ヒデ系の瞳

平和憲法尊守

教科書は誰のもの ①~④

2011-10-25 | 歴史史観
 来年度から使われる中学校の教科書で、侵略戦争を美化し憲法を敵視する育鵬社の歴史と公民の教科書の採択率がそれぞれ約4%になりました。前身の扶桑社版歴史教科書の約0・6%(2009年)から大幅増です。育鵬社版教科書とは何なのか。どのように採択されたのか、採択を許さない運動は・・・。

教育再生機構 戦前の政治・教育への回帰

 育鵬社の教科書は【日本再生機構】(八木秀次理事長)と、同機構が事務局となっている【教科書改善の会】(屋山太郎代表世話人)が事実上、つくりました。再生機構と改善の会は、今回の採択を「大躍進」としています。
 日本再生機構とはどんな団体なのでしょうか。同機構は「歴史と伝統を否定する『戦後教育』が、60年以上にわたって深く国民の心と体を蝕み(むしばみ)」(結成呼びかけ文)と、戦後の民主的な教育を攻撃しています。

「中枢侵す」
 呼びかけ文はさらに、「(戦後教育が)ついには国家の中枢を侵すにいたった」(同)とのべています。戦後の日本で積み上げられてきた民主主義や人権の尊重といった当然のことまでを、国家が「戦後教育」に侵された結果だとして否定するのが機構の立場です。
 例えば、八木氏は著書『国民の思想』や『公教育再生』の中で、日本政府も批准した子どもの権利条約をあげて、「『子どもの権利』が子どもをダメにする」と非難。分かる授業、楽しい授業をめざすことまで「子ども中心主義」とレッテル貼りして攻撃しています。

「自虐史観」
 その一方で八木氏は、教育を通じて国民を天皇への忠誠と侵略戦争に駆り立てた【教育勅語】を、「知識偏重への憂慮から出された」などと大きく評価するのです。
 八木氏は【ジェンダーフリー】(男女の社会的差別をなくすこと)の考えへの攻撃も繰り返しています。国連の女子差別撤廃条約について「アメリカの左翼が国連に入って策動して条約をつくらせた」と中傷。全会一致で成立した日本の【男女共同参画社会基本法】を「『ジェンダーフリー』が全国に蔓延する」きっかけになったと非難し、男女平等を願う流れに敵対しています。
 さらに再生機構や教科書改善の会は、侵略戦争への反省の立場にたつことを「自虐史観」と攻撃します。
 しかし、日本が起こした戦争が侵略戦争で、アジア諸国民に甚大な被害を与えた許されないことだったとの認識は、国際的には当然のことです。日本政府も「植民地支配と侵略によって、とりわけアジア諸国の人々にたいして多大の損害と苦痛を与えた」(1995年、村山富一首相=当時=談話)とのべ、「反省とおわび」を表明しています。
 それを否定するのが機構の主張です。

「日本会議」
 再生機構と密接な関係にあるのが改憲団体「日本再生」です。
 機構の役員をみると日本会議の役員との兼任が目立ちます。機構の顧問である石井公一郎・ブリヂストンサイクル元社長、小田村四郎・元拓殖大学総長、廣池幹堂・モラロジー研究所理事長はそれぞれ日本会議の顧問、副会長、代表委員を務めています。一方、日本会議の椛島(かばしま)有三事務総長は「教科書改善の会」の代表委員、小堀圭一郎副会長は再生機構の代表委員です。他にも機構と会議両方の代表委員を兼ねている人物が8人もいます。
 日本会議は憲法改悪、天皇中心国家の再建をめざす人々が糾合してつくった団体です。今回の教科書採択に向けても、育鵬社版教科書採択のために地方組織を動員しました。
 再生機構が否定するのは侵略戦争への反省と戦後民主主義であり、「再生」しようというのは戦前の教育と国家体制です。それは育鵬社版歴史・公民教科書に鮮明に表れています。

侵略戦争を゛自衛のため〝
育鵬社歴史教科書

 育鵬社版の歴史教科書は太平洋戦争について、「日本は・・・この戦争を『自存自衛』の戦争と宣言」と書いています。日本はやむを得ず戦争をした、日本の戦争は「自存自衛」のためだった―と描こうとしているのです。

「自存自衛」
 育鵬社版の前身である扶桑社版歴史教科書の教師用指導書を見ると、この教科書で何を教えようとしているのかが鮮明にわかります。指導書に書かれた授業の具体例では、教師が「日本の戦争の目的はなんですか」と問いかけ、生徒に「自存自衛」と答えさせることになっています。
 日本の戦争が領土拡張と外国支配のための侵略戦争であったというのは、戦後の国際社会や日本国憲法の前提になっている認識です。育鵬社の教科書はこれを否定しようとしています。
 他社の教科書は日本の戦争目的が侵略と資源の強奪であったことを明確に書いています。
 「日中戦争が長期化していた日本は・・・東南アジアに武力による南進を始めました。・・・石油やゴムなどの資源を獲得しようとしたのです」(東京書籍)
 「日本は・・・石油などの資源を求め、東南アジアへ軍隊を進めようとしました」(帝国書院)
 さらに育鵬社の歴史教科書は、日本の戦争が「東南アジアやインドの人々に独立への希望をあたえました」と書いています。欧米の植民地支配からアジアの国々を解放することが戦争の目的だったと描き出そうというのです。
 事実はどうでしょうか。
 日本は台湾や朝鮮を植民地にし、アジアの国々を次々と占領しました。現地の資源を収奪し、過酷な労働を強い、虐殺まで行いました。他社の教科書はそのことを次のように書いています。
 「アジアの人々は、当初、日本軍に植民地解放の期待をかけました。しかし、占領地では、住民に厳しい労働をさせたり、戦争に必要な資源や米などの食料を強制的に取り立てたりしたほか、占領に反対する住民を弾圧することもありました。このため、ベトナム・フィリピン・ビルマなどでは、日本軍に抵抗し、独立を目ざす運動が強まってきました」(教育出版)
 「当初は日本軍を解放軍として歓迎した民衆や政治指導者も、のちには日本を新たな支配者ととらえるようになり、占領地では抗日闘争がくり広げられた」(清水書院)

日本軍美化
 育鵬社版歴史教科書は沖縄戦の書き方も特異です。
 「日本軍は沖縄県民とともに必死の防戦を展開し、米軍に大きな損害をあたえました」
 沖縄の民衆を戦争に巻き込んで多数の犠牲を出した日本軍を美化するものです。さらに、「米軍の猛攻で逃げ場を失い、集団自決する人もいました」とし、「自決」を強制した日本軍を免罪しています。
 若者に犠牲を強いた「特攻隊」を美化するコラムもあります。日本は悪くなかったと侵略戦争を美化・合理化する育鵬社歴史教科書は、子どもたちに死を恐れずに戦争に行けと教えることにつながります。

大日本帝国憲法を美化
育鵬社公民教科書

 育鵬社公民教科書の最大の特徴は憲法の扱いです。
 育鵬社版は戦前の大日本帝国憲法を「アジアで初めての本格的な近代憲法」と評価。「古くから大御宝(おおみたから)と称された民を大切にする伝統と、新しく西洋からもたらされた権利思想を調和」されたものとしています。

天皇が絶対
 しかし、大日本帝国憲法は、天皇を絶対的な権力者とし、国民をその「臣民」(臣下としての民)と位置づけていました。「臣民」の権利は法律の定めた範囲でしか認められませんでした。
 他社の教科書は詳しく書いています。
 「天皇が主権者と位置づけられ・・・国民の権利は、天皇が恩恵としてあたえられる『臣民の権利』とされ、どの程度保障されるかは法律で決めることができました。政府を批判する活動や本の出版が禁止されたりしました」(日本文教出版)
 「天皇が主権をもち、その地位は神聖なものとされました。国民にはいくつかの自由や権利が認められていましたが、その範囲を法律で制限できるとしていたことから、人権の保障は不十分なものでした。・・・1925年に治安維持法が制定され、思想や言論が厳しく制限されました」(教育出版)
 育鵬社版は、大日本帝国憲法を持ち上げる一方で、現在の憲法については、GHQ(連合国軍総司令部)にむりやり受け入れさせられたように描いています。
 現憲法が定めた平和主義の扱いも育鵬社版は特異です。一応「平和主義」のタイトルで見開き2ページを使っていますが、その3分の2は自衛隊にかんする記述です。さらに、各国の憲法を引き合いに国民の「国防の義務」を強調しています。
 他社の教科書は、平和主義が侵略戦争への反省に基づいたものであることを明確に書いています。
 「日本は、第二次世界大戦において、他の国ぐにの多数の人々を殺傷し、莫大な被害をあたえた。またわが国の多くの人びとが戦場で兵士として死傷し、戦闘に加わらなかった無数の人びとも、傷つき命を失った・・・この認識と反省のうえに、日本国憲法は戦争放棄を定め、国民の大多数がこれを支持した」(清水書院)

改憲に導く
 一方で育鵬社版は、わざわざ「憲法改正」という項目を設け、2ページをさいています。「各国の憲法改正回数」という表を載せ、「各国では必要に応じて比較的ひんぱんに憲法の改正を行っています」と説明。「自衛隊がPKOなど他国軍と共同で活動しているときに、万が一、他国軍が攻撃された場合でも、日本の自衛隊は相手に反撃することができないとの指摘があります」と書いています。中学生を改憲に誘導する意図がみえます。
 大日本帝国憲法を美化し、現憲法の改悪へ誘導する公民教科書。戦前の政治・教育への回帰をめざす日本教育再生機構の狙いが端的にあらわれています。
 子どもと教科書全国ネット21の俵義文事務局長は「『つくる会』系教科書は子どもたちのためにつくられたものではない。政治運動の道具としてつくられたものだ」と指摘しています。

自民党「本気」の介入
安倍氏祝福メッセージ

 9月21日。台風15号が日本列島に上陸し、大きな被害を出したこの日の夜、東京都内で「育鵬社版教科書の採択報告と懇親の夕べ」が開かれました。主催したのは、実質的に育鵬社版教科書をつくった日本教育再生機構と教科書改善の会です。

党をあげて
 育鵬社版教科書「大躍進」の祝賀会であるこの夕べに、自民党の安倍晋三元首相が祝福のメッセージを寄せました。「日本人の美徳と優れた資質を伝える教科書が今後4年間で約25万名の子供たちの手に届くことになったのは、教育再生の基盤となるものと確信します」
 自民党が育鵬社版教科書の採択に党をあげて手を貸したことを象徴するできごとです。
 安倍元首相は5月に教育再生機構などが開いた「育鵬社教科書出版記念行事」に参加してあいさつ。「育鵬社が今夏の採択で大きな成功を収めるように、一緒になって頑張りましょう」(教育再生機構の機関誌『教育再生』6月号)と露骨に育鵬社版の採択率アップを呼びかけました。
 育鵬社への支援は安倍氏の個人的な行動にとどまりません。
 同党は5月、全国に向けて「中学校教科書への取り組み」についての通知を出しています。再生機構は『教育再生』7月号にその通知の内容を掲載。「自民党が今回は教科書で本気だ」などと書いています。
 それによると通知は、中学の歴史・公民教科書の大半は「教育基本法の理念・精神が十分反映されたものとは言えず、誠に遺憾」とし、「首長らに『自衛隊を違憲とする教科書についてどう思うか?』などと率直に考えをただす」ことなどを地方議員に求めています。
 自民党はさらに政務調査会発行のパンフレットを「議会質問用参考資料」として地方議員向けに出しています。「国旗・国歌」「自衛隊」「拉致問題」などについて、事実上、育鵬社が有利になるような質問例を掲載し、地方議員が議会で取り上げるように指示したものでした。

議連が総会
 2月には自民党の国会議員有志でつくる「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(通称・教科書議連)が総会を開きました。
 同議連は1997年に結成され、日本軍「慰安婦」の記述をなくすよう教科書会社に圧力をかけるなどしてきました。今夏の教科書採択に向けて活動を再開したのです。
 同議連の新会長となった古屋圭司衆院議員は4月22日の衆議院拉致問題特別委員会で民主党の中野寛成拉致問題担当相(当時)に、育鵬社の公民教科書の拉致問題に関する記述を示し、「どういう印象をもつか」と質問。中野担当相は「育鵬社、よくここまで書いていただいたなという意味では敬意を表したい」と答えました。
 再生機構はさっそく『教育再生』5月号にこのやりとりを掲載。宣伝に利用しました。
 地方議会でも日本会議地方議員連盟のメンバーらが中心になって自民党のパンフレット通りの質問。「改正教育基本法の目標を達成するために、最も適した教科書の採択を求める決議案」などを出し、圧力をかけました。
 育鵬社版教科書は自民党の不当な介入の中で、各地で採択されたのです。

(つづく)

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