒョードルの猛攻をすり抜けて冷静に下からの技を決めたというのだから、大したものだ。
ここは、相手の強さを素直に誉めたたえるべきだろう。
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それにしても、プロデビューのときからその強さに瞠目し、頂点を極める姿を見守ってきた選手が、敗北を喫する姿を見るのは辛いものだ。
勝負の世界には必ず勝ち負けがあり、いかに“最強”を謳われた者でも、いつかは肉体の衰えが訪れる。
ボクシングの世界でいえば、かつての具志堅用高の落日は目を覆いたくなるほどのものだったし、マイク・タイソンのノックアウト負けなど夢想だにしなかったものだ。
だからこそ、人は“最強”の称号に永遠に憧れるのかもしれない。
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うーん、今日は久しぶりに、格闘技オタクの姿を衆目に晒してしまった。
かつての柔道少年だった私が格闘技にふれたのは、もう4年ほどまえ、ニューヨーク滞在中にブラジリアン柔術道場に一日入門したのが最後である。
そのときは、準備運動だけでふらふらになったものだが、柔道とは異なる実践的な関節技や絞め技に接した驚きは実に新鮮だった。
相手になったあんこ型白人少年の怪力には手を焼いたけれど、背後に回ってその太い首にするりと決めた裸絞めでのタップは、実に快感だった。
それ以降は、もっぱらラーとの「ムエタイvsジュードー異種格闘技戦」に専念しているわけだが、いまの私の格闘能力は、果たしていかなる程度のものなのであろうか。
ロイクラトーン(灯籠流し)の村別対抗ムエタイ合戦の折り、「ムエタイvsジュードー」の異種格闘技スペシャルマッチでも村長に持ちかければ、一も二もなく賛成してくれそうだが、寝技に引き込んでもぞもぞしているとガトゥーイ(おかまちゃん)に間違えられそうだしなあ・・・。
そこでもっぱら、飼い犬の雄太を相手に三角締めの研究にいそしむ日々なのだが、こいつ、すぐに尻尾を振りながら腹を見せてギブアップしてしまうので、いまひとつ張り合いがない。
適当な相手はやはり、軍隊式の制御術を身につけたラーくらいなのだが、こちらはすぐムキになってルール違反の肘打ちや金的への膝蹴りを繰り出してくるから、危なくて仕方がない。
同級のKくんよ、警察道場の畳の上でお互いの必殺技“牛殺し”と“熊殺し”を掛け合った昔が、懐かしくてたまらんよ。
*写真は、私に三角締めを決められて肩を落とす雄太。
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往年の話になりますが九州出身 木村政彦氏 最終 拓殖大学柔道部 顧問が力道山とのプロレス勝負をTV中継で見ました
幼少の頃です
その後 縁ありまして柔道着のお世話になりました
この力道山対木村政彦対決が総合格闘技の日本における引き金となったのではないか?と推察しております
しかし・・今だあの対決には疑惑<ショーとして>が頭の片隅に残っております
貴兄も柔道経験者ー総合格闘技理解者と拝察致しますがお時間許されればコメント頂ければ幸甚で御座います
大西 拝
懐かしい内容のコメント、ありがとうございます。
私にとっても「姿三四郎」と「力道山」が格闘に目覚めた原点でした。対木村政彦戦は古いビデオで観ましたが、どうにも不思議な幕切れでしたね。
あくまでプロレスのリングでのことですから何とも言いようがありませんが、純然たる柔道家は打撃に対応できないということは、残念ながら『PRIDE』などで実証されたようです。
以下は、わが故郷熊本で木村政彦氏主催のプロレス興行に関わった古老から聞いた話ですが、試合を終えた選手たちが井戸端で汗を流しつつ「木村さんは本気で殴るから困る」と愚痴っていたそうです(笑)。
なんだか、“鬼の木村”らしいエピソードですね。