ポーランド系カナダ人、ヤン・リシエツキのピアノリサイタルをオペラシティで聴いてきた。
ちょうど一年前に紀尾井ホールで聴いたときとは別人のよう。金髪の貴公子然としたたたずまいはさらに背が伸びて、時々びっくりするほど大人っぽく見えるし
技術面は元々申し分のないピアニストだが、何より演奏の、精神性の高さに感動した。内容がすごく豊かになった。
この一年で何があったのか…すごく成長している。
日本ではまだ無名に近いので、オペラシティの二階・三階席はほぼ無人状態。一階の左右と後ろもガラガラだ。
しかし、怠慢なベテランより、こういう演奏家こそ聴かれるべきだろう。大人の怠惰のすべてが後ろめたく思えるほど、渾身のエネルギーが感じられる演奏。
今回も、前半一時間を休みなくぶっ続け弾いていた。
バッハ、ベートーヴェン、リスト、メンデルスゾーン、一度も席を立たない。
そして、時代も様式も異なるそれらの作曲家の作品が、ひとつらなりの大きな音楽に聴こえたのは不思議なことだった。
これは選曲の段階で意図されたものでもあり、そこからさらに磨きをかけて完成された「雰囲気」なのだろう。
音色は多彩で、弱音の過激なほどの美しさは、去年の演奏会では聴けなかったもの。
自分のピアノの響きをよく聴いて、面白く音を重ねている。聴き手の注意を引き寄せる独特の引力をもつ音で、一時間のあいだ全く退屈しなかったのだ。
前半は、リストの「3つの演奏会用練習曲 S144」が、特によかった。
第一番「悲しみ」第二番「軽やかさ」第三番「溜め息」…とても流麗で上品、かつ内側に秘めたものを感じさせた。
彫りが深くて、大人の憂鬱さもあり、スピリチュアリティのようなものも含まれている。
そして後半。バッハの平均律クラヴィーアのあと、去年と同じショパンの作品25のエチュードを全曲弾いた。
なんと、これがとても色彩豊かで、ベルカントなエチュードであった。
リシエツキはポーランドの血をひいていることもあり、ショパンのマズルカやクラコヴィアクの拍の取り方が絶妙なのだが、
エチュードではジャズの楽しさを感じさせたり、多数の音をシンプルに聴かせる「歌曲のような」アプローチを強調していた。
去年と同じく、一曲一曲へのパワーの込め方は熾烈で、最後の10番ロ短調、11番木枯らし、12番大洋、は
聴いているこちらまでバラバラになりそうな、極限的なパフォーマンスであった。
そこまでやらないと、弾いた気がしないのだろう。
最後まで弾き切った後、またあっさり出てきて、おまけのワルツを弾き始めた。
なんだかとても飄々としている。
翌日、本人に会って色々な話を聴いたが、エチュードは演奏会ごとに生まれ変わる曲であって
二度と同じものはない、と語っていた。彼なりのコツがあり、演奏していても疲労感を感じることはないそうだ。
間近で様子を見ていると、まだ本当に10代の子どもなのだ。が、本当に強い性格をしていて
大人が子供扱いできないような、ストロングな「気」を出している。
なるほど。その点はもう「できあがっている」のだ。
ドイツ・グラモフォンからのデビュー作はモーツァルトの協奏曲の20番と21番。
リリースは2012年の春になるという。
「絶対この曲でデビューすると決めていたんだ! 」と嬉しそうな顔だった。
来年もまた、ちょうど一年後の10月にオペラシティでリサイタルを行う。
それでもまだ、17歳。
「大人もがんばろう。お酒なんか飲んでだらしなくなっている場合じゃない」と思うのでした。
※webマガジン「.fatale」のブログでも、リシエツキについて書いてみました。
さらに彼を分析してみました。
http://fatale.honeyee.com/blog/hodashima/archives/2011/10/31/16.html
ちょうど一年前に紀尾井ホールで聴いたときとは別人のよう。金髪の貴公子然としたたたずまいはさらに背が伸びて、時々びっくりするほど大人っぽく見えるし
技術面は元々申し分のないピアニストだが、何より演奏の、精神性の高さに感動した。内容がすごく豊かになった。
この一年で何があったのか…すごく成長している。
日本ではまだ無名に近いので、オペラシティの二階・三階席はほぼ無人状態。一階の左右と後ろもガラガラだ。
しかし、怠慢なベテランより、こういう演奏家こそ聴かれるべきだろう。大人の怠惰のすべてが後ろめたく思えるほど、渾身のエネルギーが感じられる演奏。
今回も、前半一時間を休みなくぶっ続け弾いていた。
バッハ、ベートーヴェン、リスト、メンデルスゾーン、一度も席を立たない。
そして、時代も様式も異なるそれらの作曲家の作品が、ひとつらなりの大きな音楽に聴こえたのは不思議なことだった。
これは選曲の段階で意図されたものでもあり、そこからさらに磨きをかけて完成された「雰囲気」なのだろう。
音色は多彩で、弱音の過激なほどの美しさは、去年の演奏会では聴けなかったもの。
自分のピアノの響きをよく聴いて、面白く音を重ねている。聴き手の注意を引き寄せる独特の引力をもつ音で、一時間のあいだ全く退屈しなかったのだ。
前半は、リストの「3つの演奏会用練習曲 S144」が、特によかった。
第一番「悲しみ」第二番「軽やかさ」第三番「溜め息」…とても流麗で上品、かつ内側に秘めたものを感じさせた。
彫りが深くて、大人の憂鬱さもあり、スピリチュアリティのようなものも含まれている。
そして後半。バッハの平均律クラヴィーアのあと、去年と同じショパンの作品25のエチュードを全曲弾いた。
なんと、これがとても色彩豊かで、ベルカントなエチュードであった。
リシエツキはポーランドの血をひいていることもあり、ショパンのマズルカやクラコヴィアクの拍の取り方が絶妙なのだが、
エチュードではジャズの楽しさを感じさせたり、多数の音をシンプルに聴かせる「歌曲のような」アプローチを強調していた。
去年と同じく、一曲一曲へのパワーの込め方は熾烈で、最後の10番ロ短調、11番木枯らし、12番大洋、は
聴いているこちらまでバラバラになりそうな、極限的なパフォーマンスであった。
そこまでやらないと、弾いた気がしないのだろう。
最後まで弾き切った後、またあっさり出てきて、おまけのワルツを弾き始めた。
なんだかとても飄々としている。
翌日、本人に会って色々な話を聴いたが、エチュードは演奏会ごとに生まれ変わる曲であって
二度と同じものはない、と語っていた。彼なりのコツがあり、演奏していても疲労感を感じることはないそうだ。
間近で様子を見ていると、まだ本当に10代の子どもなのだ。が、本当に強い性格をしていて
大人が子供扱いできないような、ストロングな「気」を出している。
なるほど。その点はもう「できあがっている」のだ。
ドイツ・グラモフォンからのデビュー作はモーツァルトの協奏曲の20番と21番。
リリースは2012年の春になるという。
「絶対この曲でデビューすると決めていたんだ! 」と嬉しそうな顔だった。
来年もまた、ちょうど一年後の10月にオペラシティでリサイタルを行う。
それでもまだ、17歳。
「大人もがんばろう。お酒なんか飲んでだらしなくなっている場合じゃない」と思うのでした。
※webマガジン「.fatale」のブログでも、リシエツキについて書いてみました。
さらに彼を分析してみました。
http://fatale.honeyee.com/blog/hodashima/archives/2011/10/31/16.html