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IDE Lab.

北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

Person Centered Approachと体験過程療法の国際学会(WAPCEPC)@NYC

2016-07-24 23:37:45 | 学会
数日前からニューヨークで開催されているPerson Centered Approachと体験過程療法の国際学会(WAPCEPC)に参加しに行ってきました。



https://www.pce-world.org/

Rogersに始まるPerson Centered Approachとそこから発展してきた体験過程療法,Focusingを中心にした心理療法の国際学会で,2年に1度,開催されています。
国際学会と言っても欧米,南米の方,あとは日本からの参加者がほとんどです。残念ながら,それだけ今,世界ではPerson Centered Approachが盛んではないということなのだと思います。
数年前にドイツのポツダムで初めて発表して,ベルギーのアントワープに続いて,今回は3回目の発表でした。

今回は日本のケースカンファレンスの現状と問題を報告し,その問題に対する解決策としてPCAGIPによるケースカンファレンスの意義と効果検証について発表しました。残念ながらあまり多くの方に聞きに来てはいただけませんでした。なかなか日本のようなケースカンファレンスの問題は感じられていないのかもしれません。周囲の目を気にしたり,批判的になったりするというのは日本で強い傾向なのかもしれません。
それでも海外の大学でセラピストを養成している先生からは集中講義などで日本の大学に行くと,とてもこうした問題を感じるというコメントも頂きました。PCAGIPのような新しいカンファレンスの形を深めていくには,同時にこれまでのカンファレンスの問題点などをきちんと整理していくことも必要だなと思いました。



自分の発表の他にもいくつかの発表に顔を出しましたが,その中でもメインだったのはFocusingの創始者であるGendlinの講演でした。でも,これも残念なことにGendlinは体調の問題なのか会場に来ることができずに電話での登壇になりました。もう,ずいぶんお歳のようです。電話の声はとても聴きとりづらくて何を話しているのか,ネイティブでない私たちにはよくわかりませんでした。

学会全体を通して感じたのは盛り上がりに欠けるなぁということでした。
10年ほど前にドイツのポツダムで開催された時には,カンファレンスセンターにみんなで宿泊して,夜にパーティをしたり,テラスで勝手に飲み会を開いたりしてお祭りのような雰囲気で学会の日程が進んでいきましたが,今回は場所柄もあるのか,そんな時間もありませんでした。参加者も少なかったし…
運営も正直,あんまりよくなかった。

次回はオーストリアのウイーン。
その次はニュージーランド。
どうしようかな。次は別の学会にしようかな…

何はともあれ,最も知ることができたのはPCAがだいぶ盛んではなくなってきているんだな,ということでした。


福祉心理学会@筑波大学

2016-07-03 18:29:55 | 学会
日本福祉心理学会の大会が筑波大学で開催されました。
今回はポスター発表と自主シンポジウムをやりました。

自主シンポジウムでは前の国立武蔵野学院院長で厚労省の専門官もされてた相澤先生に指定討論者になっていただき、社会的養護の子どもの育ちを支えるというテーマについて話し合いました。

このテーマで話すと、いかに子どもたちに時間的な展望をもってもらうかということが大切なテーマになってくるかがよくわかります。

来年は@九州です。


乳幼児精神保健学会@弘前

2015-10-31 20:48:41 | 学会
弘前で開催された「乳幼児精神保健学会」に参加しています。
この学会に参加するのは初めてです。




慶應医学部の渡辺久子先生が会長をされている学会で,以前から参加したいなぁと思っていましたが,今回,来賓講演にハーバード大学のMartin H. Teicher先生が来られ,福井大学医学部の友田明美先生も講演されるということだったので,参加してみました。Teicher先生は児童虐待の影響を脳科学の観点から捉える研究の第一人者です。友田先生はTeicher先生のもとに留学され,一緒に研究されていたそうです。友田先生は『いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳』(診断と治療社)という本を書かれています。

児童虐待が子どもたちの脳の発達に影響を与えるということは,杉山登志郎先生も『子ども虐待という第四の発達障害』(学習研究社)という本の中で述べておられますし,以前から指摘されてきたことでした。
確かに虐待を受けた子どもたちと関わっていると,ADHDやASDのような特徴を持った子どもたちに多く出会います。感覚的には一般の子どもたちに比べると多いなぁという感覚です。杉山先生や友田先生の本を読むと,「そうだよなぁ」と納得のいくところが多いです。

一方で,そうした本を読んでいると,疑問も感じます。それは,虐待を受けた子どもたちがみんなそうだ,というわけではないことです。信じがたいような虐待を経験してきたのに,ADHDやASDのような特徴を示さない子どもたちもいます。被虐待が脳に影響を与えるとすれば,彼らもダメージを受けていると考えるのが普通ですが,そうではない彼らの姿を見ると,「すべて脳科学で説明できるわけではないのではないか?」という疑問(と,臨床心理学者としての意地のようなもの)も湧いてきます。脳の発達に障害や問題があるけれど,症状化,行動化せずにいる子どもたちもいるのではないか?逆に,脳には異常が表われていないけれど,症状化,行動化している子どももいるのではないか?ということを考えてしまいます。

そうした疑問もあったし,一度,本を書いた人の話をきちんと聞いてみたいと思ったので足を運んでみました。
Teicher先生の講演は英語だったので,おそらくちゃんと理解できたのは6~7割くらいです。特に脳科学に関する専門用語はよくわからないところもありました。領域が違うと専門用語も異なってくるのでなかなか難しいです。それでも,今日の講演を聞いて学んだこと(再認識したこと)は,今の遺伝学や脳科学がepigenetics(エピジェネティクス)の考え方に乗っかっているんだということです。
従来,「遺伝か,環境か」の二者択一で考えられてきた決定因が,「遺伝も,環境も」という相互作用説,輻輳説が優勢となりました。その中でも相互作用説の考え方は,遺伝に環境が影響を与えて様々な特徴が発現するというものでしたが,epigeneticsでは,遺伝子と環境が相互作用し,その結果,特定の遺伝子のスイッチが入り(あるいは潜在的にその人の持っていたある特徴が)顕在化する。さらにそれが環境の影響を受けるというような考え方になるようです(あってるのかな?)。

つまり,単純に受けた虐待(環境)によって,何らかの問題が生じるということではなく,虐待によって特定の遺伝子のスイッチが入り,そこにさらに虐待が影響し,問題がより顕在化していくということなのでしょう…。基調講演では渡辺久子先生が,胎児期(やもっとそれ以前)の子どもへの環境因のお話もされていました。それは単に,たばこやお酒といったような要因ではなく,「風土」という言葉で表現されるような,文化や気質,価値観など感覚的なものとして表現されるものでした(「内臓感覚」という言葉も使われていました)。
脳の発達という1つの目に見える形に表れている「結果」も,単純に「虐待の結果そうなった」というよりも,もっと複雑なことなのかもしれません。Teicher先生も友田先生も,脳科学の分野から脳の発達に特異な部分が見られるという観察された結果については言及されていましたが,それが単純に虐待からの直線的な矢印によって起きているとは話しておられなかったように理解しました。むしろ,虐待は「スイッチ」のようなものだと捉えるといいのかもしれません。

ちょっと複雑なお話です。ただ,個人的にはすっきりと割り切れるお話よりも,信頼性があるなぁと感じました。

「人間だもの」

科学者がそういってしまってはいけないのかもしれませんが,やっぱり,人間って複雑なんです。
複雑なものを複雑なまま研究し,語ることができるようになれたらいいなと思いました。
それに,今,研究しているテーマの1つである「レジリエンス」について考えるとヒントももらえた時間になりました。

今回はちょっと難しい内容の記事になりました。
弘前城の横には文化財の建物を使ったスターバックスがあります。
ちょっとリフレッシュして帰りました。



友田先生,熊本の人だったようで,話を聴きながら懐かしい熊本弁のなまりを懐かしく聞いていました。
弘前の言葉は,よくわからなくて,アウェイ感を感じていたので…

第13回福祉心理学会

2015-10-12 13:39:31 | 学会
昨日,今日と2日間,日本福祉心理学会第13回大会が開催されました。
今回は,自主シンポジウムとポスター発表をしました。

自主シンポジウムのテーマは『社会的養護を要する子どもの心理的成長を支える』でした。
これまでAttachmentやトラウマといった,どちらかと言うとマイナスからの回復に焦点が当てられてきましたが,今回はもう少し強みやレジリエンスといった側面に焦点を当ててみようとする試みでした。

今回は企画者と司会者を務めさせて頂き、九州女子大学の大迫先生、国立武蔵野学園の大原先生、児童養護施設チルドレンズホームの綱川先生に話題提供をしていただきました。また、指定討論者には学会の理事長である東京家政大学の網野先生にご登壇頂きました。

福祉を表す言葉としてwellfareという言葉が使われますが,これはどちらかと言うと,人並みの生活を保障しようという考え方です。
それに対して,well beingはより良い生活を目指そうとする考え方です。
どちらも大切ですが,福祉心理学という学問の領域では,今後特に,well beingについて考えていく必要があることを再認識しました。



ポスター発表のテーマは『児童養護施設で暮らす中高生児童のレジリエンスの様相』でした。
近年,レジリエンスの重要性が強調されるようになってきていますが,施設の子どもたちのレジリエンスに関する調査はほとんど行われていませんでした。日本で施設の子どもたちのレジリエンスを調査した初めての研究結果です。







福祉心理学会は小さな学会なので,毎回,なじみの方ともお会いできて,たくさんエールを頂けます。
他の方の発表も面白かったです。研究者と臨床家がいい感じで混ざっているなぁと思います。
今回も刺激とエールを頂きました。

日本心理臨床学会春季大会@下関

2015-05-31 21:11:01 | 学会
下関で開催された日本心理臨床学会春季大会に参加してきました。
春季大会は研究発表ではなく,ワークショップやシンポジウムが行われます。

今回は恩師である村山正治先生と神田橋條治先生の対談が催されました。
大きな会場を大勢の人で満たして行われた対談はあっという間の1時間半でした。



村山先生と出会ったのは19歳の頃。学部生の頃に臨床心理学の授業を非常勤で教えに来てくださっていた時でした。
いつも落ち着きなくそわそわしながら話をされたり,ワイアレスマイクの電池ボックスの方を口に持っていって話し始めたり,面白い先生だなぁと思っていた記憶がありますが,肝心の授業の内容はあんまり覚えていません。
たた,いつも「君たちはどうなりたい?」ということを問いかけて下さっていたり,コメントペーパーに丁寧に答えてくださっていたことはよく覚えています。あのころのことを振り返ると,授業を受けていたというよりも,カウンセリングを受けていたような感覚です。
自分もあんな授業がしたいなと思います。


対談のテーマは『心理臨床家をどう育むか』でした。
“村山正治”という偉大な(でも,全くそう思わせない)ファシリテーターの姿に触れさせて頂いてきたこの20年間を振り返りながら話を聞いていました。
幸せな時間でした。

対談の中で,神田橋先生が『心理臨床の学び方:鉱脈を探す,体験を深める』を紹介してくださいました。
「みんな,好き勝手なこと書いていていい」と。
気恥ずかしいような気持ちと嬉しい気持ちでした。

会場に設けられていた書店では多くの方にご購入いただき,書店が持って来ていた本は完売だったそうです。
ありがとうございます。