翌日の朝食は、北タイ風卵焼き。
オムコイ特産の大唐辛子、薬草、玉ねぎ、ニンジン、長豆などを包み込んだ野菜オムレツといった趣だ。
これを一緒に添えた長豆、丸茄子、キュウリなどと共にナムプリックガピッ(カニ味噌唐辛子タレ)につけて食す。
これまた美嶺さんの口に合ったようで、「おいしい、おいしい」とご飯のお代わりまでしてくれた。
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折りから日曜日。10時頃になって、教会の礼拝に案内した。
この時間、カレン服で盛装した村人や村外の人々が続々と集まって、まるで民族服ファッションショーのような趣を呈するのだ。
教会の入り口では、右手に未婚用の白いワンピースをまとった少女たち。左手に貫頭衣の上着をまとった少年たちが、ワイ(合掌礼)や握手で出迎えてくれた。
あとは、舞台に居並んだ教会バンドの先導による賛美歌斉唱、神父による漫談みたいな説教などをゲスト自身で楽しんでもらうことになる。
昼前に戻ってきた美嶺さんによれば、英語を喋る女性が隣に座って通訳などの世話を焼いてくれたそうだ。
音楽は楽しく、説教のときには爆笑続き。
司会者に紹介され、満場の拍手を受けるなどなかなかに愉快な時間だったという。
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暑さがやや和らいだ午後3時頃、女将のラーが「村の友だちの家巡り」にゲストを誘い出した。
4時半頃になって、近所の娘メイが白いワンピースのカレン服を手にわが家を訪ねてきた。
「彼女はどこに行ったの?」
「ラーと一緒に村巡りに出かけたよ。どうしたんだい?」
「教会で彼女と知り合ったから、このカレン服を見せてあげようと思って」
「ああ、教会で世話をしてくれたのはキミだったのか。ありがとうね」
そこへ、二人が戻ってきた。
ラーは、村歩きの途中で美嶺さんが買い取って特別料理を依頼したという鶏をぶら下げている。
羽むしりのための湯を沸かして戻ってみると、いつ間にか美嶺さん、白いワンピースを身にまとっている。
「あれ、買ったんですか?」
「いえいえ、プレゼントしてくれたんですよお!」
へええ!?
織りや柄付けに時間がかかるので、売ればそこそこの値段が付く。
それに普段は笑顔を見せない無愛想な娘なので、心底驚いた。
よっぽど、気持ちが通じ合うところがあったのだろうなあ。
ふたり並んで写真を撮ると、メイは私にとって初めての笑顔を見せてくれた。
あの普段の膨れっ面は、シャイな故だったのだろうか。
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美嶺さんのリクエストによる特別料理「トムヤムガイ(トムヤム味の鶏鍋)」と「トムソムガイ(レモン味鶏鍋)」ができあがった。
トムソムは口に合ったものの、唐辛子と胡椒が利いたトムヤムガイは彼女にはちょっと辛過ぎたようだ。
食べ慣れた私の頭からも汗が吹き出してくる。
女将のラー、気合いが入るとついつい、いつも自分たちが食べている味を試してもらいたいという思いに駆られてしまうようなのだ。
ナッケー!(カレン語で困ったもんだ)
それにしても、生きたまま自分が買い取った鶏が、数時間後にはこうやって料理になり、自分の胃袋に入るという体験は生まれて初めてのことだろうなあ。
本当は、首を絞め、羽をむしり、丸焼きにし、腹を割きという手順を見ればもっと強烈な体験になったのだろうが、美嶺さん、メイに誘われて散歩に出てしまったのだった。
お~っと、食欲に負けてまたまた料理の写真を撮り忘れてしまったわい。
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晩飯のあと水浴びを済ませると、今夜も「母ちゃんと娘」はひとつ毛布にくるまってテレビドラマを眺めている。
実は、ついさっきまで母ちゃんの方は隣家の従姉と腹ごなしの口喧嘩をしていたのだ。
隣家の家族喧嘩の仲裁に入ったところ、売り言葉に買い言葉で息子の悪口を言われ、発火してしまったらしい。
「ラーさん、あんなに息子さんたちのこと愛しているから、そりゃあ怒るのも無理ないですよねえ」
いつまで経ってもじゃじゃ馬気質が抜けない46歳の女将と。
それをおっとり悠然と受け止める21歳の美嶺さんと。
まったく、どっちが母ちゃんでどっちが娘か分りゃあしない。
やれやれ。
*
「こんなにのんびりできて、その上いろんな珍しい体験ができるなんて思ってもいませんでした」
そんな嬉しい言葉を残して、翌朝8時のバスで美嶺さんはチェンマイに向かった。
休暇は今日で終わり。
夕方早めの便でチェンマイ空港を発ち、乗り継ぎでシェムリアップに戻るのだという。
懐かしきアンコールワットに、よろしく伝えてくださいな。
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