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【チェ・ゲバラ 最後の真実】 チェがフィデル・カストロへ宛てた手紙

2013-06-04 | 歴史史観

【チェ・ゲバラ 最後の真実】
「執念」の決定版ゲバラ伝
チェの遺体を検分し、その死が暗殺であったことをいちはやく世界に知らせて祖国を追われた著者が、膨大な資料、多数の生存者の証言を集大成して、革命家チェ・ゲバラの「生」と「死」を再構成した労作。知られざるエピソード、未紹介写真を満載。
武田ランダムハウスジャパン

第2章 チェはなぜ表舞台から姿を消したのか。>

 1965年4月、アフリカとアジア訪問の旅を終えキューバに帰国していたチェは、突然、表舞台から姿を消した。
 チェが公の場に姿を見せなくなって数週間が過ぎた頃から、マスコミは、チェがなぜ政府の公式行事に参加しないのかその理由についてあれこれと取りざたするようになった。「チェは捕虜になった」「チェは精神病院にいる」「フィデル・カストロがチェの殺害を命じた」「チェはコロンビアでゲリラ戦を指揮している」「チェはペルーのゲリラ戦で死亡した」等々。ついにチェは、ラテンアメリカのおよそ8つの国で死んだことにされてしまった。
 なぜ、チェは姿を消したのか。
 それは、自らのゲリラ戦を行うためである。米国の圧政に苦しむ人々を救いたい、それがチェの願いだった。
 1964年12月、国連総会が開催され、チェはキューバ代表として演説を行った。これが、チェが出席した最後の国連総会となったわけだが、チェは演説の中で、世界中、どこであろうと帝国主義と戦うという自らの意思をはっきり示している。
 1965年に入ると、チェはコンゴでのゲリラ戦に参加する準備を整えるために、アフリカへの訪問を行った。その後コンゴに潜入し反乱に参加するが、数ヵ月後には、敵側に捕らえられる恐れがあったために撤退を余儀なくされた。チェがコンゴから向かった先はタンザニアの首都、ダルエスサラームだった。
 1965年4月、チェは3通の手紙を書いた。1通はフィデルに、もう1通は両親に、最後の1通は子どもたちに宛てたものである。ここにそれらを紹介する。





ハバナ 農業年に

フィデルへ

 僕の中には今、さまざまな思い出が去来している。マリーア・アントニアの家で君と初めて出会ったときのこと、一緒にやろうと僕を誘ってくれたときのこと、革命に向けて準備をしていた緊張に満ちた日々のこと。
 あの日、誰からともなく、死んだときには誰にそれを知らせるべきかという話題になって、僕たちは、死が現実にありうるのだという事実に動揺した。だが、それは本当だった。革命においては(それが本物の革命であればだが)、勝利か死か、そのいずれかしかあり得ない。そうして多くの同志が、勝利への道半ばで、死んでいった。
 今、すべてのことが以前ほど劇的に感じられないが、それは僕たちが成熟したからなのだろう。しかし、同じことが今なお繰り返されている。僕は、このキューバの地で革命を行うということに僕が負っていた責任は、これを果たしたと思っている。僕は君に別れを告げる、すべての同志に、そして今や僕のものでもある君の人民に別れを告げる。
 僕は正式に、党指導部としての職務、大臣の地位、司令官の階級、キューバ市民としての資格を放棄する。僕とキューバは法的には何の関わりもなくなる。しかし、僕とキューバとの間には、何かの辞令でつながっているのとは違う次元の絆は残る。
 過去を振り返ると、僕はキューバ革命の勝利を確実なものとするために誠実に、献身的に働いてきたと思う。僕が何か重大な誤りを犯したとすれば、それは唯一、シエラ・マエストラでの最初の頃にはまだそれほど君のことを信頼していなかったこと、つまり、君に指導者としての、また革命家としての資質が備わっているということをすぐには見抜くことができなかったということぐらいだ。なんと素晴らしい日々だったことか。ミサイル危機のときの、輝かしくも、しかし過酷な日々には、君のかたわらで僕は人民の一員であることに誇りを感じていた。あの頃の君ほどに優れた指導者などまずいまい。僕自身、ためらわずに君に従い、ものの考え方、危険や原則といったものをどう捉えてどう評価するのかというその方法についても、君のものを僕のものにできたことを誇らしく思っている。
 世界の中には、僕のささやかなこの力を必要としているところがまだ他にある。キューバに対する責任がある君にはできないことが、この僕にはできる。僕たちに、別れの時が来た。
 別れていく僕の心の中は喜びと辛さが入り混じっているということを、どうか分かってほしい。僕はここに、建設者としてのもっとも純粋な希望と、僕の愛するもののうち、もっとも愛しいものを残していく。・・・そして、僕のことを息子のように受け入れてくれた人民に別れを告げる。それを思うと、心の一部が切り裂かれるようだ。僕は、新たな戦いの場に、君が僕にたたき込んでくれた信念、我が人民が持つ革命の精神、すべての義務の中でもっとも神聖なるもの、すなわち、帝国主義があるところならばどこででも戦うという義務を果たすものだという昂ぶる(たかぶる)思いを携えていくだろう。その思いは、引き裂かれたこの胸の痛みがどれほど深くても、僕に勇気を与え、心をとっぷりと癒してくれる。
 もう一度言う。キューバはもはや、僕の行動に対して何の責任を負うものではない。ただ一つ、僕の革命家としての行動は、これまでも、これからも、キューバにその規範があるという点を除いては。僕がどこか別の地で最後を迎えるとしたら、そのとき、僕の頭に浮かぶのは我が人民、とりわけ君のことだろうと思う。君が僕にさまざまなことを教えてくれたこと、手本を示してくれたことに感謝する。そして、僕の行動の最後まで、そうしたものに忠実であろうと努力するつもりだ。僕は常に、この革命の対外政策と自分を一体化してきた。それはこれからも変わらない。どこの地にいようとも僕は、キューバの革命家としての責任を自覚し、そのように行動するだろう。僕は子どもたちと妻には物質的なものは何も残せないが、それを恥だとは思わない。むしろ、そうであることを喜んでいる。この者たちのために何かを頼むようなことはしない。なぜなら国家が、生きていくのに、そして教育を受けるのに必要なものは与えてくれるはずだからだ。
 僕はまだ、君にも、我が人民にも言い足りないことがたくさんあるのかもしれない。だが、それはもう言うまい。言葉では僕の思いを伝えることができない。だから、これ以上書く必要もないと思う。

勝利に向かって、常に。祖国か、死か。
革命家としての情熱をもって、君を抱擁する。

チェ

【チェ・ゲバラ 最後の真実】
著者 レヒナルド・ウスタリス・アルセ
訳者 服部綾乃/石川隆介
発行者 武田雄二
発行所 株式会社 武田ランダムハウスジャパン
〒101-0046 東京都千代田区神田多町2-1

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