午後8時、国境の町ノーンカーイは激しい雨である。
メコン川に浮いた水上レストランで晩飯を食ったあとは特にやることもないので、ネットでもつなごうと窓辺に寄ると、飾り窓の外に巨大なトカゲ状の影が浮かび上がってギョッとした。
おー、これはトッケーではないか。
これまで、チェンマイの定宿などでしきりにその鳴き声は耳にしていたのだけれど、声はすれども姿は見えず。
その独特の風貌は写真でしか見たことがなかったのだが、ついに実物と遭遇する僥倖に恵まれた。
とりあえず、ガラスの内側からの写真は撮ったものの、外は激しい雨だ。
うーん、どうしよう。
でも、こうしたチャンスはなかなか訪れるものではない。
意を決して庭に飛び出し、その愛らしい姿を写真に収めた。
*
今朝は、6時に起きだして宿の屋上から工事中のメコン川をぼんやりと眺めていた。
すると、ラーが「ラオスの王様の家に行きたい」と言い出した。
仲良くなった屋台の人たちに勧められたらしい。
「ラオスの王宮?人民民主共和国のラオスに王様なんていないぞ」
そう言いかけて、ふと思い出した。
ガイドブックに“ラオスのホワイトハウス”なんて書かれている白亜の迎賓館が、確か王宮跡であったことを思い出したのだ。
宿からぷらぷら歩いて、川沿いに建つ迎賓館に向かった。
すると、ラーが警備員に「中に入ってもいいか?」と尋ねている。
「おいおい、ここは世界中からやってくるVIPしか入れないんだぞ」
「あたしだって、チェンマイからVIPバスに乗ってやってきたカレン族のVIPなんだよ」
思わず、張り扇を探したが、見つかったのは昨日の強風で千切れ飛んだ木の枝だけだ。
その後、ワット・ホー・パケオに参拝に行ったら、お堂の扉が固く閉ざされている。
いつも本堂が開かれているタイのお寺と違って、ラオスでは気軽に仏像と対面できないのが不便かつ残念である。
*
やむなく、お寺の裏側の細道に出ると、道沿いに麺屋を見つけた。
鶏を丸ごとぶちこんだ大鍋のスープが、食欲をそそる。
鶏のスープにはタイのセンミーに似た麺が泳いでおり、これに中国風のラー油味噌を溶かし込み、別添えのもやしを載せて食す。
麺の方はいまひとつだが、スープと鶏肉はなかなかいける。
一気にすすり終わると、ラーが顔をしかめて箸を止めた。
「これはあたしのクッティアオとは全然違う。まずくて、吐きそうだ」
「あのなあ、食べ物の違いを味わうのも旅の楽しみのひとつなんだぞ」
「でも、これはひどすぎるよ」
勘定をすると、例によって数千キップという単位である。
「タイバーツなら、一杯40バーツです」
「それは、ひどすぎる」
今度は、こっちの頭に血がのぼった。
*
ラーがフランスパンのサンドイッチで口直しをする間に、チェンマイ行きの直行バスチケットの情報集めに走った。
宿で聞くと、ミニバン(マイクロバス)で1,250バーツ、VIPで1,450バーツだという。
そんなバカな!
チェンマイ~ウドンターニーは、600バーツだったのに。
しかし、いくつかのチケット会社を当たっても1,250バーツのVIPが最安値だった。
しかも、これらは午後3時にビエンチャンを出発する。
ヴィザの給付は午後1時からで、何時に受領できるかはまったく分からない。
うーん、これなら自分で足を見つけてタイに入ったあとノーンカイに一泊して、ウドンターニーから夜行のVIPバスに乗った方がよさそうだ。
今にも雨が降りそうな気配なので、11時過ぎにタイ領事館へ向かった。
領事館の中で雨宿りができるだろうと思ったからだが、通用門は固く閉ざされており、「1時まで外で待て」という。
相変わらず、不親切な対応である。
やむなく、トゥクトゥク運転手と一緒に昼飯を食べながら時間をつぶした。
「メコン川の川原が工事中であいにくだったね。でも、工事はあと4ヶ月くらいで終わるそうだから、そのときにまたビエンチャンに来てください」
「でも、ビエンチャンはトゥクトゥク代や物価が高いからなあ」
「それは、ガソリンをタイから輸入しているから仕方ないんですよ。タイバーツでいうとリッター38バーツもするんですから」
なるほど、こういうことは町の人たちと話してみないとなかなか分からないものだ。
*
1時前に領事館に戻ると、門前に短い行列ができている。
これなら、早く済みそうだ。
列に並ぶと、パタヤに済んでいるという30代半ばの日本人に声をかけられた。
「実は昨夜酔っぱらって財布をなくして、200バーツしかないんです。財布にはヴィザの受領証も入っていたんですけど、国境まで200バーツで行けるでしょうか?」
「そんな事情ならわれわれがチャーターしたトゥクトゥクに同乗してもらってもいいけど、受領書なしでヴィザをくれるかな」
「さあ、ヴィザは昨日のうちに貼付けてあると思うんだけど、パスポートを渡してくれるかどうかが問題ですね」
なんだか、淡々としている。
「パスポートが返してもらえたとして、国境からの帰りはどうするの?」
「それはパタヤの妻に電話して、チケット代をノーンカーイのバス停まで送ってもらったから大丈夫なんですが」
どうなることかと思っていたら、彼は覚えていた昨日の受付番号を告げることで難なくパスポートを手にし、私もわずか10分の待ち時間でヴィザを取得することができた。
彼をトゥクトゥクに誘って、一路国境へ。
ノーンカーイ側に出て、彼と別れた。
声をかけてきた白タクに乗り込み、100バーツでメコン川沿いのゲストハウスまで。
宿で聞いたVIPバスの予約番号がつながらないので、散歩がてらにバス停まで歩いて新しい電話番号をもらい、明夜8時発の座席を確保した。
やれやれ、これでひと安心だ。
対岸のラオスの風景を眺めながら川沿いの遊歩道を歩き、途中で見つけた仏像にお参りがてらおみくじを引き(ふたりとも大吉なり)、宿が経営する水上レストランでビールで乾杯。
と思いきや、注文したビアシン(獅子印ビール)の大瓶が品切れで、「5分待ってくれ」ときた。
おまけに、ソムタム(パパイヤサラダ)はラーが切れそうになるほどまずいわ、「メコン川で捕れた魚の醤油煮付け」は甘ったるいわ、こちらまでぶち切れそうになった。
ああ、ビエンチャンの屋台とビアラオが恋しいよお。
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お久しぶりです。
先月、おやじもビエンチャンにビザ取りに行ってきましたが、何か懐かしく写真を見ていました。
確かに、ラオスはタイと比べると乗り物は少ない上に高く、愛想の良い運転手も少ないように感じています。
以前、チェンライに住んでいる時に、やはりバスでビザ取りに来ましたが、ノンカイまでのバスは無く、ウドンタニで乗り換えでした。
バンコクでしたら、ノンカイ行きがあるのに、地方から地方に向かうのは、タイでは面倒ですね。
取りとめの無い話になりましたが、気を付けて、オムコイまでお帰りください。
バンコクも、だいぶ落ち着いてきたようですね。
確かに、オムコイからノーンカーイに行くだけでも大移動になります。今日はランパーンへ食器の買い出し、明日はイミグレでの手続きを済ませてから、オムコイに戻る予定です。