昨日のことだが、日本の姉からこんなメールが届いた。
「コムローイが、とてもきれいでした。ニュースでやっていましたよ」
おそらく、チェンマイでの映像だろうが、ローイクラトン(灯籠流し)におけるコムローイ(熱気球式紙風船)揚げも有名になったものである。
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さて、ローイクラトンの時期になっても、わが村は実に静かだった。
例年だと、1週間前から子供たちが鳴らす爆竹の音も聞こえず、玄関口を照らす手作りたいまつ(栄養飲料水の空き瓶にガソリンを入れて燃やす)や紙灯籠などの飾り物も見えない。
そういえば、女将のラーが「ローイ、ローイ、ローイクラトン♪」と歌いながら行うお灯し(庭の垣根の上にずらりと土器のロウソクを灯し並べる)も、今年は中止になった。
町では、国王追悼も兼ねた式典が開かれ、川には灯籠流し用の桟橋も用意されたそうだが、賑やかなコンサートや「村別対抗ムエタイ合戦」、「村別対抗美少女コンテスト」なども中止されて、町に出る人も少ないようだ。
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晩飯を終えてくつろいでいると、西の空に煌煌と輝く満月が姿を見せた。
いわゆる地球にもっとも近づいたスーパー満月だが、村で見える満月はいつもでっかいので、さほど大きいようには見えない(オンボロカメラでは、これが精一杯)。
だが、テレビでしきりに「でかい、でかい」と騒いでいるせいか、女将も「今まで見たこともないくらいにでかい、でかい」と騒いでいる。
この月明かりを楽しみながら、家のすぐそばにある川にクラトン(灯籠)を流しに行くことにした。
バナナの幹を切ってバナナの葉で包み込み、同じくバナナの葉で折った王冠のような飾りを施した手作り灯籠である。
花は、マリーゴールドなど庭に咲いた花々だ。
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足元が悪いので、女将は足首までの巻きスカートをたくしあげ、ふくらはぎも露に大股で歩いて行く。
こらこら、水の霊に感謝を捧げ、一年の穢れや迷いを洗い流すために祈る厳粛な行事だというのに、もちっとおしとやかにできんのかい!
雨季は終わったとはいえ、川幅の狭い村の川の流れは早い。
橋下の淀みがある川原に降りて、灯籠に挿したロウソクと線香に火を灯す。
それを両手に捧げ持った女将は、長々とお祈りの言葉を述べている。
今年は、大好きだった国王への哀悼が大半を占めているようだ。
だが、不信心な番頭さんには、さして祈ることもない。
「まあ、なんとか、よろしく」
そんな意味不明な言葉を呟いて、灯籠をそっと流れに乗せた。
女将は、灯籠が何かにひっかかったり、転覆したりせずに、見えなくなるまで流れに乗って行けば、祈りや願いが叶うと信じている。
岸辺からは木の枝や竹が倒れ込んでおり、なかなかスリリングだ。
時おりロウソクの灯りが見えなくなったり、動きが滞ったりすると、「あ、あっ」などと声をあげる。
幸いにも、彼女が祈りを込めた灯籠は転覆することもなく、ゆるやかに下流へと消えていった。
そうでなければ、彼女のことだ。
さらに巻きスカートをたくしあげて川に入り込み、灯籠を回収してもう一度やり直したことだろう。
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岐路にも、でっかい満月が煌煌と夜道を照らしている。
ま、とにかく、今年のローイクラトンは無事に済んだ。
町では、ささやかにもコムローイが満月に向けて昇っていることだろう。
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いつも楽しく拝見させてもらっています。
私はメイジョウに暮らし始め3年目になりますが、今年のイーペン祭は、自粛のため例年の半分もコムローイは、上ってなかったです。花火もなく静かな昔のロイカトーンに戻った感じでした。
興味を持って拝見してますが、そちら方面に行く機会がなかなかないです。
初めまして。そちらも静かな祭りだったようですね。