一橋MBAブログ 「くにたち」な日々

HMBA有志による非公式リレーブログ

あたりまえを考える

2006-02-23 23:57:56 | Border Dwellerのつぶやき
春休みになったので、くにたちとは関係ない書籍の推薦でもしてみましょう。
今回お勧めするのは、高橋秀実の『はい、泳げません』(2005年、新潮社)です。自分にとって“あたりまえのこと”を、“あたりまえとは思わない人”に伝えることの難しさをしみじみ感じさせてくれます。

実は私は、今では記憶の遥か彼方となった学生時代、小学生対象の夏休み水泳教室の指導補助のバイトをしたことがあるのですが、泳げない小学生の一番の悩みが“息つぎ”でした。
「水の中で「ふーっ」(先生によっては、「ぶくぶく」とか説明していました)と息を吐き、水から顔が出た瞬間「パッ」って言いながら口を開けば自然に空気が入ってきます」という説明で、特に疑問も感じず息つぎができるようになった私にとって、息つぎのコツを教えるのは至難の技でした。肺に空気がいっぱい入っている状態では、新しい空気が入る余地はありません。水中でも、顔が水から出た瞬間でも、タイミングはどうでもいいから、とにかく「息を吐く」ことを一所懸命説明するのですが、どうにも息を吐くのは難しいようでした。どうして息が吐けないのかなぁと思いつつ、水中でジャンケン、数数え、にらめっこなど、とにかく水に慣れさせるため、いろいろなことにチャレンジしたものです。でも、息つぎができない子供にとって何が問題なのか、結局分からずじまいでした。
『はい、泳げません』には、高橋秀実さん個人の感覚ではありますが、長年の疑問に対する答えがありました。自分にとってあたり前のことって、どうしてもひとつの方向からしか見ることができなくなって、別の見方があるということすら気づかないことが多いものだなぁ、と物の見方が固定化しやすいことが実感できます。

と、ちょっとまじめに書いてみましたが、そんなことはどうでもよくて、泳げる人と泳げない人の心の行き違いが、互いに互いを思いやることでますます溝が深まり、でも、結局はちゃんと泳げるようになるという、うだうだ、だらだら、でも、ちょっとほろりとさせられる読み物です。
物の見方には多様な方向性があることを実感するには、同じ著者の『からくり民主主義』のほうが適しているかもしれません。
(Border Dweller)