→②より続き
第 九章は、「裁判官を縛るムラの掟」と題して、寺西裁判官分限事件を取り上げている。裁判所内部の「ムラの掟」に背き、国民にとって有用な問題提起の声を上 げた裁判官が、異端者としてどのような処分されたか、そして、その場合、救済の道が不存在であることについて、書かれている。
第十章は、最高裁裁判官の国民審査を巡る大法廷判決(最高裁昭和27年2月20日)を、ダメ判決として挙げている。「×」をつけない白票の場合、非罷免票(裁判官を支持している投票)として扱われる現行審査手法について、最高裁が、「全員一致」で、「是」とした判決である。
「本来、国民審査は、国民が裁判所に対して直接に意見を言える、数少ない貴重な機会である。それなのに、ひっそりと目立たない存在になっている。その大きな要因が、国家機関の思惑の一致にあるように思えてならない。」と、著者であるチームJは語る(太字-引用者)。
読み易く、面白い本である。
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八幡製鉄政治献金事件 に話を戻し、その概要を記す。
昭和35年3月14日、八幡製鉄の代表取締役Yら2名は、会社の名において、自由民主党に対し、政治献金として350万円を寄付した。これに対し、同社の株主Xが原告となり、会社の蒙った損害(350万円と遅延損害金)を賠償せよと、Yら2名を被告に、株主代表訴訟を提起した事件である。
第一審 (東京地判昭和38年4月5日。判時330号29頁)は、
「本
件行為は、自由民主党という特定の政党に対する政治的活動のための援助資金であるから、特定の宗教に対する寄付行為と同様に、到底・・・一般社会人が社会
的義務と感ずる性質の行為に属するとは認めることができない。政党は、民主政治においては、常に反対党の存在を前提とするものであるから、凡ての人が或る
特定政党に政治資金を寄付することを社会的義務と感ずるなどということは決して起り得ない筈である。」と述べ、
会社が、特定政党に対し、政治資金寄付行為(政治献金行為)をなすことは、定款所定事業目的外の行為に当たり、定款違反および取締役の忠実義務違反行為を構成すると論拠付け、代表取締役両名は、損害賠償義務を免れないとして、原告X(株主)の請求を認めた。
第二審(東京高判昭和41年1月31日)は、逆に原告X(株主)を敗訴とした。会社は、個人と同様に一般社会の構成単位であることから、社会に対する関係において有用な行為は、株主の利害との権衡上の考慮に基づく合理的な限度を超えない限り、取締役の忠実義務違反を構成しないと判示した。
最高裁(昭和45年6月24日大法廷判決)は、原告X(株主)の上告を棄却した。
最
高裁は、会社は「自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他の構成単位たる社会的実在」なのであるから、「ある行為が一見定款所定の目的とか
かわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは会社の当然になしうる
ところである・・・」。
→④に続く