麺屋の客足が落ちているのは、私のせいらしい。
確かに、私がオムコイに腰を落ち着けた先週の初めから、どうも客の入りが悪い。
「クンターがチェンマイやオムコイに行っているときは、忙しくて仕方がなかった。ところが、クンターが戻って来たら、途端に暇になった。これは、お客さんがクンターを怖がっているからに違いない」
これが、ラーの言い分である。
そして、ラーの友人ネットワークからは「確かに、クンターが店に居ると騒ぎにくい」という証言も浮かび上がってきた。
*
騒ぎにくい?
ここは麺屋であって、飲み屋ではないぞ。
よくよく訊いてみると、私がいないときには焼酎を持ち込んでクッティアオやカオラオをつまみに飲む人もいて、それで店が賑やかだった。
そして、その人たちが他の客も呼び込んで、店が繁盛したということらしい。
「だからね、クンターにはもっと愛想よくしてもらいたいの」
愛想よく?
お客には必ずにっこり微笑んでいるし、種々のサービスにも相これ務めているつもりだ。
それ以上に愛想良くということは、祭り法被でも着て、
「らっしゃい、らっしゃい!」
日本式に、呼び込みでもしろということなのだろうか。
*
ふと思い当たったのは、店にいるときの私は基本的に奥の椅子に座って、モノを書いたり、本を読んだりしているということだ。
まさか、その間もニコニコ微笑むわけにはいかないから、傍から見るとおそらくしかつめらしい顔をしているのだろう。
小部屋のドアを衝立て代わりに開いて、できるだけ客の目には触れないようにしているのだけれど、たいていの村人は本など読まないから、なんとなく入りにくいような雰囲気に感じられるのかもしれない。
それに、カレン族の衆は基本的にシャイで目をそらす人が多いのだが、私は日本人の習性で、ついつい目や顔をしっかり見つめてしまう。
ラーに言わせれば、「それが怒っているように見える」ということになる。
*
さて、どうしたものかと思い悩んでいると、晩飯どきになってラーや従兄が、「姪の結婚相手になるような日本人はいないか」と言い出した。
この姪は17歳で、チェンマイの郊外にある学校で寄宿舎生活をしているのだが、最近、カレン族のボーイフレンドができ、学校を辞めて結婚したがっているのだそうな。
しかし、相手もまだ若く、経済的な基盤もないので親戚一同、大反対なのだという(彼女の両親は共に亡くなっている)。
「だけど、なんで日本人なんだ?昼間は、愛想のない日本人の俺のせいで客が減ったなんて騒いでたくせに」
「それとこれとは話が違うの。日本人はカレン族よりずっとお金持ちだし、みんな真面目で働き者でしょ。若いカレン族の結婚は、お金の問題やら、浮気の問題やらで、とても不幸な結果に終わることが多いの。姪っ子には、そんな辛い思いをさせたくないんだよ」
「日本人が、すべて真面目で働き者で金持ちなわけじゃないよ。現に、俺なんかピーピーしてるだろ」
*
そこで、従兄が口を開いた。
「クンター、問題はお金じゃなくて心なんです。クンターは、柱の倒れそうな古い家にも平気で住んでくれたし、ラーの息子や母親の面倒も見てくれている。だから、姪っ子も日本人と結婚したら幸せになるんじゃないかと思って」
うーん、そう言ってもらえるのはありがたいが、私のような変わり者を平均的な日本人像だと思われても困る。
それに、彼らの頭の中では、日本という国がこの村と同じくらいのスケールで思い描かれているのではあるまいか。
そうでなければ、かくも気易く「姪っ子に釣り合うような日本人を見つけてくれ」という相談はできないはずだ。
第一、彼らの話からは姪っ子の恋愛感情に対する配慮がすっかり抜け落ちているし、相手のことをもっと良く知ろうという姿勢も見られない。
「ともかく、もっと本人たちの話をよく聞いて、それからじっくり考えた方がいいのではあるまいか」
困り果てた私は、そんな模範生のような答えをもぐもぐと呟いて、「さて、晩飯だ」と腰をあげた。
*写真は、今朝いきなり始まった道路継ぎ目の補修工事。店前の道は、完全に封鎖されてしまった。これじゃあ、ますます客が入らんぞお。
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日本は暑いです~
さて、晩飯だ。
妻子持ちにそんないい話はないけど、クンターのいうようにいろんな日本人もいるから。若くて金持ちの日本人なんかタイにはあまりいませんね
ご無沙汰しております。お店の方が凄まじいくらいにドタバタしてて(お客様がドッと押し寄せてきた訳ではありません)バタバタしておりました。
う~ん、この姪っ子ちゃん問題、日本人目線から見れば決して日本人が良いとも思えないのですがね...。いっそのことこの姪っ子ちゃんの彼氏をクンターさんの元で修行でもさせた方が手っ取り早い気がします。
まぁ、それでも駄目なら『しょうがない』ので勤勉な日本人代表として僕が重い腰を上げさせて頂きましょう。いつでもお呼び下さいまし。
いつも、ご声援ありがとうございます。
それにしても、プーノイのおっぱい事件といい、ギター弾きのことといい、こちらがびっくりするくらいによく憶えていらっしゃいますねえ(笑)。
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uraさん
嫁のラーなどは、「ブログで姪の写真を公開してお婿さんを募集したらどうか」などと言っておりますが・・・。困った叔母さんです。
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なかちゃん
また、「日泰戦争」勃発でしょうか?
なかちゃんの“重い?”腰を煩わすことのないよう、なんとかせねばなりませんが・・・。
ヘビィーユーザーですから。