ユーラシアの風~2010年・自転車による単独ユーラシア大陸横断記

2010年・自転車による単独ユーラシア大陸横断記

噂の中国・下等列車の乗客になる(2)

2010年08月15日 | 中国(4)烏市→喀什
(つづき)
6時間ほど経ち、相変わらずカオスが繰り広げられる車内とガラス一枚を隔てた外には、DVDで見たままの景色が広がっていた。
夕暮れが近き、金色に染まる山々と草原。馬に乗った遊牧民に追われながら、無数の羊たちが草を食む。山の頂近くには氷河が見える。美しい。美しいけど、首を90度回すと「コレ」だ。何が飛び出すか分からないこの車内が妙に気になり、車窓に集中できない。


○イヤホンはお姉ちゃんと分け合う。

ちなみに、長くじっとしているとおしりが痛くなるので、自然発生的に席替えが行われる。このためか、近くの者同士はだんだん仲良くなってくる。食べ物の交換や荷物番はこの連帯感の中で自然に行われる。ウイグル人の中には漢語が通じない人も多いが、行きずりの日本人にも笑顔でアイコンタクトしてくれる。「硬座に乗ったら回りは全員盗賊と思え」なんて言われてたのが、なんだか拍子抜けだ。

9時間以上が過ぎた。暗くなって、晩御飯(またまたインスタントラーメン)を食べ終わると皆寝る体勢へ入る。…といってもここは寝台車ではない。安眠は創意と工夫、そして少しの勇気をもって勝ち取るしかない。座席の下に布を引くのは常套手段。硬座は消灯がないので、光から逃れるにも都合がいい。座席の上は上等なベッド。ただ、限りがあるので交代だ。女の人を膝枕して寝かせてあげるウイグル紳士が多かった。あとは、普通に席に座りながら机に突っ伏したり、2階建て車なので階段の踊り場に寝たり、階段そのものでうずくまったり、荷物置き場の隙間や荷物の上、何でもありだ。

そして、こっちの人は民族問わず「触れる」ことに寛容だ。隣の人にもたれかかったり、誰かの足の上に足を置いたり、僅かな隙間があれば密着してでも強引に座る。男も女も関係ない。日本だったらたくさんの人が捕まるだろう(笑)



○お仕事でカシュガルへ向かう漢族2人と夏休みで帰省するキルギス族学生。
 乗客同士の距離が近い。


さて、すっかり夜行と化した7556列車は、「各駅停車」なので相変わらず全ての駅に停まる。小さな駅では、この列車が唯一(要するに一日一本)のため、人の出入りはそれなりにある。

車内改札で一人ずつの行き先をチェックしていた車掌は、駅が近づくと降りる人を探して声をかける。ところが、車内はもう席もクソもないので、どこに誰がいるのかさっぱり分からない。だから駅名を全力で叫ぶ。そして、乗り込んでくる客とまた喧嘩だ。夜だろうがなんだろうが怒鳴るときも全力で怒鳴る。確かにうるさいのだが、不思議なことに慣れると気にならない。

そういえば公安の巡回も一回あった。人民の身分証を全員分電子端末に記録する。ICカードになってるようで、差し込むと瞬時に写真も含めて情報が記録される。立派な管理体制だ。国民総背番号すら拒絶する日本はまだまだ国民優位だと思う。学生証は投げて返してたが、日本のパスポートはちゃんと手渡してくれた。カメラと現金の入ったミニショルダーを見て「いいもん持ってんじゃねぇか」と言われただけだ。


出発から13時間。1時を過ぎ、窓の外にはやっとコルラの街の灯が見えてきた。
起きている周りの乗客も「もう着くね」なんて気にしてくれていた。車掌も声を掛けに来た。「コルラの人あと3人いるんだけど…」もちろん、知る由も無い。程なくして絶叫のコルラコール。アラームは要らない。

かくして、1時22分。なぜか定刻どおりにコルラ到着。漢族とウイグル人にそれぞれの言葉でさよならを言い、13時間半の旅は終わった。
コルラ駅はこの時間、ウルムチ行きとカシュガル行きの列車が行き違う。真夜中でもホームには大きな荷物を抱えた人が溢れる。30分ほどの停車の後、新たな乗客を迎えた列車は、再びそれぞれの目的地へ向けて動き出す。




[結論]
ウルムチ→コルラ間の移動は、バスのほうが3倍快適です(笑)。バスの所要時間は半分。椅子は大きく柔らかく、エアコンはばっちり効くし、飯も水も付くし。料金は倍(138元=約1800円)しましたが。そのかわり乗客との交流は皆無。
列車は切符を買うのが本当に大変です。まず窓口のある建物に入るのに荷物検査と身分証チェック。その後長蛇の列に並び、横入りを防ぎ、時に押しのけ、駅員に詰め寄り、希望の列車がないときの代替案をいくつも用意し…。考えただけでも疲れる。
バスなら当日ふらっと行っても余裕で買えました。荷物検査もゆるゆるだし。心なしか係員も親切な気も。日本人と分かると微笑みかけてくれるなんて、本当にここは中国か!と噴出してしまう。もちろん、どちらも路線や地域による差は大きいと思うので、新疆の事例ということで、参考までに。


長文失礼しました。
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