EU(欧州連合)は今年1月1日からコメに含まれる「無機ヒ素」の最大基準値を設定した。すしなどコメを使った日本食は海外でも人気だが、含まれる無機ヒ素の多さから海外でコメはリスクが高いとされる食品の一つ。スウェーデンでは昨年、乳幼児にコメを与えないように勧告した。子供のときからコメを食べている日本人にはにわかに信じがたいが、コメは危険な食べ物なのか-。(平沢裕子)
■高い発がん性のリスク
問題となっている無機ヒ素は、岩石や土壌中など自然環境の中に存在する天然物。無機ヒ素による健康被害としては、森永ヒ素ミルク事件(昭和30年)や和歌山ヒ素カレー事件(平成10年)などが知られている。ただ、これらは“事件”であって、日本で無機ヒ素を「日常的に健康を脅かすもの」と考える人は少ないのではないだろうか。
一方、世界に目を向ければ、無機ヒ素による健康被害は公衆衛生上の最大の問題でもある。無機ヒ素で汚染された地下水の飲用による慢性ヒ素中毒は、インドやバングラディシュなど世界各地で発生している。慢性ヒ素中毒の症状は、嘔吐や食欲減退、発疹などだが、最も大きな健康被害になりうるのは発がん性だろう。
WHO傘下の国際がん研究機関「IARC」の発がん性の5段階分類で、無機ヒ素は最もリスクが高い「グループ1」。これは昨年、「大腸がんのリスクが高い」と話題になったソーセージなどの加工肉や赤肉と同じ分類に属し、発がん性の根拠が極めて高い物質ということを意味する。
■「乳幼児に与えないで」スウェーデンが勧告
水田で栽培されるコメは、土壌から無機ヒ素を吸収し、平均的なもので1キログラム当たり0・1~0・2ミリグラムの無機ヒ素を含むとされる。つまり、コメを多く食べる人は、健康リスクとなる量の無機ヒ素にさらされているといえる。EUがコメ中の無機ヒ素の最大基準値を設定したのは、健康リスクをなるべく減らしたいとの考えからだ。設定された基準値は、1キログラム当たり精米で0・2ミリグラム、玄米で0・25ミリグラム。
スウェーデン食品局は昨年、6歳未満の乳幼児にコメやコメ製品を与えないように勧告した。さらに、6歳以上の子供が食べる場合は週4回までとし、大人でも「毎日食べるべきではない」としている。スウェーデンは数年前にも、ライスミルク(コメベースの代用乳)を乳幼児に与えるべきではないとする勧告を出しており、それをさらに厳しくした格好だ。ライスミルクについては英国も同様の勧告をしている。
では、コメは子供に食べさせてはいけないほど危険な食べ物なのだろうか。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室長の畝山智香子さんの著書「『安全な食べもの』ってなんだろう?」では、1日3食、毎日コメを食べた場合のがんリスクを、放射能による影響と比較して「20ミリシーベルトの被曝と同じぐらい」としている。日本で食品中の放射性物質は年間1ミリシーベルト以下にすることを目指して基準が決められている。つまり、日本人が日常的にさらされている無機ヒ素の健康リスクは、食品中の放射性物質の健康リスクよりはるかに高いといえる。
■「毎日、玄米」はNG
やはりコメはあまり食べない方がいいのだろうか。内閣府食品安全委員会は「日本において、食品を通じて摂取した無機ヒ素による明らかな健康影響は認められておらず、ヒ素について食品からの摂取の現状に問題があるとは考えていない」としている。日本は世界一の長寿国。それを支えてきたのが、米飯を中心とした食文化と考えれば当然だろう。
ただ、無機ヒ素の健康リスクを知ったからには、なるべく食事からの摂取を減らしたいと思うかもしれない。農林水産省は、コメに含まれる無機ヒ素は玄米の外側についている糠の部分に多く含まれることから、白米をよくといで食べることでコメから摂取するヒ素を減らせる可能性があるとしている。
白米に比べて栄養面で優れているということで、最近は玄米食が人気となっているが、無機ヒ素を多く摂取することを考えれば、毎日玄米を食べるのはやめた方が無難といえそうだ。
http://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/160110/lif16011009330007-n1.html
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