長い雨季も、いよいよ最終段階に入ったようだ。
抜けるような快晴とどんよりとした曇り空が交互にやってきて、時おり最後っ屁のようなスコールを降らせる。
空を睨みながらゲストをガイドするタイミングもなかなか難しいのだが、オムコイの空はなかなかに心優しく、まったく外に出られないというようなことは一度もなかった。
ところが、バンコクの爆破事件以来、どうも客足が伸びない。
キャンセルも続いた。
最近では、バンブーハウス上空に大量の閑古鳥が乱舞するようになり、番頭さん一家、明日のおかずにも窮する惨状だ。
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そこで、自ずと食糧調達に奔走することになる。
今日のおかずは、田んぼで採れたタニシ料理だ。
わが村のそれは、日本のそれよりもひとまわり大きい。
まずは数日水に浸けて砂や泥を吐かせ、それから大振りの山刀で尻の部分を叩き切る。
味が染みるように、それからその切り口から身を吸い出すためである。
子供の頃に母親が味噌汁仕立てで料理してくれた時には、そんなことはせず、爪楊枝や針で蓋の下を刺して丸まった身を切れないように引っ張り出していたものだ。
それが、また楽しみでもあった。
その点、村のやり方は乱暴でもあるが、かなり合理的とも言える。
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さて、料理の見かけはただの野菜煮込みスープのように思えるが、その過程は実に大変だ。
まずは、米をビール瓶でゴリゴリと擦り潰さなければならない。
そして、それをフライパンでキツネ色になるまで炒る。
鍋の湯が沸騰したところでタニシを放り込み、やや煮立ったところでこの炒り米を混ぜる。
掻き回しつつ、唐辛子、胡椒、各種香草、薬草、生姜などを搗き込み、調味料をこしらえる。
丸ナスや緑野菜を投入したところで、この手のかかる調味料を加えて、最後にまた香草で味を整える。
いわば、タニシ版のゲーンカブワッなのだが、時計を見るとすでに2時間以上が経っている。
やれやれ。
*
さて、スープの味は唐辛子と胡椒と香草が利いて実に香ばしい。
野菜にも味が染み込んでいる。
そこで、おもむろにタニシをつまみ、尻の割れ目から身を啜り込む。
ところが、いくらチューチューやっても身がなかなか出て来ない。
あちゃーっ。
番頭さん、超特急で叩き割ったものだから、切れ目が狭過ぎたようだ。
やむなく針を持ち出して来て、蓋の下に差し込み、慎重に身を引っ張り出す。
クルリンとした形のまま、出てきた、出てきた。
ああ、懐かしいなあ。
シジミのような味も、きわめてよろしい。
*
まあ、尻から身を吸い出すのも確かに早くて合理的だが、タニシはやはりこうしてクルリンと引っ張り出す方が、上品で、しかも味わいが増す、ような気がする。
カレン族と日本人。
同じタニシ料理にしても、やはりこんだけの違いがあるんでございますよお。
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タニシ、懐かしいですね大昔食べましたw
今年の12月頃お邪魔したいのですが
食べられるかな?
初めまして。ご愛読、ありがとうございます。さて、このタニシは田んぼのものなので、刈り入れの済んだ12月には採れません。では、お会いできることを楽しみに。